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「アベノミクスを成功させる会」提言

消費税率再引き上げ等についての提言

2016年5月20日
「アベノミクスを成功させる会」

1. 現下の日本経済の最大の問題は、消費の低迷にある。消費は2014年4月の消費税率引上げ(5%→8%)で落ち込んで以来、一向に回復の兆しを見せず、2015年10‐12月期にはトレンドから底割れするという事態にまで陥った。消費の底割れが生じたのは、リーマン・ショック直後以来である。

GDPの6割を占める消費の低迷を受けて、実質GDP成長率も2015年10‐12月期に年率▲1.7%とマイナス成長に陥った。2016年1‐3月期には、これが年率+1.7%となったが、「うるう年効果」(プラス1.2%と推定されている。)を勘案すると回復力はまだまだ弱い。しかも、4-6月期には熊本地震の悪影響も顕在化することから、日本経済は依然厳しい状況にある。

こうした状況を放置していると、GDP(名目)600兆円どころか、デフレ経済への後退、アベノミクスの失敗にまで追い込まれてしまうことになりかねない。直ちに思い切った手立てを講ずる必要がある。その中心は、日銀の力強い金融緩和政策と相俟った政府による思い切った財政拡大策であろう。勿論、成長戦略も必要だが、基本的に成長戦略は供給能力拡大策であるので、需要不足でマイナス10兆円近くのGDPギャップが存在する下では、まず財政・金融による需要拡大策によってデフレ圧力を回避することが先決であろう。

2. その一方で、来年(2017年)4月には、消費税率の再引き上げ(8%→10%)が予定されている。現下の経済状況を考えれば、これを再延期すべきだという主張が出てくるのは当然であり、有力な選択肢であることは間違いない。

ただ、単純に延期を表明するだけで経済が好転する訳ではないことは、一昨年の延期決定から今日までの状況を見れば明らかである。恐らくその要因は、当初の引上げ(5%→8%)時の財政出動が十分でなかったこと、年金生活者や低所得者の実質所得が低下したこと、そして「いずれ消費税率は上がるのだから」という予想から消費が抑制された面があること等にあったと考えられる。また、単純延期する場合、前回延期の際に安倍総理が表明した「リーマン・ショックや大震災といった事態が生じない限り、必ず実施する。」との公約との関係が問題となる。更に、「アベノミクスは失敗した。」との野党の批判に上手く反論できるのかどうかも問われることになる。

今一番大事なことは、一日も早くデフレ完全脱却を果たし、GDP600兆円軌道に確実に乗せることである。このためには、各方面の不確実性を出来るだけ取り除き、不足している需要を一気に創出するような方策が必要だ。その意味で、消費税率についての不確実性が今後とも延々と続くのは、経済にとっても政治にとっても好ましいことではない。

3. そこで今回我々は、公約は守りつつ、しかも実質的には引上げ延期と同等になるような措置を含めた財政出動によって経済を必ず好転させるという責任を財政当局に背負ってもらうという選択肢を提案する。具体的には、次のような政策パッケージの提案である。

① 消費税率引上げ(8%→10%)は、予定通り2017年4月から実施し、当面10%で打ち止めと宣言。

② 今年度(2016年度)の補正で、デフレギャップ解消を目指した10兆円の景気対策と5~10兆円(被害状況に応じ)の熊本地震対策基金の創設。

③ 2017年度には10兆円、2018年度は7兆円を通常予算に追加して計上。その内訳は、消費税率引上げ分は全て還元するという意味での給付金等約4兆円強、残りは日本経済の将来の持続的成長、体質改善につながるような公共投資等。

④ 給付金等の基本的考え方は、年金生活者・低所得者・子育て世帯を中心に所得再分配政策としての給付。住宅と自動車の購入者に対しては2%分の還付。

⑤ 財源は、マイナス金利を活用する意味で原則国債発行による。

4. こうした政策の実現に当たって重要な役割を担うのが財務省である。財務省は、本来、予算査定や税制改正を通じて、健全財政を確保することは勿論、景気循環の平準化や、経済成長に資する施策の検討・実行が期待されている。しかしながら、昨今の財務省は、目先の歳出削減・増税に重きを置き過ぎて、マクロ経済の安定という大きな視点を見失なっている。2014年4月の消費税率引上げ時においても、3%引上げで7.5兆円分のネガティブなインパクトが経済に与えられる以上、大規模な経済対策が「真水」で必要であったにも拘らず、5.5兆円の経済対策に数兆円規模で復興予算を紛れこませ、対策の効果を骨抜きにしてしまった。結果、経済が予想以上に落ち込んでしまったのは衆知の事実である。

