論争 量的緩和解除の是非(2006.2.7号)(週刊エコノミスト)

週刊エコノミスト 平成18年2月7日号

論争 量的緩和解除の是非

量的緩和解除をめぐっては、政府・与党と日銀の対立構図がある。解除に反対する自民党金融調査会の山本幸三・金融政策小委員会委員長と、早期解除を唱える経済同友会の高橋温・経済政策委員会委員長に聞いた。(山本幸三インタビュー抜粋)

「デフレ脱却の展望なしには許されない」・・・山本幸三

―自民党は昨年12月8日に金融調査会の下に金融政策小委員会を発足させた。狙いは何か。

■ 昨年11月上旬に中川秀直・政調会長から「デフレを脱却しなければ、小泉改革は成功しない。それを確かなものとするための党としての政策を打ち出してほしい」と要請された。中川会長には「日銀が自分の庭先だけをきれいにしようと考え、行動されては困る」という問題意識がある。つまり、デフレ脱却が明確になる前に金融の量的緩和を解除して、また深刻なデフレに逆戻りさせてしまうことを警戒している。

解除の条件はCPI2%程度の上昇

―12月15日の初会合では、日銀の局長クラスが出席している。

■ 初会合ではデフレの定義を改めて議論した。日銀は量的緩和解除の条件として「生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)が安定的に前年比ゼロ%以上で推移する」ことを挙げているが、その場ではっきりしたのは、日銀でもこの条件を「デフレ脱却」とは認識していないことだ。出席者からは「では何のために解除するのか」「日銀はデフレ脱却を本気で考えているのか」と厳しい意見が出た。日銀の説明は心もとないものだった。
国際通貨基金(IMF)の定義ではデフレは2年以上続けて物価が下落する現象だ。逆にいえば、デフレ脱却には2年以上継続して物価上昇を確認する必要があるのではないか。また、CPIだけではなく、総合的な物価動向を示すGDPデフレータがプラスになるなど慎重に対応すべきだろう。

―2000年8月の日銀のゼロ金利解除は失敗だった。当時と比べて大企業の財務内容は各段に良くなったが、中小・零細企業は改善が遅れている。

■ 量的緩和の効果としてよく効いているのは、中小企業の資金繰りだ。ここが大丈夫だと確認できるまでは量的緩和を継続すべきだ。CPIでいえば、2年後に2%を挟んでプラスマイナス1%程度の上昇目標が達成できる状態を日銀が確約できるというなら、やってほしい。ただし、達成できない場合は、責任をとっていただく。それがはっきり見通せる状況にないなかで解除する意味がどこにあるのか。

―金融危機の状況を脱し、構造改革が最終段階に差し掛かった。市場原理を効かせるためにも金利を正常化させていくべきではないか。

■ 00年8月、引き締める必要のない時に、それをやって潰さなくていい企業を潰したのは、日銀だ。当時「今、金利を引き上げれば、出さなくていい失業者を出すことになる」という我々の意見を日銀は無視し、ゼロ金利解除を強行した。それをしっかり反省しなさいと、言っているのだ。

解除強行は
日銀法改正論議にも

―現状では実質金利はマイナスだ。緩和継続は資産バブルを引き起こさないか。

■ 私は実質マイナス金利状態をもっと早く作るべきだったと思う。量的緩和の効果や狙い、目標が曖昧なままだったために、本来、もっと効果のある政策がそうならなかった。デフレ脱却の兆候は資産バブルであり、問題はない。

―政府・与党と日銀が金融政策で対立している状態に問題はないか。

■ 日銀の独立性は尊重するが、政府の政策目標からの独立はありえない。解除後はどういう目標で金融政策を運営するのか、明確な展望を示さないままでは、市場は混乱を起こすだろう。政府のデフレ脱却目標の達成に向け、中央銀行としてどんな金融政策で協力するのか、その展望をわかりやすく説明し、それが妥当なら後の手段は日銀に任せる。デフレ脱却の展望なしの解除は許されない。
 3月中旬までに小委員会の中間報告をまとめる。日銀が解除を強行し、再び景気を失速させるような事態となれば、日銀法改正の議論が高まるだろう。

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政府・日銀の金融政策論争

 日銀の量的緩和解除姿勢は、CPIの「前年同期比プラス」が視野に入り始めた昨年10月以降、強まっている。11月23日付『毎日新聞』で、経済評論家の田中直毅氏と対談した福井俊彦総裁は「政府と十分、意思疎通をしながら、判断は100%日銀政策委員会の責任でやる」と解除への強い意欲を示した。日銀にとって、金利引き上げ時期を逸し1980年代後半に引き起こした資産バブルを回避したいとの思いは強い。
 こうした動きに対し、政府・与党は猛反発した。竹中平蔵総務相は11月25日「中央銀行がまるで政策目標を決める独立性まで持っているかのような議論が行われている」と批判。自民党の中川秀直政調会長からは「日銀法改正を視野に入れる」との発言も飛び出した。 自民党は12月8日、日銀の金融政策について議論するため、金融調査会の下に金融政策小委員会(山本幸三委員長)を設置。日銀幹部を呼び出して議論するなど、量的緩和解除を牽制する動きを強めている。
 竹中総務相らの日銀批判の背景には、財政再建に向けた思惑がある。竹中総務相は「4%の名目成長率を続けられれば、消費税を上げなくても財政はバランスする」と語る。名目成長率は実質成長率に物価上昇率を加えたものであり、インフレを起こすことで税収を上げ、財政を再建させるシナリオだ。そのためには、長期金利を低位安定化させる量的緩和政策を継続し、名目成長率が長期金利を上回り、さらにその格差が広がるようにしなければならない。 だが、竹中氏のインフレ政策には自民党内にも異論がある。12月26日の経済財政諮問会議で、与謝野馨・経済財政担当相は竹中氏が主張する名目成長率4%は「楽観的すぎる」と述べ、「長期金利が日常的に名目成長率を下回ることはない」として竹中氏と対立している。