日本復興への提言(2011.7月号)(ニューモデルマガジンX 三栄書房)

日本復興へ私の提言
震災から2ヵ月半ほど経ったが、被災者救済など被災地対応が急務であるせいか、経済力の回復にまでは手が回ってないようにも見える。じゃあどうすればいい?最短期間での復興に関して具体的な提言ができる専門家たちに、話を聞いた。

高橋洋一 1955年生まれ。1980年、大蔵省入省。07年には特別会計の埋蔵金を暴露し、脚光を浴びる。2008年、退官。現在は嘉悦大学経営経済学部教授。主な著書に「さらば財務省」(講談社)「この金融政策は日本経済を救う」(光文社)「官愚の国」(祥伝社)などがある。


震災復興はこれからが本番
「日本の復興スピードは諸外国と比べたらありえない速度です。ハイチ大地震は2010年1月に起きましたが、首都ボルトープランスでもまだガレキの撤去も終っていない状況なのです。しかし日本では1週間で電柱が立ち、道路のガレキが片付けられていました。医療体制にしても、れほど早期に復旧させた国は、日本以外にはないと思います」
 非営利の国際医療支援団体「プロジェクトホープ」とともに被災地で医療活動をおこなってきたUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)小児集中治療室担当の島袋梢医師は被災地の医療体制についてこう語る。
 また、岩手県紫波町などで行政や企業のアドバイスを行っている金融アナリストのぐっちー氏は「今後の問題は人材」だと言う。
「あれだけの地震が起きたのに東北新幹線は1台も事故を起こさなかった。これは凄いことですよ。僕は2年もあれば街は復興できると確信しています。世界有数の経済大国である日本にはそれだけのパワーがあります。しかし、ハードは復旧できても、ソフト面では難しいかもしれない。それは街とともに人も流されているからです。死者・行方不明者が3万人に近いわけで、教育のプロ、建築のプロ、医者、法律家、警察官、行政官・・・あらゆるスペシャリストが足りません。役所に財政の専門家もいないのですから、義援金が来てもそれを分配する能力のある人間がいない。おカネだけだして、あとは地元が使いやすいように使ってくださいということにならないんです」
 震災後、3ヵ月たつと関心がなくなってくるというが、これからが震災復興の本当の意味が問われる時期にはいるだろう。
「忘れないことが一番重要です。外国や日本国内でも『もう大丈夫』というような報道がなされていますが、その報道を聞く度に心が痛みます。社会の関心が薄れていけばいくほど復興は遠い未来になってしまうからです。日本で復興のテンションが下がれば、海外はもっと下がる。震災の復興とは日常の生活に戻ることがゴールだとすれば、何年もかかります。どうか一緒に未来のことを考えて、何度でも被災地に忘れていないよというメッセージを届けるようにしてもらいたいですね」(島袋氏)
日銀の国際引き受けは禁じ手ではない
 復興のためになにが必要だろうか?この問を自らに投げかけた日本人は多いはずだ。さらにもう一歩踏み込んで、被災地が復興し、さらに日本経済が回復するにはどういう手立てがあるだろうか?
 お気づきの方も多いと思うが、政府はこの機に乗じて増税を目論んでいる。政府が設立した復興構想会議では、14日の初会合で、議論をはじめる前にすでに増税が検討されていた。初日に五百旗頭真議長が提出した「議長提出資料」には支援のために義援金+公債+震災復興税が必要だと書かれてあるのだ。そしてこの「方針を軸とする構想を(中略)国と政府をあげて実施する」のだという。
 しかし、増税が景気を冷やすのは常識だ。嘉悦大学教授の高橋洋一氏は復興のために「増税という手段は考えられない」という。
「復興のためにおカネは必要です。生活支援金も最低でも半年間安心して生活できる金額を支払うべきで、ひとり500万円は必要でしょう。被災者が15万人として7500億円。そのうえで、災害復興ではいくらかかるかわからないから、切れ目ない予算措置をとり、財源としては返済を長期間に分散できる国債を使うべきです。国債は日銀の直接引き受けがベストです。日銀直接引き受け分の国債は、実質的に財政負担になりません。その国債に対して金利を政府が日銀に払ったとしても、その分は日銀から政府への国庫納付金になります」
 日銀の国債引き受けは「禁じ手」だという意見は根強い。民主党の岡田克也幹事長も日銀引き受けは禁じ手であり、行えば「大きく財政規律が崩れることになりかねない」と5月12日の記者会見で筆者の質問に答えた。高橋氏はこう反論する。
「日銀引き受けは禁じ手でもなんでもありません。これまでも日銀引き受けは毎年10兆円以上行われてきました。そのことを知らない政治家が多すぎる。まさか岡田幹事長や野田佳彦財務大臣まで知らないとは思いませんでしたが、どうもそのようです。しかも日銀が保有している国債の今年の償還額は30兆円あります。すでに財務省の国債発行計画では12兆円の国債引き受けが決まっています。それを差し引いても18兆円の償還金がありますから、18兆円分は国債引き受けしても通過膨張しないのです」
 通貨膨張しないのだから、財政規律が崩れることもないし、通貨の信用性が薄れることもない。