経済対策の策定は、様々な予算措置の積み上げとなるため、大まかな提案を政治の側で行うことが出来ても、そうした提案が実際に効果を発揮するようになるための詳細な制度設計は、予算策定のスペシャリストである財務省に任せざるを得ない。そこで、今回は、財務省の永年の悲願である「消費税率の引上げ」を認める以上、財務省としても責任を持って「早急なデフレ完全脱却の実現」、「持続的成長と経済体質の改善」、「GDP600兆円目標達成」を確実なものとすることにコミットしてもらう必要がある。そうでなければ、消費税の負担を最終的に負うことになる国民の理解は、到底得られないだろうからである。

(以上)


海外出張報告「アベノミクスは習近平主席をも動かす」

アベノミクスは習近平主席をも動かす

(参考メモ) 

2015.6.24

衆議院議員 山本幸三

 

1、(二階訪中団に同行)

 大型連休でイタリアとアメリカのワシントンを訪問した後、5月23~25日の強行日程で中国の北京と大連を訪ねて参りました。今回の訪中は、二階俊博自民党総務会長率いる3000人の大訪中団の一員としてのものでした。私は、政治家になったばかりの頃、日本に本格的なホテルスクールを作ろうと思い立ち、毎年コーネル大学のホテルスクールの教授たちを招いてセミナーを開いておりましたが、そのころから観光分野の大御所である二階先生と親しくさせて頂いているのです。過去にも2002年の13000人大訪中団にも参加させて頂いたことがあり、二階先生の中国における存在感の大きさを十二分に承知しておりました。今回は、私自身が自民党観光立国調査会長ということもあって、これは何としても参加しなければならないと、企画当初から二階先生にお願いしていたものです。

 元々私は、政治家になった当初から、アメリカと中国には年に1回は訪問し、定点観測を行うとともに人脈を築き上げることを責務として努めて参りました。お蔭で、その時々の日米・日中関係、世界経済の状況等に応じて相手方首脳の言動が微妙に変化してくるのを感じ取ることができるようになりました。

2、(今回訪中の目的)

 今回私は、二階先生に同行することで習近平国家主席とお会いできることを確信していたので、2つの疑問に対する答えを見出すことを主目的としていました。第一は、習近平主席が政治的基盤を確立しているかどうかということ。第二は、習主席が昨秋と今春の二度に渡る日中首脳会談に応じてきた背景には、中国経済が大きな困難に陥っているからではないかという私の仮説の証明です。

3、(習主席の政治基盤)

 5月23日の夜、人民大会堂で3000人(正確には3162名)の大宴会が開かれるということで私共議員団も1時間半程前から出かけて待機していました。当初この会は、「日中観光交流の夕べ」との名目でしたが、直前になって中国側によって「日中友好交流大会」に変更されました。習近平国家主席が自ら出席する前触れだと、胸が高鳴りました。ところが、二階先生外13名の議員団が控室で30分、1時間と待ち続けても一向に中国側からの反応がありません。実はこのとき、中国側では大激論が戦わされていたのです。訪中団が中国に着いたか否かのタイミングで安倍昭恵夫人の靖国参拝が明らかとなり、こういう状況で習主席が二階氏と会うことが適切かどうかということが問題となったのです。しかし、遂に習近平国家主席は現われました。ニコやかに笑顔を浮かべ、我々と写真に収まり握手をしてくれました。何事もなかったかのように。側には汪洋副首相を従えていました。私は、その瞬間確信したのです、習近平主席の政治基盤は完全に確立していると。少々の問題はあっても、異論を抑えてでも自分の外交方針を貫くことができるのですから。この点は、後に木寺駐中国大使にも確認したところ、「その通りです。」とお墨付きを与えてくれました。これで、第一の疑問はクリアです。

 

4、(中国経済の現況)

