日本銀行 通貨及び金融の調節に関する報告について(2010.4.20)財務金融委員会 質問議事録

財務金融委員会 質問議事録 (平成22年4月20日)

 

金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)

○山本(幸)委員 自由民主党の山本幸三でございます。

 きょうは、また改めて日銀総裁と議論できることを大変うれしく思っておりますが、菅大臣もお忙しいところ御出席いただきましてありがとうございます。ぜひ大臣にも聞いてもらいたいし、大臣と日銀総裁、対決してもらいたいものですから、よろしくお願いします。

 また、宮尾審議委員にも御出席を賜っておりますが、ありがとうございます。

 最初に申し上げたいんですけれども、きょうは実は審議委員をもう一人、来てもらいたいというお願いをいたしたんですが、断られました。それは、日銀法五十四条、「国会への報告及び出席」というところの条文で、報告について、国会に説明するわけですが、その際に、日銀総裁もしくは政策委員会の議長またはそれらの指定する代理者は、出席を求められたときは出席しなきゃいけない、この規定があるので、この報告については日銀の方で決めさせてもらって、だれでも呼ぶというわけにはいかないというような話でありました。

 ところが、私は、どなたに来てもらうかというのは、日銀法に基づいて言っているんじゃないんですよ。憲法に基づいて言っているんだ。憲法六十二条、「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」とあります。それから国会法百四条で、国民の義務として、要求されたら出なきゃいけないんですよ。つまり、国会議員には広範な国政調査権というのが認められているんだ。その国政調査権に基づいて、国政の重要な案件について出席を求めたら、それに従わなきゃいけないんですよ。日銀法の規定じゃないんだ。

 このことは後でまた委員長に、最後にお願いいたしますので、十分に認識した上で対応してもらいたい。私は、憲法と国会法に基づいて出席を求めているんですからね。

 そこで、まず宮尾審議委員にお伺いいたします。

 このたび日銀審議委員に御就任されて、おめでとうございます。三月二十六日に就任されたということでありますが、就任されたばかりですから、どういうお考えで金融政策運営をやろうとしているのか、これは非常に大事なところであります。

 本来ならば、就任される前にやるべき、アメリカなんかがやっているようにするべきだと思うんですけれども、残念ながらそういうシステムになっていませんので、ぜひきょうお伺いさせていただきたいと思います。

 そこで、宮尾審議委員にお伺いしたいんですが、これは三月二十七日の朝日新聞の記事ですが、新任の宮尾氏は、日本経済の長期停滞の原因は生産性の低迷にあるというのが持論だ、デフレ克服に向けた金融政策の役割には限界があると見る日銀執行部の考え方に近いという記事があります。これについて、こういう記事のとおりと考えていいんですか、あるいは、そのことについて簡単に御説明いただければと思います。

○宮尾参考人 先月二十六日に審議委員を拝命いたしました宮尾でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、御質問にお答えいたしたいと思います。

 今、議員が御指摘いただいた日本の長期停滞の原因についてでございます。

 朝日新聞の記事を引用していただきましたけれども、私の認識に関して申し上げますと、これは就任の記者会見のときにも申し上げましたけれども、日本の失われた十年あるいは深刻な資産デフレという長期停滞におけるその主要な原因というのは、日本の構造調整のおくれ、あるいは不良債権問題等々にあったのではないかという認識を持っていたのは事実でありますし、そういうような論調でいろいろな研究、分析を行ってきて、そういうような研究成果を公表したりしたことは事実でございます。

 以上でございます。

○山本(幸)委員 長期停滞といった場合に、どこからどこが停滞したというレンジで考えておられるんですか。

 というのは、これは週刊ダイヤモンドの記事なんですけれども、九〇年代から二〇〇〇年代にかけて、むしろ全要素生産性はちゃんと伸びたんだ、成長率が落ちたのは、労働投入量が非常に落ちた、あるいは資本投入量の伸びが鈍化したという記事になっているんですけれども、これはダイヤモンドが大間違いしているというふうに理解されるんですか。

