「山本幸三を励ます会」 雑誌・リベラルタイム2月号に掲載されました
■ 山本幸三レポート 映画「華氏911」を観て


映画「華氏911」を観て ・・・ 山本幸三


1. 話題の映画「華氏911」(マイケル・ムーア監督)を観た。噂に違わず、なかなか面白かった。ドキュメンタリーではあるが、ユーモアもあって、あっと言う間に、二時間が経ってしまった。ただ、この映画は、登場人物のバックグランドを知らない日本人が観たら、その意味がよく分からないということがあるかもしれない。例えば、ジム・マクドマットという下院議員(精神科医でもある)が3回登場して、「ブッシュ政権が、テロの恐怖を繰り返すことによって、アメリカ国民の精神状態をおかしくしている。」と批判するのだが、この人を知らない日本人にとっては、「何か、よく分からん議員か精神科医が、くどくど言っていたなー。」という程度の印象しか持たないだろう。事実、そういう感想がネットに書かれている。しかし、私は、彼の親友であり、彼のことをよく知っているので、「さもありなん。」と、納得出来るのである。そうしたバックグランドを知ってこの映画を観ると、極めて興味深いのだ。これは、アメリカ政治、ブッシュ政権の何たるか、その内実を理解するには最適の教材だと思うので、―ただし、反ブッシュ一色だという偏向はあるが、私なりの解説を、試みてみたい。

2. 表題の「華氏911」は、大分前の映画「華氏451」の連想で付けられたとされている。「華氏451」は、SF映画で、情報が統制され、焚書が行われる状況を描いているそうで、「華子451」は、紙の発火点を意味しているそうだ。これをもじって、「華氏911」は、「個人の自由が燃える温度」ということになるのだろうか?なお、「華氏451」の監督は、マイケル・ムーアを、けしからんと批判しているそうだが。

3. 映画は、丁度3年前、2001年9月11日の同時テロの現場フィルムから始まる。「一体何が起こったのか?何故起こったのか?政府のお偉方は、これを防ぐ手を打てなかったのか?」と、その矛先が、ブッシュ政権に向けられる。そもそも、このブッシュ政権は、その誕生の時から、おかしかったのではないか?フロリダでは、犯罪歴のあるグループ等が選挙人名簿から外されたが、この中には、資格を回復した人達もかなり含まれていた。その多くは、黒人で、民主党支持であった。こんなことが出来たのも、知事がブッシュの弟であり、選挙の責任者もブッシュ側近だったからではないのか?yブッシュ政権は、誕生からして正当性が疑わしい。だからこそ、就任式のパレードも、激しい抗議デモに遭い、伝統的な歩行パレードさえ出来なかったのだ。そうして大統領になったブッシュは、何をしたか?遊んでばかりいたのだ。911が起こるまで、ブッシュは、時間の42%を、休暇に当てていた。ゴルフ場で、牧場で、そして別荘で。この間、テロ担当者が、「アルカイーダ・グループが、民間機を使ったテロを準備している恐れがある。」と、警告を発しても、聞く耳を持たなかったのである。後に、「報告書の表題が、曖昧だったので。」と、言い訳をしているが。

4. こんなブッシュが、緊急事態にどうするか?そう、何をしていいのか、分からなくなるのだ。そして、あの有名な、沈黙の7分間の場面が写し出される。ワールド・トレード・センターへの二回目の攻撃があった直後、これは、テロ攻撃であることがはっきりして、側近のカール・ローブ顧問が、子供達と一緒に本を読んでいたブッシュ大統領に耳打ちする。「わが国が、攻撃されました。」と。ブッシュは、一瞬ギョッとした表情を見せるが、それから何をしてよいのか分からないという風情で、絵本をめくったり、空を睨んだり,所在無げに、7分間過ごすのである。側近も、気が気でないが、大統領が動かなければ、どうしようもない。最高権力者たる者、いざという時の腹構え、身の処し方が大事なのである。下手をすれば、悲劇にも喜劇にもなる。

5. 911後、まず全米の飛行場が閉鎖される。その後、徐々に回復していくが、最も初期の段階で、オサマ・ビン・ラディンの親族を含むサウジアラビア王族関係者300人程の帰国が認められるのである。その前に、ブッシュは、サウジアラビア大使と親しく夕食を共にしており、そこでこうした取り扱いがなされることが話し合われたに違いない。FBI捜査官は、「容疑者の身内から、話を聞くのが、捜査の基本だ。」として、こうした取り扱いに疑義を呈している。
 何故ブッシュは、サウジの王族を特別扱いしたのか?それは、ブッシュ家が、サウジの王族と昔から親密な関係にあるからだ。ブッシュは、若い頃、石油採掘ビジネスに手を出すが、大体失敗していた。にも拘わらず、どこからか金が出て来て、また新しい会社を興す。よく調べてみると、金の出所yは、サウジの王族だった。彼らにとって、大統領を親に持つ、息子ブッシュに投資することは、それなりにうま味があったのである。色々な便宜を図ってもらえるのだから。こうしてブッシュ一族とサウジ王家とは、切っても切れない関係が成立することになった。オサマ・ビン・ラディンもサウジ王族の一員であり、何らかの資金援助が一族内でなされていたことは、確認されている。オサマ・ビン・ラディンが未だに捕まらないのも、こうしたことと、関係があるのだろうか?