次に、第二の疑問についてですが、北京では推測するだけでしたが大連に足を伸ばした結果、私の仮説は正しいとの確信を持つに至りました。大連へは、二階先生と私と長崎幸太郎先生の3議員、それに民間人300人が同行致しました。私共議員団と大連市の唐軍党委書記、肖盛峰市長等の幹部と会談を持った際、私から彼らに質問をしました。「中国経済は最近減速しているが、1つは過去の投資過剰によって供給過多の状況になっているからではないか。また、アベノミクスで日本の円が安くなっているが、中国元は基本的に米ドルにペッグしているので影響を受けているのではないか。」と。私の直球の質問に対し少し戸惑っていましたが、唐軍党委書記は驚く程率直に答えてくれました。「経済のスローダウンは、まず世界経済が金融危機から完全に脱却していないことによるが、国内要因もある。中国は輸出偏重の経済構造を転換しなければならない状況にある。産業のグレードアップ、近代産業の発展に力を入れる必要があるが、それには時間がある程度かかる。また、円安は貿易に大きな影響がある。特に大連は造船業や化学工業の基地であり、円安は輸出に大きな打撃を与えている。企業にも、新しくマーケットを開拓するとともに、リスクに対する支払能力を高めるように求めているところだ。」との答えでした。加えて「円安はまだまだ続くのだろうか?」と逆に聞いてきたので、「日銀の金融緩和はまだ当分続くので、少なくともあと2~3年は円安が続くとみておいた方がよい。」と答えておきました。

 やはり、中国経済はかなり深刻な状況にあるようです。そうした中では、やはり、日本の資金・技術・観光客などが中国経済立ち直りの為には是非とも必要不可欠なのです。これが、習近平国家主席をして、日本との関係改善を図らなければならないと決断させた最大の理由だと改めて確信致しました。アベノミクスは習近平主席をも動かしたのです。

 

5、(望ましい対中政策)

 私は、今回の訪中を振り返って、今こそ日中関係改善を実現する絶好の機会だと思いました。その為には、日本と中国の経済関係を揺るぎのないものにするために、「日中FTA交渉を進めよう」と提唱したらどうかと考えます。また、大連市で北九州市が成果を上げている環境技術協力をもっと大規模に進める為に、「日中環境ファンド」を立ち上げ、中国の公害防止事業を支援することが中国側にとっても日本側にとっても意義のある大きな貢献策となるのではないかと考えています。

 経済は政治を動かす。日本が自国の経済をしっかりと立て直すことが、外交面でもいかに大きな役割を果たすことができるかということを実感した訪中でした。やはり、アベノミクスを成功させるしかないのです。

 

(以上)


海外出張報告(2015年5月12日)

海外出張報告

2015.5.12
衆議院議員 山本幸三

1、(北九州市民オペラ)
 連休を利用して、イタリアと米国ワシントンを訪問してきました。イタリアは、地元北九州市が誇る市民オペラグループによる「蝶々夫人(プッチーニ作曲)」のイタリア公演を激励するためでした。公演はイタリア半島の踵(かかと)の部分に当るレッチェとブリンディジという古い小都市で行われたのですが、日本的な趣向を凝らした演出も上出来で大反響を呼びました。主役の蝶々夫人を演じた白川美雪さんは地元紙でも絶賛され、一躍スターとなりました。
 日本人の姿などほとんど見たことがなかったイタリアの港町で「日本人がやるオペラは素晴らしい。」とイタリア人に感嘆させたのは凄いことです。北九州市民オペラが果たした日伊文化交流の成果は賞賛されるべきでしょう。私も、現地の市長や州知事などと面談し、一層の文化交流・観光交流を進めていくことを確認し合ってきました。

