「量的緩和解除」を阻止する理由(2006.3月号)(月刊リベラルタイム)

平成18年3月号記事(月刊リベラルタイム)

「量的緩和解除」を阻止する理由

「デフレ脱却は目前」等、日本銀行が量的緩和解除に向けた「地ならし」と見られるメッセージを市場に向けて盛んに送っている。果たして、いま、量的緩和解除は正鵠を射ているのか。自民党金融調査会・金融政策小委員会の山本幸三委員長に聞いた。

単純な「量的緩和解除」は、また日本をデフレに突き落とす
日銀は説明責任を果たすべき

―昨年の総選挙後、自民党金融調査会・金融政策小委員会委員長に就任されました。  三月内に中間報告を答申する予定で、いま、盛んに議論をしているところです。

――― ところで、まず最初に、いわゆる「ライブドア・ショック」で証券市場が揺れています。日本経済にどのような影響を与えそうですか?
 それほど心配しなくていいのでは、と考えています。一つは、日本経済のファンダメンタルズがよくなってきていること。「小泉改革」を高く評価している外国人投資家の日本株買いの意欲は基本的に衰えないでしょう。
 また、むしろ一部のITベンチャー株で起きていたバブルのようなものがライブドア・ショックで破裂し、かえってかつてのブラックマンデーのような衝撃を与えかねない芽が摘まれるでしょう。そういう意味では逆によかったのではと思います。

インフレターゲット政策

――― このところ消費者物価指数(CPI)は二ヵ月連続で前年同月比ゼロ%を記録しています。デフレ脱却という声が一部でいわれ始め、日本銀行の福井俊彦総裁も講演等で量的緩和の見直しに言及しています。どう見ていますか?
 CPIがゼロ%になればデフレ脱却だとはとてもいえません。そもそも、どうなればデフレ脱却といえるのか。その定義を明確に示さないまま、簡単に政策を方向転換するのだとすれば、それはいかがなものか。
 もともとCPIには、上方バイアスがかかりやすいということも見逃してはなりません。基準年のバスケットとの比較数値がCPIですが、その間の品質向上が反映されないという事情があるからです。したがって、〇・三~〇・五%程度の上ブレがあって、しかるべきなんです。逆にCPIがゼロ%台だというのは、いまだにデフレだともいえる。基準年は五年ごとに改定され、この八月に改定の時期を迎えます。改定後の基準で見ると、やっぱりマイナスだったという可能性もあります。GDPデフレーター等、各種の指標がプラスになり、もう後戻りはしないという確信を深めることができなければ、軽々にデフレ脱却は唱えられないのでは。

――― 現状のCPIの特殊要因として原油高があげられますね。
 そうですね。原油高を除くと、CPIはマイナス〇・三%になるという試算もあります。

――― CPIよりもGDPデフレーターを重視すべきという指摘もあります。
 少なくともGDPデフレーターがプラスになることが(デフレから脱却したと認定されるための)必要条件です。一方、GDPデフレーターは統計の特性上、CPIとは逆に、下方バイアスがかかるので、この点は留意されなければなりません。  むしろ、デフレから脱却するためには、安定物価目標を日本銀行が揚げ、たとえば二年後にCPIを一~三%上昇させると公約する(インフレターゲット)政策を実施せよと私は提言しています。目標実現のために日銀はあらゆる手段を講じ、それによって確かに公約が実現するということになれば、市場の期待は高まるし、また日銀への信任も高まります。結果責任は問われますが、その間、日銀は政界から注文をつけられることはないでしょう(笑)

――― このところ日銀は量的緩和解除のシグナルを出しているようですが、その結果を含めて、説明責任が果たされていないように感じます。
 同感です。政策転換による結果責任を問われたくないから、というように見えてなりません。
 日銀は量的緩和解除に踏み切ったあとの日本経済がどうなるのか、ビジョンを示すべきです。それなしにシグナルを出せば、市場は混乱するし、透明性が保たれません。量的緩和解除後はどうなるのか、ここのところはお互いに議論して共通認識を持つべきだと日銀に呼びかけているところです。