6. それから、アフガン侵攻、イラク戦争と続いていくのだが、アフガンは、アルカイーダの基地があったので、まだしも頷けるが、イラク攻撃は、どうも胡散臭い。国連の調査委員会が、「大量破壊兵器の証拠は、見当たらない。」と発表したにも拘わらず、攻撃を強行した。初めから、イラク攻撃ありきだったとしか考えられない。元々ブッシュ政権発足当初から、ネオ・コン・グループの間で、イラクのフセインを排除すべきという声があり、911は、絶好の口実を与えてくれたのだという見方も根強い。その目的は、何か?石油利権であり、軍事特需や復興特需である。 事実、ブッシュやチェイニーなど政権の中枢が関係したハリバートン等の企業群が、イラクで大量受注しているではないか。戦争も、ビジネスになるのだ。イラクの石油利権をアメリカが握れば、中東の石油バランスが崩れてくることになる。これまで発言権を持っていた、仏・独・露にとっては、穏やかではない話だ。それでもブッシュは、行け行けどんどんだ。それで中東は、落ち着くことになるのだろうか?いや、新しい火薬庫になるに違いない。最近、原油価格が急騰しているが、こうしたこととも関係があるのではないだろうか?

7. イラクでは、一度はブッシュが、航空母艦の上で「ミッション・コンプリーティド」と勝利宣言をしたが、実のところ、上手くいっておらず、泥沼化している。兵士も、滞在が延期され続け、不平だらけだ。兵士の数が足りないのだ。 兵士を、どこから集めてくるか?不況に喘ぐ、貧しい地域からだ。マイケル・ムーア監督の故郷は、ミシガン州のフリントという小さな町だが、その典型である。かつては、自動車や鉄鋼産業で栄えたが、工場閉鎖やリストラで、町は寂れ、失業率は50%に達している。こうした地域の若者が、将来、大学に進もうと思えyば、軍隊に入って奨学金を貰うしかないのだ。早速、軍隊の採用担当者が、フリントにやって来て、若者のリクルートを始めた。言葉巧みに、誘うのだ。こうして、主に貧乏人が兵士となり、イラクに送られる。ところが、毎日、待ち伏せに遭い、人を殺しているうちに、精神状態がおかしくなる。イラクの一般人を殺すことも多く、イラク人から感謝されるどころか、憎まれるばかりだ。多くの若者が、何の為に戦っているのか分からないで、死んでいっている。この戦争は、命を賭ける価値のあるものなのか?その疑問は、どうしても拭い去れない。子供を失った親達も、割り切れない気持ちだ。本当に誇りの持てる戦死だったと言えるのだろうかと?

8. 他方、アメリカ国内では、一種の精神操作が行われているのではないか?例えば、7月の民主党大会の直後、突然、テロ情報があるとして、ニューヨークやニュージャージーの一部の危険度が黄色からオレンジに引き上げられた。しかし、2日後には、その情報は、4年前のものだったことが判明して、 「これは、情報操作ではないか」と、逆に批判されるということがあった。このように、危険度を上げたり下げたりすることによって、人間を常に緊張状態に置くと、人は、正常な判断力を失ってしまうというのである。ここで登場するのが、民主党下院議員のジム・マクドマット氏である。彼は、精神科医でもあるので、「これは、一種の巧みな精神操作だ。危険度を緑に下げるということは絶対せずに、黄色とオレンジを行ったり来たりさせることによって、常に人を緊張下に置き、思い通りに動かそうとしているのではないか?」と、警鐘を鳴らしている。私と彼とは、親友である。私は、現職時代、「日米国会議員会議」の常連メンバーだった。これは、年に2回、日米の国会議員が、14,5名ずつ出て、通訳無しで、丸二日間議論し合うというものである。どちらも超党派で、アメリカ側の共同議長の一人が、ジム・マクドマット氏なのである。彼は、大変魅力的な人物で、言ってることは極めてリベラルなのだが、控えめな口調で、ユーモアたっぷりに話しかけるので、誰もが、好感を持つのである。一期で、歳入委員会のメンバーになれたのは、皆の人気者だったからだと言われている。もう一人の議長が、保守派のガリガリである共和党のセンセンブレナー下院議員なので、好対照だった。ジム・マクドマットは、京都議定書にも積極的だったし、アメリカの鉄鋼輸入規制にも反対だった。私共の主張と、ピッタシ合うのである。彼が、「今のやり方は、おかしい。」と言うと、その人柄からして、「成るほど。」と思ってしまいたくなるのは、私だけではあるまい。
 ところで、このテロの脅威を強調する手法は、大統領選挙においても、ブッシュ側にとって、最も有力な戦術になりつつある。共和党大会の指名受諾演説で、ブッシュは、大いにテロ対策を強調した。翌日からの世論調査は、ブッシュの支持率が、10ポイント近く跳ね上がったことを示している。息子ブッシュは、親ブッシュの失敗から学んで、「選挙の前に戦争を止めてはいけない、戦時下の緊張状態を維持することが一番いいのだ。」と、悟ったのかもしれない。

