昭和恐慌の教訓に学べ!(2) (2008.12.22)

昭和恐慌の教訓に学べ!(2)
2008.12 衆議院議員 山本幸三

1. (初めに)
 自民党金融調査会「金融政策に関する小委員会」に於いて、「昨今の世界的金融危機や景気後退の状況は1929,30年代初頭の大恐慌・昭和恐慌に酷似している。」との問題意識から、これを脱却する処方箋を見出すための勉強会が、「昭和恐慌の教訓と金融政策」と題して11月末から毎週1回、4回にわたって開かれた。そこで得られた知見は、従来の我々の常識を覆すようなものも多く極めて興味深いものだった。また、そこには、今日我々が採るべき政策の方向性も明確に示されており、多くの方々に是非知って頂く必要があると考え、勉強会で示されたエッセンスを私なりにまとめてみたところである。皆様の御参考に供したいと願うものである。

2. (昭和恐慌の教訓)
 1929年、浜口雄幸内閣の井上準之助蔵相の下で、割高な旧平価による金本位制への復帰が強行される。これは、「企業の整理・淘汰を進めなければ経済停滞から脱出できないという“清算主義”」の考え方に基づく政策であったが、しかし、この緊縮政策は大失敗に終わり日本経済は奈落の底に突き沈む、「昭和恐慌」である。
 これを一変させ、経済を巡航軌道に回復させたのが、1931年12月に誕生した犬養毅内閣の高橋是清蔵相による、いわゆる「高橋財政」である。その柱は、金本位制の放棄、緊縮財政の放棄、さらには赤字国債の日銀引受けによる超金融緩和政策である。この間の経緯から、以下のような教訓が得られる。

(1) 「デフレによって採算性の低い企業を清算することにより、創造的破壊が起こり、新産業が台頭する」という、いわゆる「シュンペーター仮説」は誤りであった。
 ─ 「井上財政」下では新規企業設立は激減し、「高橋財政」によって復活する。

(2) 大恐慌が終わるにはTVAのような大公共事業などの財政支出拡大が中心となったと考えられているが、実は鍵となったのはむしろ金融政策の方。
 ─ 日本でもアメリカでも当初2,3年は財政支出が拡大するが、その後は平準化し膨張し続けた訳ではない。むしろ、金融政策レジーム(政策当局が選択するルールの体系のこと)の大転換によってデフレからインフレになるかもという期待が大きく変化したことの効果の方が大きい。

(3)   「大恐慌が終わるには戦争が必要だった」という議論があるが、これも正しくない。
 ─ 戦争がなくとも大恐慌から脱出した国はイギリスなど幾つもある。日本でも軍事費が膨張し戦争に突入するのは高橋蔵相が暗殺された(1936)後のこと。

(4)  一番重要な教訓は、デフレ下では、まずデフレ予想を払拭して、インフレ予想の形成を促す「金融政策のレジーム転換」が不可欠だということ。
 ─ 予想インフレ率が急上昇するのは高橋蔵相が国債の日銀引受方針を発表した段階(1932年3月)で、それを受けて株価も、実際に日銀引受が始まる32年11月より3ヵ月前の8月には上昇に転じる。すなわち、人々の予想がデフレからインフレに急転換することによって、「高橋財政」は昭和恐慌からの脱出に成功するのである。

(5) 「日銀の国債引受けはインフレにつながった」とする見方が広く流布しているが、これも正しくない。
 ─ インフレがひどくなるのは高橋蔵相暗殺後で軍部の圧力に抗しきれなくなってからである。「高橋財政期(1932~1936)」は、2%(消費者物価上昇率)の穏やかなインフレの下で、実質経済成長率は7,2%へと昭和恐慌期の10倍にも上昇、株価は70%上昇、地価も下げ止まり1%上昇と抜群の経済パフォーマンスを誇るものだった。

(6) 「マクロ経済的な需給ギャップが需要超過に転換しなければデフレは脱却できない」というのも正しくない。
 ─ 実際に起こったのは、穏やかなインフレへの転化が先で、それを受けて景気の反転拡大となるのである。

(7) 「銀行の不良債権を処理しない限り、貸出しが増えず、デフレも脱却できない。」との主張も正しくない。
 ─ アメリカの大不況期も、日本の昭和恐慌期も、企業は資金余剰主体になっており、銀行からの借入れに頼らなくても投資は可能であった。両国とも不良債権処理が終わっていなくても、また、銀行貸出しが増加しなくても景気回復は実現したのである。

(8) 「インフレ予想が高まるとその分だけ名目長期金利が上昇して景気刺激効果はなくなる。」という日銀関係者がよくする議論も正しくはなかった。
 ─ 「高橋財政」で予想インフレ率が急上昇したが、現実の名目長期金利は金融緩和を反映して、むしろ低下した。その結果、予想実質金利が大幅に低下して景気回復に向かうのである。

(9) アメリカのオバマ次期大統領は、「大恐慌シフト」を敷いており、オバマ版「政策レジームの大転換」を図ってくるものと思われる。   
 ─ ローマー大統領経済諮問委員長とバーナンキFRB議長は、「大恐慌」研究の第一人者。財政・金融両面で思い切った何でもありの政策を断行してくることは間違いない。

3. (平成恐慌を阻止するための政策提言

(1)「高橋財政」に匹敵するような、デフレ予想を穏やかなインフレ予想へ転換させる「金融政策のレジーム転換」が必要。   
 ─ 具体的には、「インフレ目標政策+無制限の長期国債買取りオペ」の実行である。将来のハイパー・インフレを懸念する向きに対応するためにも1~3%程度という上下限付きのインフレ目標を設定することが望ましい。これまでのように日銀が小出しの政策をいくら積み上げても、インフレ予想の形成には効果がない。人々に「それならインフレになるかもしれない」と思わせるような大胆な政策レジーム転換、日銀の強固なコミットメントが必要である。

(2) 財政面でも、「レジーム転換」を目指した大胆な財政出動が必要。
 ― 金利引き下げ余力が極めて小さい状況下の景気後退局面では、健全財政はむしろ悪となる。赤字国債発行も止むを得ないし、それを日銀が間接的に買うということで消化は可能だ。今は、経済成長率を引き上げることに全力を集中すべきで、できることは何でもやるというのがよい。その中でも、将来の生産性向上、環境改善等に結びつくようなものを中心としたプログラムが望まれよう。名目経済成長率が3%を超える位になったところで、財政再建を考えていけばよい。

(3) 為替面で、注意すべきは、(2)の財政出動だけだと金利上昇圧力が生じて円高になり、財政出動の効果が失われるということである(マンデル・フレミング理論)。従って、(1)の金融緩和政策が必ず併行されなければならない。(1)、(2)両策を同時に発動して初めて効果が発揮されるのである。

今こそ「平成の高橋是清」が求められるのである!

(以上)