第34話:ローカル・ホロニックス ~”生きたシステム”~

 

幸ちゃん物語 第34話 (北九州地域再活性化私案編)

ローカル・ホロニックス

~”生きたシステム”~

 北九州地域の抱える問題点は、これまで述べてきたことでかなり鮮明になったと思う。

 では、こうした問題点を踏まえ、将来どのような都市像、地域像を描いていったらよいのだろうか。それは、換言すると”北九州地域の活性化”を図っていくこと、ひいてはその”活性化”の中身を考えていくことである。このあたりのコンセプト・ワーク(概念規定)をしっかりしておかないと、方向を見誤ることになる。

 ここで参考になるのが、最近、生命科学の分野で注目されている”バイオ・ホロニックス”の考え方である。

 これは、東大の清水教授などが中心となって提唱しているものだ。これまでの研究では、生命体を分子的にバラバラにして、その機能を分析的に調べる方法が採られてきた。ところがこの方法では、どうも生命をとらえきれない。その反省から登場したのが、「全体として生きているということはどういうことか」といった東洋思想的な方法で、生命を包括的にとらえていこうという考え方である。”ホロニック”とは全体を表す「hol」と個を表す「on」とを組み合わせたもので、”「holon」(全体子)”という造語からきている。つまり、全体と個の調和を図っていこうという意味だ。

 少々専門的になるが、この考え方をざっと紹介しよう。
 「活動している生体において、さらに分子の活動状況を見ることができないだろうか」、1978年、清水教授らはこのテーマに取り組み「流動セル」という実験装置を作成した。
この装置はうさぎの筋肉から運動タンパクを生化学的方法で取り出しうまく並べ、それがある条件のもとにおいては、自然に運動するようになるというものだ。つまり、生体の化学的エネルギーを、熱エネルギーに変えずに、直接機械的エネルギーに変換してしまうもので、人間が初めてつくった生きたエンジン(バイオエンジン)といってよい。

 この装置を使って実験した結果、明らかとなったことは、生物は運動あるいは機能というものを、自分の力でつくり出す能力をもっているということだった。

 「流動セル」のなかでは、自分で運動をつくり出した分子は、同時にそれを情報として並んでいる分子に送る。その情報がうまく伝わったとき次の分子がよいタイミングで働き、全体の流れがスムーズになって、エネルギー効果がグンとアップするのである。ところが各分子が勝手に動き出してしまうと、全体の流れはうまくいかない。

 実験の結果、”生きているシステム”というのは、
一、自力で情報をつくり出し、ほかに伝える。
二、受け取った方はそれを選択し、お互い協力し統合してつくりあげていくということである。
つまり、このような選択的な内部状態をもったものの集まりからシステムができあがっているというのが、清水教授らの考え方である。

 この選択的な内部状態をもつ強力的な要素をホロンと呼び、これらのホロンの集まりによって生きているシステムを分析することをバイオ・ホロニックスと呼んでいる。この生きているシステムの特徴は、調和または秩序にある。個と全体の選択的な調和問題が、その基本になっている。
 
 この秩序ということについて、人間の眼を例にとって説明してみよう。私たちの眼には、水晶体とか網膜といった細胞の集まりからなる組織がある。この組織の上には、例えば眼球のような器官、個体、さらには集団、社会(生物種)、生態系とさまざまの生きているシステムが階層状に存在し、最後には”生きている地球”によって包まれた大きな”生命”を形づくっていると考えられる。さらに、各階層には、そのレベル・種類に応じたホロンがある。個性と自律性をそれぞれもつホロンは、その選択性のゆえにシステム全体における秩序形成に自主的に参加し”全体”をつくっている。

 要するに、生きているシステムでは、個と全体はお互いに動的に結ばれた階層構造をなしており、両者は切っても切れない関係にある。

 説明が長くなったが、ホロニックスの考え方はご理解いただけたと思う。

 もちろん、この場合のシステムは生物にかぎらず、物理化学的な体系や工学的なシステム(例えばコンピュータ)でも人間社会でもかまわない。われわれの最大関心事である都市体系、地域社会にも適用可能である。

 このバイオ・ホロニックスの考え方を応用して、私は”ローカル・ホロニックス”を提唱したい。つまり、都市や地域をシステムととらえ、これが生き生きとして活力あるものにするにはどうしたらよいかを考えていこうというのである。