「この30兆円を使って、一刻も早く被災者に直接おカネが届くようにしなければいけません。私も被災地には行きましたが、地域によって被害状況は全然違う。そういう場合は、中央で基準を決めるのではなく、おカネと権限を与えて、地元に全部任せるのが一番いいのです。国交省でいえば、東北の道路・河川・港湾・空港の整備などを担当する東北地方整備局にカネと権限を預け、なにか問題が起きたら中央政府が責任を持つといえばいいわけです。非常時にいちいち中央に伺いをたてるようでは、復興の足かせになるばかりです。ですから、東京でやる政府の復興会議も意味がないと思っています。やるなら仙台などの東北地方でやるべきだと思いますね」
東電解体による発送電分離を
 もうひとつの日本経済回復のポイントは東京電力の送発電の分離だ。発電と送電を独占してきた電力会社が、電力の自由化を妨げてきた(図1)。そのため、各国とくらべても高い電気料金を払っているのが日本だ。その日本で原発の大事故が起こった。すでに一企業では賠償責任さえ負えない事態になっている。
「経済合理性からみても原発の可能性はありません。事故だけでなく放射能廃棄物の処理などを含めると、安いと言われていた原発の電気料金もそうとう高い。そして、万が一の大事故になったら責任が負えないとなれば、事業の可能性はゼロですよ。ただちに原発をすべて止めるというわけにはいきませんが、20~30年でフェードアウトしていくことになるでしょうね。20年もすればもっと効率のいい発電機技術は出てきますよ」
 原発に頼らないという方針を固めさえすれば、太陽光による自家発電、風力、地熱といった再生可能エネルギーだけでなく、火力発電dももっと効率よくCO2を排出しない発電の開発にも取り組めるだろう。
 そこでネックになってくるのが、発送電を一体化している電力会社だ。政府の東電の賠償スキームは東電を解体せずに事業を維持させ、足りない分は電気料金などで国民に負担させるという方向だ。これを電気事業を継続しつつ東電を解散するという方針に変えると、見方は一転する。売電が誰でも可能になるのだ。そうなれば、価格競争が起こり、電力料金の引き下げも可能になる。
「電話網を開放していろいろな事業者を新規参入させたことによって電話料金が低下したように、送電と発電を分離し、送電網を開放し発電では新規参入させたほうが国民にとってプラスですよ。大手企業の多くは自家発電をしているので、これをビジネスにすれば、夏場は操業せずに、発電だけをするという企業や工場も出てくるかもしれません。そうなれば、夏場のピーク需要にも耐えられるでしょう。はっきり言っていまの賠償スキームは東電を守るためで、国民や被災者のためにはなっていません。まずはステークホルダーである株主や債権者が負担すべきで、それらの合計で6.1兆円の国民負担が減ります。さらに東電のバランスシートには送電網が5兆円以上の資産として計上されているので、これを売却する。そうすれば賠償金を生み出せます。ここまでやれば、電力自由化のキモである送電と発電の分離が同時に達成できます。役員や社員のリストラや減給なんて、どんなに削っても1兆円いくかいかないかでしょう。それよりももっと大きな数字で賠償責任を議論すべきだと思います。東電が変われば、ほかの電力会社も変わっていくでしょう。電力料金が安くなれば、さまざまな事業コストが減りますから、日本経済も活性化します。これこそピンチをチャンスに変える方策ではないでしょうか」
東北の復興を考えるだけでいいのか?
「復興予算は最低20兆円は必要です。第一次補正予算は5月2日にようやく成立しましたが、たった4兆円というショボい規模でした。ガレキ量だけでも、町の平均処理量の100年分もあるんです。このままでは復興がどんどん遅れ、そのうち企業は生産拠点を海外に移すかもしれないという懸念もあります」
 政府の第一次補正予算をこう批判するのは自民党の山本幸三議員だ。山本議員も復興資金は日銀引き受けで手当てすべきだという。
「デフレ脱却と震災復興を同時にやるには、思い切った通貨供給を行うことです。はっきりいって、日本では20兆円程度増やしてもインフレになるどころか、デフレ脱却さえ難しい。もともと20兆円というデフレギャップがあり、さらに大震災という景気後退ショックが重なりましたから、本心をいえば40~50兆円くらい通貨供給量を増やしても問題ないくらいです」
 これまで行ってきた日銀による国債買い取りは、政府が発行した国債を買い取るという後追い的なものだったため、効果が薄かった。自民党時代も同じような過ちを繰り返してきた。この後追い的なムダ使いをなくすために山本議員が主張するのが、インフレターゲットの導入だ。
「消費者物価指数で2~4%のインフレ目標を設定し、そうなるまで通貨供給を続けると日銀が宣言し、その手段のひとつとして国債も買い取るとすればいいんです。重要なのはいまのデフレ期待をインフレ期待に変えること。将来物価が上がると分かったら、消費は控えるよりも、いまのほうがトクなんだから、おカネが回りだします。本来は消費者物価指数が2.5%を切ると要注意で、失業率もあがるんです」
