第28話:地方は試練の時代に ~国際化と広がる情報格差~

 

幸ちゃん物語 第28話 (北九州地域再活性化私案編)

地方は試練の時代に

~国際化と広がる情報格差~

 次に、経済の国際化ということがある。現代世界は、全面的な”国境なき経済(ボーダーレス・エコノミー)のの時代”に突入しつつある。実際、人類の歴史が始まって以来、今日ほど”国際化”の進展した時代はないだろう。戦後、アメリカのリーダーシップのもとに結実した自由貿易主義は、保護主義の台頭に揺れながらも資本主義の基本哲学として定着している。また、通信・運搬における技術革新は、地球のもつ空間的・時間的広がりを一挙に圧縮した。その結果、自由主義圏、なかでも先進国間の経済取引は、あたかも国内における経済取引と区別できないほどにまで容易になり、経済の統合が進展してきた。

 その変化は、資本市場においてとくに著しい。”カネにイロはない”というように、カネの国際移動は極めて容易であり、今日、国際資本は高い収益を求めて国境を無視して動く。”モノ”についても、ケネディ・ラウンド、東京ラウンドと逐次関税引き下げが行なわれ、貿易額は非常な拡大をみた。

 また、”ヒト”の移動も活発化しており、国境を越えて活動するビジネスマンの数は数えきれないほどである。最近では、企業活動も著しくグローバル化し、多国籍企業は生産基地、販売拠点、研究施設、本社機構などを地球的な見地から世界中に配置するようになっている。
 この国際化の時代に生き延びていくためには、質の高い情報を早めに獲得できるかどうかが鍵となる。

 情報という点については、東京が明らかに優位に立つ。中央官庁の100%、上場企業の本社の50%、全国紙5社、ナショナル・ネットワークをもつテレビ局6社のすべてが東京に集中している。また、海外からの来訪者の7割強が、成田、羽田の空港を利用している。

 郵政省(現総務省)の調査によると、東京都の情報発信量は、日本全国の86・7%にも達している。第二位の大阪府が7・8%で、この二つの地域だけで全国の94・5%を占め、残りわずか5・5%を45都道府県で分け合っている勘定になる。
このように、情報ほど地域格差をもつものはない。所得格差にせよ、東京は全国分配所得の15%、一人当たりで全国平均の1・5倍程度。逆に一人当たりの工業生産高は0・96倍と全国平均を下回る。卸売高、銀行預金、大学生数はいずれも全国平均の3倍前後を示しているが、一人当たりの情報格差の約9倍と比較すると、格差の程度はまだ小さいといえる。こうした情報格差があるかぎり、経済的要素の東京圏への集中は今後とも避けられない。

 情報はまた、それ自体の倫理をもっている。それは、情報の価値はそれがより個別的、具体的なものになればなるほど上がっていくというものである。

 例えば天気予報で、「晴れのち曇、ところによってにわか雨」というのは、あまり意味をもたないが、「後楽園球場には、今晩雨が降りません」というのは、情報としては大変価値がある。実際に、天気予報サービスの会社があって、後楽園球場ではかなりの金額を払ってサービス提供を受けていたそうだ。というのも、雨が降って試合中止となれば営業面でも大きな被害を被るためで、事前に天候を予知しておくことは企業戦略のうえからも大きな意味をもっているからである。現に、そのサービスを受けることによって、従来弁当の売れ残りが7%近く出ていたのが、3ないし4%に減少したということだ。全天候型に変身した今は、天気の心配はなくなったが、情報の価値を知るうえでは面白いエピソードである。

 こうした、より個別的、具体的な、価値ある情報を獲得するためには、その専門家集団が集まるところにいるのがいちばんよい。企業にとっては、関係官庁やライバル企業や金融機関などと頻繁に接触できる東京がベストということになる。昔ある金融機関が、思い切って本社を地方都市に建設したが、質の高いホットな情報が収集できず、結局本社機能を東京に戻したという話を聞いたことがある。