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何かおかしいぞアメリカ合衆国
・・・ 山本幸三
1. オリンピックというのは、始まってみると、やはり、引き付けられるものだ。特に、柔道を皮切りに、水泳、体操と、日本人選手が、大活躍するものだから、否が応でもテレビに釘付けになる。お陰で、連日寝不足だ。それにしても、最近の日本人選手の、落ち着いた態度と堂々たる戦いぶりは、驚嘆に値する。昔だったら、国中の期待の大きさに押しつぶされ、実力が出せないままに終わることが多かったのに、今回は、むしろプレッシャーを楽しんでいる風がある。日本の若者は、大きく変わった。国際化の中で、自然に振舞える程に、たくましく成長したということだろう。彼らに、心から拍手を送りたい。
2. ところで、今回のオリンピックで感じるのは、アメリカの影の薄さである。お家芸の種目で、幾つか落としているというだけでなく、国を挙げ、アメリカの威信を賭けて熱狂しているというムードが全く無い。それどころか、イラクでは、ナジャフのサドル師派と死闘を繰り広げている。この期間は、戦闘を止めるというオリンピック精神と、全く相反する行為を、あの超大国アメリカが、平気でやっているのである。何かおかしいぞ、アメリカは。一体アメリカに、何が起きているのか?
3. 今のアメリカには、テロの脅威が差し迫っているとか、イラク情勢が泥沼化しているとかいう現象的な問題もあるが、もっと根源的には、アメリカ国民の生活に直結した弱さが、顕在化してきているのではないか。それは、例えば、社会保障、医療の問題である。この医療の問題は、実は、今回の大統領選の隠れた大きな争点ともなっている。アメリカでの論争を聞いていると、日本の医療制度の在り方についても、おおいに参考になるので、紹介してみたい。
4. アメリカの医療費は、世界で最も高い水準にあるが、その効果たるや、世界で最も低いレベルだとされている。病院や保険会社が儲けても、患者の為になっていないというのである。ジョンズホプキンス大医学部のバーバラ・スターフィールド博士が、2000年に出した報告書によれば、アメリカ国民の健康状態は、13の先進国中、各指標でみて、12位に止まるとしている。新生児死亡率とか平均寿命とか外因以外の要因による潜在死亡率とかでみてである。博士は、その最大の理由は、四千万人以上のアメリカ人が医療保険でカバーされていないからだとしている。中でも、子供たちが、特に不利益を被っているという。これに対し、日本人の健康状態は、最も優れているとされる。この状況は、今日でも変わっておらず、むしろ悪化しているという。アメリカは、最も金のかかる医療システムを抱えながら、何百万というアメリカ人が医療機関に行くことが出来ず、適時に診断を受けていれば助かったかも知れない病気で死んでいっているのだ。貧しい人々は、本来、診療所か病院で受けるべき治療の為に、救急治療室に列をなしている。そこでは、最低限の手当てだけは、してくれるので。毎年、何万人もの人達が、医療過誤で死ぬか、不具者になっている。こうした状況であるにも拘わらず、テキサスやフロリダ、ミシシッピー州などでは、公的医療保険の適用範囲を狭めようとしているという。スターフィールド博士は、第一に、公的保険適用の範囲を広げること、第二に、初期治療(プライマリーケアー)システムを作り上げることが必要だと強調している。博士は、「アメリカには、国家としての健康政策が全く無い。」と深く憂慮している。
5. こうした現状を、大統領選の対立候補が見逃す筈が無い。民主党のケリー候補は、早速、野心的な医療制度改革案を提示した。その中味は、公的医療保険の適用範囲を、数千万人の規模で拡大する一方で、保険プレミアム(償還金)を切り下げるというものである。また、財源として、ブッシュが実施した減税の内、年収20万ドル以上の高額所得者(人口では約3%に当たる)の分を取り止めるとしている。ケリー候補のプランは、公的保険適用の所得の上限を引き上げることによって、これまで、公的保険適用には所得が高すぎるが、民間保険を払うには足りず、といった多くの勤労者世帯を救おうというものである。第二に、ケリープランは、民間保険を再保険することによって、年間5万ドルを超える高額の治療費の75%をカバーしようというものである。これによって、民間保険会社等のリスクを軽減してやり、その代わりプレミアムを10%以上、切り下げようとするものである。近代国家は、国民を不慮の事故から救おうとしてきた。ハリケーンや地震やテロ攻撃の犠牲者に対し、何らかの支援の手を差し伸べてきたはずだ。巨額の医療費、それは一家を破産に追い込みかねないほどのものだが、これもそうしたものと考えるべきだ。巨額の医療費が払えないアメリカ人でも、普通は、民間や公的な慈善団体によって、最終的には、治療を受けることは出来た。しかし、治療は手遅れであり、家庭は破綻し、保険会社は、出来るだけ治療費を払わないようにする為、莫大なお金を費やした後ということになる。政府は、医療費のリスクを直接負うことによって、こうした無駄を無くすことが出来るし、実際には、国の医療費のコストを下げることが出来るはずだというのだ。勿論、ケリープランも金がかかる。試算によれば、向こう10年で6530億ドルの財政支出拡大となる。これが大きいかどうかだが、ブッシュ減税を恒久化すると、同じく向こう10年で2兆8000億ドルかかるとされていることからすれば、小さいのではないかというのだ。また、20万ドル以上の高額所得者の減税を止めれば、それだけで6310億ドルの財源を捻出出来るとしている。ケリープランは、なかなか興味深いものだが、政策論争としては、まだ盛り上がっていない。ブッシュ側が、わざと議論を避け、テロの脅威や人格論に人々の関心を向けさせているという不満が、民主党側には、強いようだ。しかし、私は、こうしたアメリカが持っている弱点をいつまでも放置していると、ますますアメリカ人は自身を失い、気が付いてみたら、金メダルの数がめっきり減ってしまっていたということになるのではないかと憂う。大統領選での、今後の論戦に注目したい。
6. 翻って、日本の現実を観てみると、曲がりなりにも、国民皆保険は維持しているし、誰でも、病気になったら、病院に行けばよいという安心感がある。これは、実は、大きな強みである。また、昨今あれだけ騒がれているが、年金も、ちゃんと有る。この安心感が、日本人の心の平安に大きく寄与しているのではないか。私は、昨年、高齢者医療制度改革案をまとめたが、今の日本の医療制度の基本は、しっかり守っていかなければならないと思っている。勿論、様々な改革は、待った無しであるが、基本を外してアメリカのようにしては決してならないと、今回のアメリカでの議論を聞いていて、確信した次第である。
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