米国出張報告(2008.7.22~7.25)

米国出張報告(2008.7.22~7.25)

2008.7.28
衆議院議員  山本幸三

1 毎年5月の連休中にワシントンで行われる慣わしの「日米国会議員会議」が、今年は暫定税率法案の採決が連休中にセットされたため7月に延期された。そこで私は、7月22日に成田出発、23日丸一日「議員会議」を行い、24日ワシントン発25日に帰国するという二泊4日の強行スケジュールで参加した。「議員会議」だけでは勿体ないので、到着した22日の午後にはオバマ、マケイン両陣営の選挙戦略を担当しているというフライシュマン・ヒラード社のポール・ジョンソン上級副社長を、また、帰国する当日の朝には旧知のケヴィン・ウォルシュFRB(米連邦準備銀行)理事を訪ね、大統領選や米経済の状況について意見交換した。短い期間ではあったが、極めて有意義で中身の濃い旅であった。やはり、現地の空気を吸って動きを肌身で感じるということがいかに大事かということだ。

2 この「日米国会議員会議」は20年前に松田岩夫参議院議員(当時は衆議院議員)などの肝入りで始まったもので、今回39回目に当る。5月の連休時に我々がワシントンに赴き、暮れに米側が日本にやって来るというのが通例だ。2年前から韓国の議員も呼ぶようになり、1日は日・米・韓の3カ国で、もう1日は日米だけでやるようになった。今回は韓国は5月に訪米したので、日米だけの1日の日程となった訳である。私は93年に当選してからずっと参加しており、かれこれ15年目になる。
 日米友好協会の資金援助によって交通費等が賄われているのだが、近年財源が厳しくなっていることから参加者の人数が制限されてきており、過去に真面目に会議に出席してきたかどうかで振るいにかけられる。また、同時通訳無しでやるので英語が自由に駆使出来ないといけない。
 今年の日本側からの出席者は、共同議長の松田岩夫氏(参)と大野功統氏(衆)、杉浦正健氏(衆)、山本幸三(衆)、竹本直一氏(衆)、山中耀子氏(衆)いずれも自民から、それに民主党から前田武氏(参)の計7名の議員、そしてオブザーバーとして畠山襄日本経済財団会長であった。米側は、丁度議会の終末期ということもあり、ずっと出席していたのは米側共同議長のジム・マクダーマス下院議員(民・ワシントン州)くらいで、あとは入れ替わり立ち代りの出席であった。昔は上院議員が来ることもあったが、今は下院議員ばかりである。米側出席者を紹介すると、もう一人の共同議長であるトム・ペトライ(共・ウイスコンシン)、マドレイネ・ボルダロ(民・グァム)、スチーブ・シャボット(共・オハイオ)、ハワード・コブル(共・ノースカロライナ)、デイビッド・デイビス(共・テネシー)、マジー・ヒロノ(民・ハワイ)、マイク・ホンダ(民・カルフォルニア、慰安婦決議提出者で悪名高い)、ボブ・イングレス(共・サウスカロライナ)、マーシー・カプチュール(民・オハイオ)、ベッチィー・マカラム(民・ミネソタ)、ジム・センセンブレナー(共・ウイスコンシン、昨年までの共同議長)、フレッド・アプトン(共・ミシガン)、ジョー・ウイルソン(共・サウスカロライナ)の各下院議員である。この他に朝食会にだけ、ナンシー・ペロシ下院議長(民・カルフォルニア)が出席された。私は、このペロシ下院議長の大ファンで、相当の年だとは思うが美貌一向に衰えず知的で優雅な魅力には参ってしまう。米側では、この他にスポンサーの日米友好協会理事長のガングロフ氏、この会議全体のコーディネーターをやってくれるジョージ・ワシントン大学教授であるヘンリー・ナウ氏とその学生達が手伝い兼ねて参加する。
 ここで培った人脈はいろんなところで役に立つことが多い。前の共和党多数時の下院議長のデニス・ハスタード氏も熱心なメンバーだったので、彼が議長だったときは、日米関係にどれだけ貢献してくれたことか。また昨年私が経済産業副大臣のとき、ミシガン州のサンダース・レビン下院議員(民)が歳入歳出委員会の貿易小委員長となり、「日本は為替を操作している。」と批判したことがある。そこで私は早速彼のところに出かけ、「日本は為替操作など一切していない。」と直談判した。レビンのところに行くと言うと、日本大使館の連中は「あんな怖い人のところには、誰も行かない。止めた方がよいですよ。」と忠告をしてくれたものだ。しかし、私はかつてこの会議で彼と何度も激論を交わし、意見は違うが友人だという関係を築いていたので敢えて出かけたのだ。彼は決して自分の意見を曲げなかったが、しかし、その後「円安操作批判」はパタッと止まってしまったので、何らかの効果はあったのではないかと思っている。こういう人的関係が実に重要なのである。