政府と日銀の関係

――― 政府が中央銀行に対して圧力をかけるのは百害あって一利なし、ともいわれますね。いかがですか。
 政府と日銀のあり方について、きちんと議論されていないから、そのようなことがいわれてしまうのでしょうね。日銀が目標値について政府と協議するのは当然でしょう。ただし、目標を決めた以降は、日銀は自立性を持って、あらゆる手段を講じるというのが、政府と日銀の関係の健全なあり方。目標を含めてすべて日銀が好きにやってよいというのは暴論ですよ。

――― 金融政策小委員会では数値目標の設定についても議論する予定ですか。
 それについても今後、議論していくつもりですが、まず第一回目はデフレ脱却の定義とはなんぞやという基本的部分から慎重に議論しています。内閣府等が定めているデフレの定義とは、継続的に物価が下落し続けること。継続的とは二年以上を指します。つまり、GDPデフレーターを含めて、あらゆる数値でこの逆が実現されている状態がデフレ脱却であるとの共通認識が委員会で形成されつつあります。

――― 業績好調な企業もデフレへの警戒を解いていないというのが実態です。  業績好調といっても、その主因はリストラ等ですし、価格の頭が押さえつけられている状況は依然続いており、手放しでデフレから脱却しそうだと、企業は考えていませんね。
 もちろん、デフレ脱却に向けて、政府も手を尽くしているところです。名目成長率を向上させることと、インフレにならないように物価を上昇させ、税収を上げることが財政再建の特効薬でもあるのですから。名目成長率を上げるためには潜在成長率を刺激し、生産性を高めなければなりませんが、そのために構造改革、規制緩和を推進しているわけです。具体的には物価でプラス二%、名目成長率でプラス四%程度という数値目標について、日銀と議論を重ねた上で共通認識を築いていきたいですね。

―――  一方、福井日銀総裁は、量的緩和解除のタイミングを失するとインフレになると警鐘を鳴らしていますね。またインフレターゲット政策の落とし穴として、数値目標を超えてインフレになる懸念があるという声も日銀等からは聞かれます。
 インフレを抑えるのがインフレターゲット政策の本筋ですから、なにをかいわんやですよ。結論ははっきりしていましてね。インフレターゲット政策を導入した各国をご覧になってください。イギリス、カナダ、オーストラリア、そして韓国等、いずれも高い経済成長を遂げているのではありませんか。外国でできて、日本ではできないというのは不思議な話です。
 私は日銀とケンカ腰で構えているわけではありません(笑)市場の期待感が高まることによって、デフレ脱却にも大きな弾みがつきます。政府と日銀がケンカして、市場を疑心暗鬼にさせることが、一番よくない(笑)責任の明確化と透明性を持ち、政府と日銀の強い覚悟を市場に伝えることが重要。インフレターゲット政策の導入こそ、その決め手です。

日銀と庶民感情のズレ

――― 仮にいま、日銀が量的緩和解除に踏み切った場合、日本経済はどうなりますか。
 物価目標等を示さないで、単純に量的緩和解除に踏み切ったとすると、結論からいうとデフレへの逆戻りです。二〇〇〇年八月に日銀は量的緩和解除に踏み出そうとして、アメリカ経済の変調等によって、失敗した過去がありますね。それを上回る信用失墜に日銀は見舞われるに違いありません。
 そうなれば日銀法の改正もやらねばなくなるでしょう。つまり、いま、日銀が考えていることは、自分で自分の首を絞めようとしているも同然といえます。

―――  一方で預金者からはゼロ金利がいつまでも続いていることについて、不満が高まっています。
 ゼロ金利を続けてきたおかげで企業が立ち直ることができた、中小企業も助かっているという効用がありますが、ゼロ金利が一般庶民に痛みを与えていることについては、私もそうだろうなと思っています。だからこそ物価安定をはかり、デフレからの脱却を早く達成しなければなりません。

――― 日銀支店長会議では、地方を含め、日本の景気は回復したと分析しているようですね。庶民感情からはずれているような気がしてなりません。
 日銀が庶民感情から乖離しやすい体質を持っていることは否めません。二極化が進んでいるだけで、一般の人々の暮らしはまだまだ厳しいというのが実態に違いありません。それだけに、日銀総裁たるもの、責任はとるからおれにまかせろという、ガッツを見せてほしいものですね。