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2、(安倍総理の議会演説) 
 公演終了後、ブリンディジからローマ、パリを経てワシントンへと向かいました。
ワシントンは、毎年恒例の日米国会議員会議(二日目は韓国も合流)に出席することが主目的ですが、今年は安倍総理による米議会上下両院合同会議での日本の首相として初めての演説が行われるということもあり、大変楽しみな訪問でありました。
 当日、私達は演説の一時間程前から議会入りし、安倍総理の登場を、固唾を呑んで待ち受けました。私の席は、日米国会議員会議での永年の友人である長老のジム・センセンブレナー下院議員(共)から頂いたもので、貴賓席のすぐ隣、ケネディ大使や昭恵夫人達と数席隔てただけという最高の場所でした。さて、いよいよ安倍総理が大拍手の中で登壇され、おもむろに演説が始まりました。
まず、「話したいことは沢山あるけれども、フィリバスター(長演説で議事進行を妨げること)で困らせるつもりはありません。」という冗談で議場を笑わせた後、自身とアメリカとの関係、第二次大戦で戦った仲だが、戦後和解し、共に平和と民主主義のために貢献し合っていること、日本は今後とも、女性活用を含む改革を断行するとともに、積極的平和主義の外交を進めていくこと、更に日米同盟をより堅固なものとして希望の同盟に高めていこうではないか、と高らかに謳い上げました。何度も練習したという立派な英語で、尻上がりに調子が出てきて、最後は大きな身振りで聴衆の反応をリードするといった日本人離れした素晴らしいパフォーマンスでした。議場内では、演説の節々で何度もスタンディング・オベーションが起こり、拍手は止まるところを知らず、演説が終わった後には、ウォー!というなんともいえないうなり声まで響きました。
 演説終了後、簡単なレセプションが開かれたのですが、旧知の米議員達に感想を聞いてみたところ、皆さん口々に「見事な出来映えだった」と激賞していました。午後の日米国会議員会議の席では、ジム・マクダーマットという民主党長老議員が、「自分が今までに聞いた各国首脳の演説の中でも、最高に出来が良かった。まず、英語でやってくれたことが一番だし、構成も素晴らしかった。特に硫黄島のスノーデン中将と栗林大将の孫である新藤元総務大臣が握手するところは、日米和解を象徴するものとして米国民の琴線に触れた。
 その中で『深い悔悟(deep repentance)』という言葉を使ったのも、極めて効果的だった。キリスト教の『悔い改める』に通じるものだからだ。歴史認識については、あれで十分だと思う。日米同盟を強化し、未来へ向け一緒に指導力を発揮しようと訴えたことも高く評価できる。多くの米国民に、やはり日本は信頼できると強く感じさせることに成功したのではないか。」と高く評価していました。今更ながらに、トップが自ら明確に直接米国民に訴えかけることがいかに大切であるかということを改めて思い知らされたものです。安倍総理の今回の訪米は、米国民、とくに多くの米連邦議会議員の心をしっかり掴みとることができ、大成功だったと言えるのではないでしょうか。

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3.(TPPとAIIB)
(1) 日米国会議員会議で大きな話題となったのが、TPPとAIIBです。
まず、TPPについてですが、最終局面に近付いてきたTPP交渉を結着させるために必須なのが米国議会におけるTPA(大統領に交渉の一括権限を与える、いわゆるファースト・トラック法)の成立です。しかしながら、2016年の選挙(大統領選及び中間選挙)が意識され始めた中で、オバマ大統領の与党である民主党議員の大半がTPAに反対、逆に両院で過半数を占める野党共和党の多数が賛成するという奇妙な捻れが生じており、予断を許さない状況となっています。
 現時点では、上院はかろうじて通過するとしても、下院では民主党の賛成者は12~20名程度しか見込めず、通過自体が非常に厳しい状況にあります。今後、オバマ大統領が余程の努力をしない限り、事態が好転しそうにありません。また、仮にTPAが通ったとしても、最終結果のTPPの採決では「オバマ大統領の手柄にしてはならない。」ということで、否決されるのではないかという見方も強くあります。共和党議員からすれば、2016年に共和党大統領が誕生すれば、その時に通してやればいいという考え方のようです。日本では、オバマ大統領の実績作りや対中関係という観点からしても最終的には米議会はTPA及びTPPを承認するだろうという見方が強いのではないかと思いますが、「自分の選挙のことが何よりも大事」と考える米議員の本音との間には乖離があり、見込みは決して明るくないということを認識すべきでしょう。
(2) AIIBについては、マクダーマット議員から「米議会として参加するなどという議論はあり得ない。そもそも『AIIBの参加についてどう思うか?』と聞いてみたら、大半の議員は『一体それは、何のことだ?』と聞き直してくるだろう。AIIBが米国の議会で話題になったことはないし、ほとんど誰も知らないのだ。話を聞いたとしても『世銀があるのだからそれで十分だろう。』と答えるのが関の山だろう。」と一刀両断にされて、ちょっと拍子抜けしました。
 この問題を扱う米国財務省も慎重だし、まして国際機関への資金拠出に厳しい米議会がAIIB参加に踏み切ることは120%ないということだけは確かでしょう。
 こうしたことの背景にあるのは、米国の力が落ち中東とくにイラン核問題の処理で手一杯でとてもアジアの問題に目が向かないということにあるようです。日本としては、こうしたことをよく理解した上で慎重に判断していくことが必要でしょう。

