補正予算とゼロ金利解除について(2000.9.28)予算委員会 質問議事録

 

衆議院予算委員会議事録 (平成12年9月28日)

《山本(幸)委員》 
21世紀クラブの山本幸三です。
 時間が限られておりますので、物事を単純化して進めざるを得ません。舌足らずになることがあると思いますけれども、お許しいただきたいと思います。
 総理が外されましたのでちょっと困るのですが、私は、金融政策と財政政策の関係について議論をしたいと思うのです。
 先月、八月の臨時国会のときにこの席で、私は、現在の景気の現状、そしてまた将来の見通し、つまり原油高騰とか、あるいはアメリカ経済、アジア経済、ヨーロッパ経済、そういう見通しを含めて考えると、日本銀行がゼロ金利解除をするのは早過ぎる、これは急ぐべきではないということを申し上げました。森総理も同じような見解を示されました。
 にもかかわらず、日本銀行は、全く私どもの言ったことを聞く耳を持たないで、ゼロ金利解除を八月十一日に強行いたしました。私はこれを見て、一国の内閣総理大臣がこれほどばかにされた政策決定というのは見たことがない。その結果、海外のエコノミストは森総理のおっしゃることを信用できなくなった。また、日本国の信用が失われました。ムーディーズは国債を格下げいたしました。そして今、森内閣は補正予算編成に追い込まれたということであります。金融政策が引き締めに移るから、その結果、財政政策で補正予算編成に追い込まれる。これは、私は本末転倒の政策決定ではないかという気がしておるのです。
 その議論をしたいのですが、最初に、事実関係として、八月十一日、日銀がゼロ金利解除を決定する前に、日銀総裁から総理のところに何らかの御相談なり、電話でも結構ですけれども、そういうものがあったのでしょうか。

 

森内閣総理大臣
金融政策は日本銀行の所管事項でありまして、合議体の意思決定機関であります政策委員会が判断するものであります。これは前国会でも議員から御質問があって、申し上げたと思います。
 日銀総裁が政府に事前に相談することにはなってはいないわけでありまして、先般のゼロ金利政策解除に際しても、事実、相談は受けておりません。

《山本(幸)委員》 
私は、それは、日銀法第四条、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」ということに抵触すると思います。これは一つの問題としてある。
 それから、今言ったように、総理の信用あるいは日本国の信用が失われたわけです。その結果、金融で引き締め、そして財政で拡張という政策の組み合わせに追い込まれつつあるわけですが、実はこれは変動相場制のもとでは最悪の政策の組み合わせなんですね。財政でアクセルを幾ら踏んでも、金融でブレーキをかけてしまう。その結果、効果はなくて、二酸化炭素という財政赤字がどんどん累積するだけですから、こういう政策は変動相場制のもとではやってはいけないというのが原則なんですね。
 そのときに、日本銀行は大本営発表みたいにこう言っているわけですね。いや、ゼロ金利解除をしても金融は十分に緩めている、緩和していると言っているわけですが、この日本銀行の大本営発表を信ずるかどうかですね。
 金融は緩和しているかどうかというのは、何らかの基準に基づいて議論しないといけません。ところが、数字を見ると、お金の量はどんどん減っているんです。マネーサプライは、八月、対前年比一・七%、七月の二・〇%から〇・三%落ちました。二%台でも非常に低い水準ですね。また、そのもとになっている、日本銀行がコントロールできるマネタリーベースは、八月、対前年比四・六%と、前月の五・八%から一気に落ちまして、四カ月連続して減っています。民間の銀行の貸し出しはどんどん減っている。
 それを私ども周辺の中小企業の社長さんに聞けば、銀行は金を貸してくれなくなって倒産せざるを得ない状況に追い込まれたという話ばかりですから、実感としてわかる。そういう意味で、日本の金融は決して緩和していない。
 基準についてはいろいろありますけれども、例えば、いろいろな学者が言っていますが、マッカラムという人が一つのルールをつくっていまして、これから言うと、一・七%に落ちたマネーサプライというのは、日本にとっては本来一〇%ぐらいないとだめだ、あるいは、四・六%に落ちているマネタリーベースというのは一四、五%ないとだめだ、それが本来あるべき量だと言っているんですよ。それに比べて明らかに金融は引き締めている。これは将来必ず禍根を残す、森内閣にとって私は大きな問題になりかねないと思います。
 そこで私は総理にお伺いしたいのですが、総理のここで行わなきゃいけない選択は、この金融政策の方向を変えさせなきゃいかぬ。総裁が固執しているんだったら、総裁にやめてもらうように言って、日銀に金融政策の方向を転換させる。そうでなければ、せっかくやる補正予算は効果がないんです。それをやるか、あるいは日銀の言っていることを受け入れるのであれば、それは日銀の金融政策決定会合を見れば、いや、財政を縮小したって大丈夫だ、倒産は幾らふえたって大丈夫だなんて議論をやっているんですから、もう大丈夫だということですから、補正予算編成なんかやっちゃだめですよ。そのどっちを総理は選ばれますか。

森内閣総理大臣》 
森内閣総理大臣 どうもゼロ金利政策の解除と補正予算との関連性をつけて委員はお話をされていますが、この金利政策の解除とはまた別途に、やはりいろいろな経済動向を見ながら必要があれば補正予算を組まなければならないだろうということはかなり以前から申し上げてきたことでございまして、そのこととこのことと組み合わせるというのは、いささか私は意見を異にいたしております。
 日本銀行によりますと、先般のゼロ金利政策の解除は金融緩和基調を引き続き維持する中でのいわゆる微調整であって、引き続き適切かつ機動的な金融政策運営を継続するとしておりまして、経済政策の基本的な方向については、政府と基本的な相違があるものとは私は考えておりません。

《山本(幸)委員》 
そういうふうに補正予算をずっとやってきた。しかし、なかなかきかないというのは、日本銀行は基本的に金融を、さっき私が申し上げたように、ある基準から見て引き締め的にやっているからなんです。これをまたはっきりとした形で続けていけば、また効果がなくて赤字だけがたまるということになると私は思います。
 そこで、時間もありませんので、日本銀行総裁にお尋ねいたします。
 大変聞きにくい質問でありますが、私は、八月十一日解除した後、日銀総裁は退任の表明をされるのかなと思っていたんです。つまり、一国の内閣総理大臣の意向を無視してやる以上は、首をかけてやるぐらいの覚悟でやられたんだろう、それはある意味で非常に評価すべきことかなという気がいたしましたけれども、どうもそうじゃない。そして、先ほど申し上げたように、日本の信用がなくなるとか、いろいろな弊害も出ている。日銀総裁、退任される意向はございませんか。

《速水参考人》
日本銀行総裁として私の任期は、平成十五年三月までございます。引き続きまして、物価の安定と金融システムの安定という日本銀行に課せられました使命を達成するために全力を挙げてまいりたいと思っております。

《山本(幸)委員》
終わります。


《原田委員長》
これにて山本君の質疑は終了いたしました。