3 今回の訪米で私は、米大統領選の行方と米経済の行方を探ろうと臨んだのだが、私にとって一番ショックだったのは、「米国人にとって日本の存在が取るに足りないものに成り下がってしまっていたことだった。」。15年前、私が初めてこの会議に出席したころは日米貿易摩擦華やかかりし頃で、本当に呼格泡を飛ばして議論し合ったものだ。「日本の市場が閉じているから、米の赤字が大きくなるのだ。」という議論ばかりで、これに対し私は、経済理論を駆使して、「米の貿易赤字は、米の貯蓄・投資バランスがマイナスだから生ずるのであって、市場の開放度とは関係ない。」と反論したものだ。分からない人がいるかもしれないので簡単に説明すると、「今もし日本の市場が閉鎖的で米の貿易赤字が生じたとしよう。次に日本が完全に市場を開放したら何が起こるか?まず第一に米からの輸入が増えて日本の産業がやられてしまうだろう。問題は、経済はこれだけでは終わらないということだ。日本では不況に陥る訳だから、金利が下降気味になろう。そうなると円安になる。すると輸出圧力が働くこととなり、輸出が伸びる。結果的にどうなるかというと以前の貿易収支の状況に戻るのである。つまり、変動相場制の下では、各国の貿易収支のバランスを決めるのは、その国の貯蓄・投資バランスなのであって、市場の閉鎖性とか開放度とかではないのである。勿論市場が開放している方が、消費者にとって有利なので開放には努めなくてはならないが。」ということである。  
 そういう激論が飛び交うことは今や全く無くなった。日本に要請することなど何も無いという雰囲気だ。米国人の目は、今や皆中国・印に向いているのだ。日本に何か言ってもどうせ言い訳ばかりして遅々として何も進まない。そんなことなら、中・印と話をした方がよい。話も早いし、儲けの規模も何倍も大きい。米の最大の関心は完全に中・印に移ったというのが、今回の実感だ。
 フライシュマン・ヒラードのポール・ジョンソン上級副社長に単刀直入に「貴方は、日本より中国の方が重要だと思うか?」と聞いたところ、即座に「そう思う。日本には古い友人もいるが、中国の儲けは日本の5~6倍に達するからね。」と明言された。昨年くらいまでは、まだここまではっきり言うのは憚られるという雰囲気があったのだが、最早そういうこともなくなったのだ。少なくともワシントンでは、「日本は相手ではない、今や中国だ。」というのが一般的な空気なのである。これが、日本があれだけ頼んでも、簡単に無視して「北朝鮮へのテロ国家指定を解除」した背景なのだ。このことを我々日本人は、よくよく認識しなければならない。日米関係は大きな岐路に差し掛かったと重々覚悟しなければならないのだ。

4 米大統領選は、どうやら僅差でオバマ勝利となりそうだ。各世論調査での支持率の差は、1~8%でオバマ有利と出ている。歴史的に米国民はバランス感覚を働かせるが、今回はオバマが余程の失敗をしない限り滑り込みそうだ。何しろオバマには、毎月8千万ドルの金が集まっている。これは、成人米国人一人当たり100$近く毎月寄付しているという計算で驚くべきことだ。一種のムーブメントともいうべきだ。歴史的に共和党優位とされるジョージア、ノースカロライナ、バージニアといった南部の主要州がポイントとなるだろうが、これら諸州でオバマはヒラリーを制している。とくにバージニアは鍵を握る重要な州となる。
従来外交に弱いと言われたオバマだが、今回の中東・欧州歴訪で賭けに出、結果は大成功でその弱点を十分カバーしたといえる。とくにベルリンでの演説には20万人の聴衆が集まり、かつてのケネディを彷彿とさせた。元々イラク戦争に反対した独・仏両国の首脳は、あからさまにオバマ期待の姿勢を見せた。
 争点は3つ。1つ目は、国内経済状況。今後経済状況が更に悪化すると、オバマよりもマケインに有利に働くかもしれない。ブッシュの失政をマケインとリンクさせる向きもあるが、マケインは伝統的な共和党員とは一線を画す存在。むしろ危機にはマケインの方が強いと見られるのではないか。
 2つ目は、イラク情勢。皮肉なことにイラクの状況は確実に改善している。これは、マケインに有利。しかし、状況が悪化すればオバマに有利となろう。
 3つ目は、副大統領候補。マケインは、外見も高齢に見えることが不利。レーガンは高齢だったが、若く見えた。従って、マケインにはバイタリティーの象徴となるような相棒が必要。地理的要素も考慮すれば、インディアナ、フロリダ、ペンシルヴェニア辺りの知事、上院議員経験者が相応しい。オバマはエネルギッシュであり、演説も上手でケネディのようなカリスマ性もある。加えてグローバルな人気もある。彼は、すでに歴史を作っており、また、彼自身が大きなリスクを取りつつ勝負しているので、副大統領候補に弱点を補ってもらう必要性は低い。その意味で、クリントンを選ぶのは大きな間違いとなろう。
 なお、皆大統領選にばかり注目しているが、それに勝るとも劣らず重要なのは、実は上院選挙だ。民主党の勝利が予想されるが、フィルバスター(長演説などによる議事妨害)を阻止出来る60票以上を獲得出来るか否かがポイント。オバマが勝ち、民主党が上院で60議席以上を獲得すれば、大きな変革が生ずるだろう。例えばヘルスケア政策などでだ。
 ところで今回の大統領選は、現職の大統領、副大統領が一人も出ていないという56年ぶりの選挙だ。このため、選挙後政権が安定してまともな政策が打ち出せるまでに相当の時間がかかるということを理解しておかなければならない。大統領が当選して、側近初め閣僚の人選が始まる。各省の次官、次官補、次官補代理等までの人事が出揃い議会の承認を得るまで6~7ヶ月はかかろう。それから部内でパワーゲームが始まりこれが落ち着くまでさらに3~6ヶ月くらい要する。つまり、来年末くらいまでは体制作りに手一杯でしっかりした政策は出てこないだろうということだ。このことを世界各国ともよく理解しておく必要がある。
 最後に印象的だったのは、ポール・ジョンソン氏が「自分は根っからの共和党員だが、今回ばかりはオバマに勝たせたい。ブッシュのお陰で米の国際的信用は地に落ちており、これを取り戻して米にも大きな変化を起こす柔軟性があるのだということを示せるのはオバマしかいないからだ。」と語ったことだ。共和党員といえどもインテリはオバマを支持している-彼らを「オバマ・リパブリック」と呼ぶそうだが-ということが、今回はオバマが勝ちそうだという根拠の一つでもある。