4、(イエレンFRB議長との会談)
 昨年に続きイエレンFRB議長と面談することができました。イエレン議長は、私が説明する日本経済の現状分析を楽しみにしているらしく、興味深く聞いて頂きました。
 とくに嶋中雄二氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券エコノミスト)の景気循環論によれば、2016年から日米共にゴールデンサイクルが実現しうるという説を紹介したところ、「このような議論は米国で目にしたことはなく、大変興味深い。」と感じ入っていました。
 その後、米国経済について意見交換したのですが、「その詳細は公にしない」との約束の下での議論なので、ここで詳しく述べることは出来ませんが、米国の利上げは6月ではなくまだまだ先になるだろうというのが私の抱いた印象です。いずれにしても、イエレン議長は米国の経済指標を細部にわたって緻密に分析するとともに、自分たちの決定が世界経済にどのような影響を与えるかについても十分に思いを巡らせながら政策決定を行おうという姿勢を示しておられました。その真摯な態度に心から敬意を表しつつ再会を期してお別れしたところです。  

写真 イエレン議長2015

(以上) 

 


海士町に視る地方創生のヒント(参考レポート) ―新技術(CAS)が地域資源を救う―

海士町に視る地方創生のヒント(参考レポート)

―新技術(CAS)が地域資源を救う―

 

2015年2月27日

衆議院議員 山本幸三

1、(問題意識と経緯)

 地方の農水産物を何とか東京などの大市場や海外に持っていけないものかと模索していたところ、出会ったものがCAS(Cells Alive System)である。

従来の冷凍装置では、水分が凍結する際膨張して食材の細胞を壊してしまい、味や香りが失われるという欠点があった。そこで、(株)アビーの大和田哲男社長が「過疎化している地方を助けたい。」という一念で20年の歳月をかけ、水分が固まらないようエネルギーを調整して凍結するCASを開発、これによって動植物の細胞が破壊されないまま再現されるという夢のような話が実現されることとなった。私は、昨年9月流山市の(株)アビー本社を訪ね実物を見ていたが、やはり実際に実用化されている現場を自分の目で確かめたいと大和田社長にお願いして今回の海士町訪問(2015/2/8~2/9)となった。

猶、この話を私から聞いた野村証券の岩崎副社長も「是非、自分も見たい。」として同行することになった。

現地では、大和田社長の紹介もあって、山内道雄町長自ら案内して下さり、CAS凍結センターの奥田所長さんなどから詳しい話を聞かせて頂くことができた。ここには、今後の地方創生施策を考える上で決め手となるような大きなヒントが提示されており。是非とも多くの皆様に知って頂きたいと考えるものである。

 

2、(海士町の取り組み)

(1) 島根県海士町(人口2400人)には市場がなく獲れた魚介類は本土の市場に出荷するしかないが、フェリーに乗せるため時間がかかる。逆に運賃や出荷手数料も高く島の漁師の手取りはわずか。しかもフェリーが欠航すれば、売上さえもなくなるという状況だった。このハンディのため漁師は減少、島の活力も徐々に衰えてきた。時あたかも、小泉行政改革で交付税も削減、島は消滅の危機にさらされていた。

(2) 2002年、NTTの幹部を勤めた後推されて町長となった山内道雄氏は、町の生き残り策を検討する中で、島のハンディを克服できるCASに出会う。しかし、これを導入するための立ち上がり資金がない。窮余の一策として、町長自ら給与5割カットを宣言したところ、幹部職員から「自分たちも協力したいので、俸給を3割カットして欲しい」との申し入れ。議員もこれに続き、その結果2億円を捻出。こうした町長・職員・議員たちの不退転の決意に町民も呼応、全町挙げて町の再生に一丸となって取り組もうという気運が高まった。

(3)  2004年から整備を始め、2005年3月に第3セクターの株式会社ふるさと海士CAS凍結センターを設立。CAS凍結センターの設立資金は総額5億円を要し、「これが失敗すれば全てが終わりという悲壮な船出だった。」

(4) 課題は、販路確保。当初は、スーパー・ホテル・百貨店など大手企業に営業をかけたが、知名度がないことやCAS処理で価格に高値感があったりして、既存の流通ルートに乗り切れなかった。

 模索し情報を集めている中で、「居酒屋」という話が持ち上がってきた。居酒屋は価格の自由度が大きく、品質が良ければ価格はある程度高くしてもよいという。早速足を棒にして居酒屋廻りを始めたところ交渉に乗ってくれるところが現われてきた。その内、「あの店の魚は新鮮で美味しい。」という評判も聞こえるようになってきた。

