瑕疵担保特約とゼロ金利解除について(2000.8.3)予算委員会 質問議事録

 

衆議院予算委員会議事録 (平成12年8月3日)

《山本(幸)委員》 
21世紀クラブの山本幸三です。きのうに引き続いて御質問したいと思います。
まず最初に、八城参考人と再生委員長にお伺いしたいのですが、新生銀行、そごう問題に絡んで一番問題になっている瑕疵担保特約の問題があります。
これはいろいろ議論が行われてきたわけでありますけれども、契約もされちゃっているわけです。これはいろいろな見方がありますが、どうしても、やりようによってはつぶしてしまった方が新生銀行は得をするというふうに世間から見られるわけですね。第一ホテルにしろライフにしろ、そういうことも巷間言われちゃってしまっている。私は、このことは余り新生銀行御自身にとっても好ましいことじゃないんじゃないかというふうに思っています。もともと、私個人としても、こういう処理をするときには通常のリスクは当然買い取る銀行は負うべきだという主張をしておりまして、その意味で瑕疵担保条項は問題がある。
日本の銀行はやはりたくさんリスクのある債権を抱えて苦吟しているわけですね。そういうときに、リスクがゼロという状況にあるというのが批判される対象になるので、これは契約されちゃって、どうするかというのは難しいところがあるのですが、これからそういうリスクは、日本の銀行と比べてみたらより軽い方だから、もう自分のところで負担しましょう、自主的にそういう買い取り請求はやらない、そういうつもりはございませんか、八城社長。

 

《八城参考人》
瑕疵担保条項は、長い間の交渉の結果、政府側から提起をされたものでありまして、実はそれ以外にも、これは聞くところでありますけれども、複数の買い手の中からは、引当金をもっとふやして、多額の引当金が欲しいというところもあったように伺っております。もしもこの瑕疵担保条項がなければ買収はしなかったと思います。
したがって、今後の運用でありますけれども、先ほどもほかの先生の御質問にお答えいたしましたが、瑕疵担保条項のもとで解除権が成立しても直ちに行使するということは全く考えておりません。既に行使した件は一件だけでありまして、そごうだけであります。それ以外に既に成立しているものはたくさんございます。これは、やはり我々としても、銀行として協力をしながら再建に協力をしたいと考えているケースが多々ございます。
以上でございます。

《山本(幸)委員》 
私は、八城社長を大変尊敬しているんですが、ぜひそういう御努力をお願いしたいと思います。
金融再生委員長、そういう八城社長の御意見も踏まえて、次の問題が出てきているわけですね。
今、契約が一カ月延びているんですが、これについては、やはり通常のリスクというのは当然買い取る銀行はとるべきじゃないかという観点から、そういう瑕疵担保条項のついた契約はやめて、もしそれで買い取り先が嫌だと言うんだったら、最終的に整理回収銀行で処理するというようなことのお考えはございませんか。

《相沢国務大臣》
こういうような売買をいたします際に、御承知のように、ロスシェアリングの方式もありましょうし、引当金を積み増すという方式もありますが、いろいろ検討した結果、やはり瑕疵担保特約をつけて売るのが一番いいのではないかという判断でそうしたわけであります。これは、そういう処分をするときに当然のことで、費用最小の原則という考え方があります。引当金を積むということになりますと、その他の買い取り候補については、相当巨額な、瑕疵担保条項つきでの引当金の倍を要求するというようなこともありますし、ロスシェアリングに関しましては、これは住専には規定がありましたが、今度の再生法にはございません。なぜなかったかということについては問題がありますが、そういうことでありますから、民法五百七十条、それから商法五百二十七条でしたか、その瑕疵担保条項の規定を援用いたしまして特約を付したということでありまして、これは既に契約の中身になっていることでありますけれども、これが一番よかったんじゃないかというふうに私も思っております。