 今年3月の食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)は前年同月比0.7%の下落となった。震災がなくても、デフレはさらに進んでいるのだ。今年2月の完全失業率は4.6%で、昨年の4.9%と比べ、こちらも深刻化している。さらに公共事業が削られている地方は震災がなくても厳しい状況にある。
「東北の復興はもちろんですが、東北だけでいいのかということも考えないといけません。資材はすべて東北に集まり、地方では工場を建てたいけれど、資材がないという状況も目立ってきています。私の地元の北九州でも自動車関連の工場がいくつも停止して、二次三次といった下請企業が倒産しています。円高の影響もありますから、このままでは企業は海外に拠点を移してしまいます。実際に福岡はそうなりつつある。ですから、デフレ脱却、震災復興は同時にやるべきです」
 震災復興が需要を喚起し、景気が回復するという意見に山本氏はこう反論する。
「過去に自民党政権が行ってきた国債発行による景気対策が効果を出さなかったのも、通貨供給量を増加させるという金融政策をセットにしなかったからです。変動相場制では、為替レートが変化するので、景気対策としての財政政策は無効になるというマンデル・フレミング・モデルという理論があります。先進国はこの理論に基づいて通貨量の調整などの金融政策を行っている。日本だけがデフレなのも、この法則を理解せずに金融政策を日銀に任せきっているからです。いまの日本で円高に振れるのも、市場が復興のための財政出動はするだろうが、通貨供給量はそれほど増えないだろうと思っているからです。円高対策、デフレ対策、復興対策。これらのすべてに対応できる策が日銀による国債引き受けとインフレターゲットなのです」
日本の財政は破綻しない!
 国債発行額に関して、100兆円規模でやるべきだというのが前出・ぐっちー氏の意見だ。ぐっちー氏は金融政策に頼らずとも、日本経済は復興できるという。
「バブル崩壊以降、日経平均が2万円を超えたのは、国債発行額が100兆円近くまでいったときでした。20兆円程度では日本経済は反応しません。しかし100兆円を突っ込めば、いま9500円ほどの株価が2倍に増えるという過去のデータがあるわけです(図2)。しかも日本の国債の95%が国内で償還され、残りの国債も円建てですから、金利さえ払っていれば借り換え可能なのです。10年モノの国債の金利がいま1.1%くらいですから、日本の国債発行残高が3月末時点で924兆円ですが、利息はたったの10兆円です。これに新たに100兆円がプラスされたって、日本の財政はまったくゆるぎません。むしろ、株価もあがるし、経済も成長しますよ」
 財務省の発表によると、国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の借金は2010年度末時点で924兆3596億円だという。国民1人当たりに換算すると722万円というのが、財務省の言い分だが、借金の先は国民なのだ。自国通貨建ての借金でデフォルト(債務不履行)した国は歴史上どこにもない。タイもアルゼンチンもロシアも、そしてギリシャも外国通貨建ての借金だったため、デフォルトしたのだ。
「日本がデフォルトするとしたら、それは日本国民が一斉に預金をおろす以外にありません。しかしそうしたら日本人はどこにいくんですか?パスポートの信用度では日本はトップクラスですが、デフォルトして紙くずになった日本円を持っていても海外では役にたちません。国内にいるなら、紙幣の価値はありません。結局、逃げようがないんですから、日本人は政府の国債を買い続け、政府から金利をとり続けるということでいいんですよ。金融は持続可能性があればいいわけで、金利の支払いができている以上、日本経済が沈没する可能性はありません」
 ぐっちー氏のこの楽観論はなかなか信じてもらえないという。その構図は、原発と一緒だ。
「僕は原発に関しては一刻も早く停止した方がいいという考えですが、原子力推進派は原子力ムラと呼ばれ『絶対に安全です』という安全デマを繰り返してきました。一度、僕も原発の見学に行きましたが、本当に『絶対安全だ』としか言わない。そして、その安全神話が崩壊し、日本だけでなく世界中に迷惑をかけています。その原子力ムラと同じように、財政ムラというのも日本にはある気がします。『絶対に破綻する』という破綻デマを繰り返し、増税を目論もうとする一派が残念ながらメディア、政界、官界を牛耳っていて、いまや一般人までも『増税しないと破綻する』というデマを信じるようになりました。原発がなくても電力は足りているし、石油が枯渇するよりもウランのほうが枯渇するスピードのほうが早い。再処理工場は2兆円かけて電力を1キロワットもつくりだせていない。政官業とメディアが一体となって同じことを主張したら、疑うことを忘れてしまいます。そうならないように、情報はもっとオープンにして、本当に必要なのは何かをメディアは報じるべきです。そして国民はメディアを信じないで、自分たちで情報を調べ、考えることが必要なんじゃないでしょうか」
 高橋氏、山本議員、ぐっちー氏。スタンスは違うが共通しているのは増税には反対ということだ。震災によって自粛ムードが漂っている国内での増税は景気を冷え込ませる。増税せずに復興資金を増やすことは今回示してきたように可能なのだ。あとは政治判断だけだろう。