○宮尾参考人 長期停滞の主因に関してさまざまな議論がございました。そのディベートというか議論はまだ続いているかと思います。

 私自身、自分の分析結果が本当に正しいかどうかということは一〇〇%確信しているわけではございませんけれども、今後も、恐らくさまざまな研究等で議論が続いていくものと思います。

 日本の長期停滞の本当の原因を真剣に議論し、その主因を解明するということは非常に重要な課題でありますし、今後もぜひ、どういったものが本当に重要であったのかということについては、できるだけ最新の研究成果も踏まえながら、しっかりと勉強してまいりたいというふうに思っております。

○山本(幸)委員 実はそこは非常に大事なところで、成長率がどうして落ちたかということの原因で、供給サイドで落ちたという話の理論的な一つの根拠ですよね。それは日銀総裁がずっと言っているわけだ。

 ところが、おっしゃったように、成長会計の論議に関してはいろいろあります。そうではなくて、需要が落ち込み過ぎたことが、むしろ全要素生産性を過大に推定することになっているんだという有力な議論もあるわけですよ。

 需要が伸びなければ、失業者はやめちゃうんだから、マンアワーだって過小に推定されてくるわけだ。そういうことが起こってくる。労働市場から労働者がいなくなっちゃうと、これはマンアワーを過小に推定するわけですね。それは全要素生産性上昇率の低下に計算されるんですよ。それから、労働の密度も低下するという面が出てくる。一生懸命働くということがなくなるわけだから、需要がなくなると。そのことがまた全要素生産性の低下として計測されちゃう。あるいは、資本だってそうですね。設備投資は需要にも入っているし、供給にも入っているんです。

 結局のところ、需要の落ち込みこそが本当の、成長率を落とした最大の原因じゃないか。需要を一番落としたのは何だというと、私に言わせれば、日銀の金融政策ですよ。そういう有力な議論があるということをちゃんと認識した上で金融政策運営をやってもらわないと困るんですよ。どうですか。

○宮尾参考人 議員御指摘のとおり、長期停滞の主因の議論における生産性の計測において需要の動きが生産性の動きに入ってくるということは、私も十分承知しております。私の研究でも、例えばそういうような影響をしっかりと考慮した上で、どういったことが言えるのかということを研究する上で、しっかり認識して分析を行ってまいりました。

 他方で、別の見方から申しますと、需要面と供給面というのはお互い相互にかかわっているという議論がございまして、供給面を非常に重視する議論から申し上げますと、経済のさまざまな非効率性等で経済の成長期待が非常に落ち込む、成長期待が落ち込むという供給サイドの原因から、これがひいては需要面にまたはね返ってくる。人々の消費は人々が恒常的に稼ぐ所得によって説明される部分が大きいわけですけれども、やはりそういう恒常的な所得というのは成長期待に非常に影響を受ける。あるいは、やはり企業の投資活動に関しても同じである。そういうような議論を続けていきますと、経済の供給面と需要面というのは非常に密接不可分だというような議論も成り立ち得るわけです。

 いずれにしましても、経済の供給と需要、双方が重要であるということに私は全く異論はございません。

 その中で、日本経済の景気、経済変動の特徴をしっかり踏まえた上で、これからのさまざまな景気認識、あるいは金融情勢の分析、あるいは景気判断、あるいは政策判断というところにしっかりと検討を加えていきたいというふうに思っております。

○山本(幸)委員 もうこれ以上は言いませんが、需要が非常に大事なことであって、それがむしろ供給に影響して、そして成長率を低めているという面が非常に強いというのは、私はそう思っているんです。そういう有力な話もあるので、供給だけで決まるんだというような話、私は、期待成長率だって需要も影響すると思いますよ。そういうことをしっかりと踏まえた議論をしてもらわないと、一方的な議論だけされたら困るので、そのことを申し上げておきます。