《山本(幸)委員》
それでは、八城参考人、金融再生委員長、結構でございます。ありがとうございました。
それでは、日銀総裁に引き続き金融政策についてお伺いします。できればちょっと近くに、時間がないものですから、来ていただければありがたいんですが。
きのうの議論で大変重要な問題が明らかになりました。それは、総理の考えている経済政策の方針と日銀総裁の方針が違うということです。総理は、日本経済は必ずしも景気回復の軌道に乗ったという見方を私はしていない、非常に微妙な段階だ、したがって、こういう大事なときこそやはり景気を本格的に回復するという基本的なスタンスをとっていきたいと言っています。つまり、今はまだ微妙な段階であるから、景気回復にそごを来すような政策はとるべきでないと、はっきりと経済政策の指針として述べられました。それに対して日銀総裁は、今や経済情勢は回復傾向が明らかになってきている、したがって、ゼロ金利解除の条件はもう整ったという判断をしているという発言をされました。
私は、これは非常に大きな問題があると思っています。なぜならば、日本銀行法第四条に、日本銀行の政策というのは政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるように努めなければいかぬと書いてある。これに反する。このことが私は金融政策の運営上非常に問題があるというように思います。
そこで、ではどうしてそういう判断をするんだという日銀総裁のロジックを私なりに分析してみますと、総裁は、要するにデフレ懸念の払拭が展望できる状況になったという判断をする理由は、これはその定義ということで説明されたんですが、物価の低下があったとしても、技術革新とか流通の合理化、そういうものによって起こったものはデフレ的なものとは言えない、そういうものはあってもいいんだ、あってもデフレ懸念の払拭を展望する状況だと判断できるんだという考え方を示された。
それからもう一つは、ゼロ金利を解除しても、これは引き締めじゃないんだ、したがって心配する必要はありませんよという趣旨の発言をされました。
これは全く私には理解できません。
それからもう一つは、不確実な状況がある、不確実なときにはむしろ金利を上げていっても、つまり金融緩和の程度を微調整するという言い方なんですが、要するに金利を上げていっても健全な経済発展に資するんだというロジックを展開されました。
私は、こうしたロジックはすべて日銀の勝手な思い込み、勝手なロジックじゃないかというふうに思います。
まず第一に、技術革新とか流通合理化によるものだったら物価が下がってもいい、本当にそうか。私は、それは状況によって違うと思います。
今は好況にあって、アメリカみたいに好況で、これからむしろインフレが過熱するかもしれないという状況のときには確かにそういうものが非常にいいでしょう。しかし、逆に不況のときにそういうことが起こった場合に、物価というのは不断にそういうことが起こって、競争によって下がるという圧力が働いているわけですね。それが不況のときにあったらどうなるかというと、何が起こるかというと、供給曲線が下がるわけでしょう。供給曲線が下がって、そして企業は競争にさらされて、負ける企業はどんどんつぶれていきますよ。失業率は上がりますよ。(発言する者あり)ちょっと、わかったから。今は技術革新と流通合理化によって起こる物価下落のことを言っているんだから。 
それで、そうなるとまさに不況の縮小均衡が始まる。もう総裁はよく御存じのように、フィリップス曲線というのがあって、物価と失業率は関係していますよね。物価が下がれば失業率がどんどん上がりますよ。したがって、総裁のおっしゃるのは、この不況下においてまだまだどんどん失業者をふやしてもいい、あるいは企業をどんどん倒産させてもいいと言っているように私には聞こえます。これは問題だ。
それから、ゼロ金利を解除しても引き締めじゃない、そんな議論は聞いたためしがない。世界の中央銀行総裁で、金利を上げてこれが引き締めじゃないなんと言う中央銀行総裁がいたら教えてほしい。
だって、ゼロ金利を解除するということは、金利を、〇・何%にするかは微調整という定義次第だと言うかもしれませんが、少なくともゼロから〇・二五ぐらいに上げるということでしょう。そうすると何が起こるかといったら、すべての金利に波及して上がっていきますよ。預金金利も上がるかもしれないけれども、同時に有利子負債、企業の貸付金利が上がって企業は困難に陥る。これこそまさにデフレを起こすというような政策じゃないですか。
個人消費がよくなるかという議論は……(発言する者あり)答えられたらやりますけれどもね。個人の預金が上がったら個人消費が上がる、そんなことないんです。そんなものは、所得の中で個人の利子所得というのは四・三%しかないんです。雇用所得は七四%なんです。だから、これはもう圧倒的に関係ない。
それから、インフレリスク、何か心配しているんだけれども、日本経済は、どこに今そんなことを心配する必要があるんですか。先行き不確実なときには金利を上げた方がいいというように言えるけれども、逆じゃないですか。今金利を上げるというような、総理が言っているようにこの微妙な段階に金利を上げるというようなことをやろうとする動きがあるからこそ不確実な状況がどんどん高まっている。日銀の姿勢が不確実な状況を高めているんじゃないですか。
以上のことから、まとめてお答えいただきたいと思いますが、まず第一、総理の経済政策の方針と違うということについてどう考えられるか。第二、不況下において技術革新とか流通の効率化によって価格が下がることは問題ないと言うけれども、不況下においては、私は、それはデフレのもとにおけるデフレ政策になる、問題だと思うけれども、いかがですか。第三番目に、要するに、ゼロ金利を解除して金利を上げるということは実体経済にいい影響を与えるということを我々がはっきり示さなきゃ、そんなことをやっちゃいけないんですよ。どこがよくなるんですか。さっきおっしゃったように、利子所得が上がって個人消費がふえるということを証明するんですか。それから第四番目に、日本経済のどこにインフレリスク、そういうものがあると言うんですか。
この四つについてお答えをいただきたい。