5 次に米経済だが、サブプライム・ローン問題等により不動産や金融部門は傷ついているものの、他の実体経済は意外に底堅いというのが識者の見方だった。これには、正直驚いた。日本では全ての分野において停滞感が漂ってきているのに、これとは大きく違うからだ。どういう産業が好調なのかと聞くと、エネルギー業界、IBM等の情報サービス産業、軍需産業、農業、国内旅行業界等が上げられた。ドル安で海外旅行が忌避され、NYやグランドキャニオンへの国内ツアーが活況を呈しているというのだ。また、ユーロ高でヨーロッパからの旅行客も増大していることは言うまでもない。
 ITバブルが崩壊した2000年や9.11が生じた2001年辺りと比べれば、こうした好調な産業が結構あること、また、ベンチャー・キャピタルにはまだ潤沢な資金があることがかなり違っている。加えて、ドル安は輸出産業を下支えするだろう。
 ファニーメイ、フレディーマックなど住宅ローンに係る現下の問題については、FRBは明確に事前に予測していた。不幸だったのは、議会がその警告を受けても何も動かなかったことだ。ようやくこの度「住宅ローン関連法案」が成立しそうだが、これは完全ではないが最良の解決策といえる。
 ただ金融市場の問題解決には、まだかなりの時間を要しよう。住宅価格が底を打ったとしても、金融市場の回復はまだ先だ。バランスシートもさることながら、インカムの回復が大事だからだ。
 私が、「民間金融機関にも公的資金を投入しなければ、本格的な解決にはならないのではないか?」と問うたところ、ウォルシュ理事は「それには強い抵抗感がある。米金融機関は、海外投資家の支えもあり、増資を着実に実施してきており、その必要性がないことを期待している。」旨答えたので、「どっちが正しいか、来年が楽しみだね。」と牽制しておいた。

6 今回の訪米を顧みて、「やはり米国は、動きが早く柔軟な国だ。」との感を深くした。サブプライム・ローン問題が起これば、思い切った金融緩和や大幅所得減税に走るし、大手金融機関の救済には手段を選らばない。日本の護送船団方式どころではないのである。財務省も連銀も仕切っているのはウォール街からきた人物か学者であり、癒着批判など気にもしていないのである。
 訪米前は、米経済も深く傷ついてその回復には相当の時間がかかるのではないかと考えていたが、好調な産業分野が結構あること、政策当局者の動きが早いこと等から、米の実体経済はかなり抵抗力があり、今後の見通しもそれほど悲観しなくてもよいのではないかと感じた。
 これに比べ日本の状況のいかに情けないことか。実体経済は明らかに後退局面にあるのに、「まだ、後退ではない。」などと担当大臣はうそぶいて何も対策を打とうとしないのだから。これでは、世界の舞台から日本が姿を消す運命にあるのもやむを得ないのかもしれない。欲求不満がいよいよ高まる旅となった。

(以上)