 そこで次に、宮尾委員に改めて聞きますが、現在の日本のデフレ状態、これについてどういうふうに認識して、あなたは日銀審議委員としてどういうふうに対策を打とうとしておられるんでしょうか。

○宮尾参考人 御質問にお答えいたします。

 現在のデフレ状態でございますけれども、まず、デフレの原因に関してでございます。

 御承知のとおり、今回の世界金融危機、非常に厳しい危機が起こりまして、世界的な景気の低迷が起こりました。それに伴って、我が国も含め、非常に将来に関する不確実性やリスクあるいは不安といったものがありまして、それが人々や企業の支出を抑制し、あるいは低迷させてきた。それが今現在の需要不足あるいは深刻な需給ギャップの原因だろう、その現在の需給ギャップがデフレの主要因であるというふうに私自身は理解しておりまして、この需給ギャップをできるだけ早期に埋めていくということが非常に重要な課題だというふうに思っております。

○山本(幸)委員 あなたは、デフレはリーマン・ショックが起きたから起こったと言うんですか。デフレは九五年から続いていますよ、GDPデフレーターでは。CPIでは九八年の末からだ。企業物価からいえば九一年からだ。まあ譲ってもいい、CPIは九九年から。ただ、超えたのは、原油が上がった二〇〇七年から二〇〇八年にかけて一年間だけですよ。でも、先ほど議論があったコアコアで見れば全然デフレ解消になっていない。だから政府はデフレ脱却宣言なんかしていなかったんだよ。それをあなたは、いかにもデフレはリーマン・ショックから起こった現象だと言うんですか。

○宮尾参考人 お答えを申し上げます。

 私の先ほどの説明は、特に足元のデフレ状況に関して申し上げたということでございまして、そのような誤解がありましたことをおわび申し上げます。

○山本(幸)委員 おわび申し上げますって、じゃ、デフレはずっと続いていて、その原因は何なんだ、これからそれに対してどうするんだという答えを言ってくださいよ。

○宮尾参考人 これまでのデフレ状況というものをしっかり認識した上で、今、少なくとも足元のデフレに関しては先ほど申し上げたような認識を持っているということでございます。

 今、このデフレを脱却して、早期に物価安定のもとでの持続的成長というものに日本経済が復帰することが極めて重要な課題だということを私自身も心底真剣に認識しておりますので、そのためにどういったことができるのかということを、これから、経済情勢をしっかり踏まえた上で、日本銀行ができることをしっかり考えてまいりたいというふうに考えております。

○山本(幸)委員 何にも答えになっていないんだけれども、あなたはデフレ脱却のために何をやろうとしているんですか。これをやるという姿勢なり方針なりはないんですか。

○宮尾参考人 お答えいたします。

 日本銀行としましては、現在、極めて緩和的な環境を維持する、それを通じて需要不足を解消する方向に向けて、しっかりと日本経済が回復基調に戻るよう、持続的成長の経路に戻るよう、緩和的環境を維持していくということをしっかりと国民に明らかにしております。

 私どもは、その大きな方針に沿って、これから何ができるのかということを改めて真剣に考えていきたいというふうに思っています。

○山本(幸)委員 日本銀行が緩和的な環境を維持しているなんて言っているんだけれども、みんな、それにだまされているわけだ。

 あなたは本当に日本銀行は緩和的な環境をつくっていると思いますか。何を理由に、何を根拠にそう言うんですか。

○宮尾参考人 どのような状況が緩和状況かということでございますけれども、少なくとも最近発表しました短観でございますけれども、その短観等を見ましても、企業の金融、資金繰りという判断を見ました場合に、非常に以前に比べて資金繰りが改善しているという傾向があらわれているかと思います。また先般、昨年十二月に固定金利型の新型オペを行いました。また、その拡充を三月に行いました。そういったことを通じて、より長目の金利に関してもさらに低下させていく方向に政策を打っております。

 そういった施策を通じて、金融の緩和状況をしっかりと、極めて緩和的な金融環境をこれからもしっかり維持してまいりたい、その効果をこれから見きわめていきたいというふうに考えております。