9. ジム・マクドマット氏のもう一つの重要な発言は、インターネットや携帯電話の監視も可能にする「愛国者法」が議会を通った時、提案者以外の議員は、誰も、法案を読んでいなかったということである。「それが、普通のことだ。」と、別の議員が言うのを聞いて、誰しも呆れるのではないか。しかし、日本でも、似たり寄ったりである。中味については、事前に、部会でさんざん議論するが、いざ法案になってくると、これを隅々まで読む人など皆無に近い。役人は、そこを突いて、部会で取り上げられなかった思いがけないような内容を入れ込んだりする。アメリカでは、役人が法案に余りタッチしないので、本当の中味は、提案者以外は誰も分からないという法案が、けっこうあるのではないか?
 「愛国者法」も、その最たるもので、通ってしまってから後悔しても、もう遅いのである。マイケル・ムーア監督は、それでも諦めきれず、「愛国者法」を大声で朗読しながら、議会の周囲を回るということまでやった。これまで、保守派の一部は、こうした法案を通したかったのだが、普通の状況では、なかなか上手くいかない。911は、その絶好の機会を与えてくれたのである。彼らは、一気に突っ走り、あっという間に、「愛国者法」を成立させるのである。
 この関連で気になるのは、最近のアメリカは、世界中の個人データを集積しようとしていることだ。既に、飛行機に乗ると、その人のデータは、完全にキャッチされていると言う。これを全ての人に拡大しようというのだ。IT技術の発達によって、そういうことが可能となった。我々は、SF小説並みの超管理社会に入ったのかもしれない。アメリカの一部の人間が、あなたの事を何でも知っているというのだから。

10. マイケル・ムーアにすれば、今日のアメリカは、ブッシュを中心とする支配層が、あの手この手で被支配層の自由を奪い、これをコントロールし、自分達の権力や経済的利益を最大化しようとしているように観えるのだ。犠牲は、常に被支配層、貧乏人の兵士が払うことになる。支配者は、高みの見物だ。 事実、アメリカ議会の上下両院の議員535名の内、子息をイラクに派遣しているというのは、たった一人しかいないのだ。 彼らこそ、率先垂範を垂れるべきではないか。そこでマイケル・ムーアは、議員の一人一人に、「貴方の子息を、イラクに送らせてはどうですか?」と、聞いて回る。議員のほとんどからは無視されるが、既に多くの若者が戦死している現実を知れば知る程、笑えなくなる。既にイラクでは、アメリカ軍の死者が千人に達したと報じている。ノーブレス・オブレージは、一体どこに行ったのか?  
 ホワイトハウスの前では、イラク人の女性が、 「アメリカは、何故、罪の無い自分達の家族を殺すのか?」と、抗議している。そこに、息子をイラク戦線で亡くyした母親が現れる。他方、別のブッシュ支持者らしい女性が、「このイラク人は、嘘をついているのだから、まともに聞いちゃ駄目よ。」と、おせっかいにも、この母親に忠告する。これには、さすがに母親も怒って、「私の息子だって、イラクで死んだのよ。」と、言い返す。この戦争の真実について、「誰も、何も、分かっていない。」という現実に愕然としてしまうのだ。泣きじゃくり、地面に座り込んでしまう母親の姿が、この映画のラストシーンである。

11. この映画は、反ブッシュの為に作られたものだから、ブッシュ支持者からすれば、観ることすらとんでもないという代物だろう。しかし、世界の最高権力者、アメリカ大統領が、どういう人物や企業と深い関係を持ち、どのような思考過程を経て戦争を決意するのかということを理解するには、最適のテキストになると思う。特に、小泉総理の決断でアメリカ全面支持に踏み切った日本国民としては、必見の映画ではなかろうか?「民主主義をもたらす為の戦争だ。」と、強弁しても、戦争は、いざ始まってみれば、綺麗ごとでは済まない。 罪の無い一般人を殺戮し、純粋な若い兵士の精神を蝕む。次々と予期せぬ出来事が続出し、泥沼にはまり込む。クラウゼウィッツが言う「摩擦現象」そのものが、頻発する。孫子もクラウゼウィッツも理解していない者が起こす戦争は、悲惨である。いずれにしても、こういう映画を作れるということが、素晴らしい。さすがアメリカは、メディア王国、映画王国である。日本では、到底無理だろう。「いやそんなことは無い、日本でも、小泉政権について、もっと面白い映画を作ってやるよ。」と、うそぶく若い映画監督が現れたら、どんなに面白くなることだろうか?




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