(5) ネット販売、個人の口コミ販売等、産直販売にも力を入れ、実績も上がってきている。また、二次加工品(惣菜やパエリア、リゾット等)にも取り組み、収益の25%を賄うまでになった。看板である岩ガキは、CASによって長期保存が可能となり、年中“生ガキ”が賞味できることで、島根県のふるさと納税用贈答品としても、シジミ貝を抜いて一番の人気商品ともなっている。私も現地で一年前の岩ガキを頂いたが、汐の香りといい、味といい、獲り立てそのものの美味であった。

豊凶差が大きいイカも、CAS処理によるストックが可能となり需要に対応、安定した出荷が実現した。昨年は例年の10分の1という最悪の漁獲量だったが、ストック調整によってこの難局を乗り切ることができた。イカは捨てる部位がなく、生体・解体全てがCAS処理によって有価流通できるようになった。解体された部位は、2次加工品に商品化される。漁業者にとっては、これまで経験したことがないもので、彼等の意識は大きく変わった。

(6) 漁業者の意識の変化は、一連の工程管理の徹底にも見ることができる。漁協の看板に「針金や鉄屑などの異物が混入しないように定期的な甲板清掃を徹底して欲しい。」との願い書が貼り出されているが、漁業者は異論なく従順にこなしているという。奥田所長によれば、「甲板は乱雑なものというのが常識だった漁業者の意識が革命的に変わった。これも、CASできれいに処理することが、自分たちの生活向上に直結していることを皆が理解し、喜んでいるからだ。」とのこと。

(7) CAS商品の値決めは市況欄にもその例がなく、思案の末、「漁業者・地方経済・消費者の三方得」の価格を自ら決め、これに合わない商談は受け入れないことにした。生産者が値を決めて売るという形態は一次産業の世界ではかつてなかったことで、一大改革といえる行動である。CAS処理商品の価格は他の冷凍品より30%ほど高い。このため、当初の価格交渉では難航したが、「生産者が値決めする。」という基本的テーゼを守り抜くことによって、今ではCAS商品価格は一定との観念が定着し始めた。商品の品質が良ければ、生産者側の値決めが通用することを実証したことになる。これによって、漁業者の手取りが安定することになった。豊凶や天候不順による生活不安を解消することができるようになったのである。漁業者の合言葉は「CASさまさま!」とのことである。

(8) CAS凍結センターの売り上げは、2億2千万円、それに直販1千万円が加算され、従業員30人程にそこそこの給料を払えるまでになっている。今後の見通しも、着実に伸びるシミュレーションである。利益率は純益で6%程度、一般類似企業の4%より率は上回る。ただ第3セクターであるため、利益に追われるとその枠を外れることになるので、その鬩ぎ合いに頭を痛めているという。

(9) 山内町長は、こう言う。「地方行政は国の交付金を有効に使うことによって、地元の資源を活かした起業化を積極的に行うべきだ。財界から工場誘致の話もあるが、私はきっぱり断っている。景気が悪くなるとすぐ引き上げるからだ。残された町はお手上げになる。基本は、地場資源による起業化で永続性があり住民に愛される企業でなければならない。」と。

(10) CASの活用によって漁業者の生活が安定すると、町も他の色々な施策を打てるようになった。とくに力を入れているのが教育だ。島唯一の高校を維持するため、島外から留学生を受け入れるとともに、学力向上のため町自身が進学塾を開くことまでやっている。こうした取り組みに刺激されて、町民たちも立ち上がり、牧場経営やナマコ経営までやる人達が出てきた。都会から子供連れで移住するIターン組も400人を数えるに至っている。地元高校生と交流している大学生は「海士には宝が眠っている。」と語ったそうだ。

 CASによって入口が開かれ、町全体が開花しようとしている。山内町長が力を込めて「CASさまさまだ!」というのがよく分かる。

 

3、(提言)

(1) 海士町の例にみられるように地方創生の肝は、地域資源を活用した永続性のある企業化である。その際、CASのような地域資源を活かす施設が必要となるが、そのための立ち上がり資金がないのが問題。従って、具体的な地域資源活用起業化のプランを持つ地方自治体に対しては、施設整備費と当面の市場開拓資金等を含めて10億円程度の自由に使える交付金を配分することとしてはどうか。

(2) 最大の問題は販路の確保であるが、これは弱小な地方自治体にとっては極めて難しい課題だ。そこで、この点に関しては、中央政府に於いて各省協力の下、市場開拓プロジェクトチームを作り、全面的にバックアップする体制を構築してはどうか。その際、商社や大手の流通企業等の協力を仰ぐことも必要だろう。その販路も国内に止まらず、海外市場も目指すことが望ましい。

(以上)