《速水参考人》 時間がございませんので、なるたけ簡単にさせていただきます。
まず第一に、政府と、総理と考え、方針が違うんじゃないか、日銀法の三条と四条の関係のことをおっしゃいました。
四条は、おっしゃるように、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」と書いてございます。三条には、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。」とも書いてございます。新日銀法では、政府との密接な意思疎通を図りながら、日本銀行の責任と判断において金融政策の決定を行うように求められております。
今後とも、この法律の趣旨を踏まえて、毎回の金融政策決定会合におきましては、金融情勢を十分に検討した上で適切な政策判断に努めてまいりたいと思います。
今、情勢判断等につきまして政府と見方が違っているということはほとんどないというふうに思っております。
それから、第二の御質問にございました物価の問題でございますが、これはやはり、新しい構造改革あるいは技術革新、流通合理化あるいは規制の緩和、撤廃というようなことが行われまして、最近では、こうしたものによる物価の低下というのがかなり進んでいるように思います。
これは、こうした動きが同時に経済活動の活発化とか企業収益の増加をもたらしておりますし、その限りでは、物価と景気との悪循環といったようなものにつながるものではないと思っております。
こうしたことを踏まえまして、日本銀行では、複数の物価指数の動きとか、それらを取り巻く経済環境などを丹念に点検しまして、安定的な経済発展と整合的な物価の安定とが持続しているかどうかということを常によく見て判断していくように努めております。
それから、三つ目の、引き締めではないかというお話でございますが、私どもが昨年の二月以来ゼロ金利政策をとってまいりまして、その目的は、金融面から景気をサポートするということにあったわけでございます。
景気の現状を昨年の初めごろと比較しますと、回復傾向が明確になっております中で、企業収益が大きく改善してきております。このような景気回復の状況に応じて金利水準が微調整されても、金融が大幅に緩和され、したがって景気をサポートする役割を果たすという状況には変わりはないと思います。金融政策を決定する政策委員会においては、金融が緩和された状態を維持して、これを通じて景気をサポートするという考え方が大勢の判断でございます。
先生御記憶と思いますけれども、御参考までに、九四年の二月にアメリカが利上げを行いました際は、FFレートをまず三%から三・二五%に引き上げております、オフィシャル・ディスカウント・レートはさわらないでですね。そのときにFRBは、FOMCでグリーンスパンが、ア・レス・アコモデーティブ、金融緩和を弱めるんだ、こういう表現を使って、最初の引き上げをやっております。これなどは私どもと考え方が共通するものだというふうに申し上げていいかというふうに思っております。
あと、インフレリスクということでございますが、確かに、現在インフレの兆候は明確に見えているわけではございません。しかしながら、経済の回復傾向が明確化しているもとで、ゼロ金利政策という極端な金融緩和政策を続けますと、いずれ、経済、物価情勢の大きな変動をもたらしたり、より急激な金利調整が必要となるというようなリスクが増大すると思います。経済の改善状況を確認しながら金融緩和の程度を微調整することが、長い目で見て健全な経済発展に資するものと考えている次第でございます。皆がわかってから手を出したのでは手おくれになるということでございます。

《山本(幸)委員》
総理の方針を、全く違わないと勝手に解釈されている、これは大変問題だと思いますし、そのほかも日銀独自の勝手なロジック、思い込み以外の何物でもないと思います。私には全く説得的ではありません。アメリカはマネタリーベースも含めてマネーサプライが十分に伸びているのですから、そういうことと全く違います。
しかし、時間が来ましたので、本当は二時間ぐらいやりたいのですけれども、終わります。

《原田委員長》
これにて山本君の質疑は終了いたしました。