○山本(幸)委員 もうちょっとしっかりしてもらいたいと思うんですね。

 日本銀行は緩和的な環境を維持していると言っているんだけれども、その根拠は、世界一金利が低いと日銀総裁は言ったんだ。それに対して私はこの委員会で、あるいは予算委員会で、うそでしょう、実質金利は世界一高いじゃないかと言って、実際の数字を示して、日銀総裁はそのとおりですと言いましたよ。日本は先進国の中では最も金融が厳しいんだよ、金融緊縮なんだ。実質金利は一番高いでしょう。そうじゃありませんか。

○宮尾参考人 実質金利の水準に関しましても、先般の総裁の会見にあったとおり、総裁と議員とのやりとりに関しては承知しております。実質金利の水準をどう見るかということに関しましても、私、着任してまだ間もないのでございますけれども、これからそういったことも含めて、今後の政策判断にそういう部分をどう考慮しながら検討していくかということについて、しっかりと検討してまいりたいというふうに思います。

○山本(幸)委員 私と日銀総裁との議論を承知しているということは、日銀総裁は認めたけれども、日本の実質金利は一番高いんだということをお認めになるということですね。

○宮尾参考人 私は、前回というか先般の国会のやりとりを拝見したということでございます。

○山本(幸)委員 委員長、しっかり答えるように言ってくださいよ。

 認めるんですか、認めないんですか、どっち。

○玄葉委員長 まず白川総裁。(山本(幸)委員「総裁に聞いていない。総裁は後から聞く」と呼ぶ)いや、白川総裁の答弁をしっかり聞いているんですか、宮尾審議委員。確認したいでしょう。大丈夫ですか。

○宮尾参考人 私の理解は不確実であるかもしれませんので、もし可能であれば、総裁の御見解をこの場で確認させていただければというふうに思います。

○山本(幸)委員 では、なぜさっき存じていますと言ったんですか。どっちなんだ。認めるんですか、認めないんですか。はっきりしてください。

○玄葉委員長 いや、でも、確認がまだできていないんでしょうから。

 確認していますか。しているなら答えてください。

○宮尾参考人 大変申しわけございませんでした。総裁のやりとりを拝見いたしたことは事実でございます。(山本(幸)委員「認めるんですか」と呼ぶ)

○玄葉委員長 日本銀行白川総裁、一度答弁してください。

○白川参考人 山本議員と宮尾審議委員との質疑の中で私が答弁することをお許しください。

 前回この席、それから予算委員会を含めまして、実質金利について私の考えを申し上げさせていただきました。多少繰り返しになりますけれども、私が申し上げたことは以下の幾つかの点でございます。

 まず短期金利、これはもちろん名目の短期金利でございますけれども、これは先進国では一番低いということでございます。一方、実質金利については、これは、実質金利をどうやってはかるかということは将来の物価上昇率の予想をどう立てるかということでございますから、もちろん計算には幅がございます。足元の物価上昇率を単純に差っ引く形で実質金利を計算いたしますと、短期金利は、日本はもちろん高い水準になっております。ただし、長期金利については、これは、私の記憶ですと、意見が分かれていたなという感じがいたします。

 日本の場合は、長期金利は欧米対比、低い、もちろん今、物価上昇率も低いわけでございますけれども、仮に単純に足元の物価上昇率を差っ引いた形で長期の実質金利を計算しますと、必ずしも日本の方が高いというわけではない、これはもちろん前提の置き方いかんでございます。

 ただ、いずれにせよ、私どもとしては、実質金利も含めて金融の状況についてしっかり見ていく必要性、これは私はその席でもたしか申し上げたと思いますし、現在もそういうふうには思っております。ただし、こういう形で計算される実質金利だけでもって金融緩和の度合いをはかることは、これは必ずしも適切ではないというふうに思っております。

○山本(幸)委員 これからいろいろ議論しますが、実質金利は、それは長期はほかの要素があるし、日銀はコントロールできないんだから、日銀がコントロールできる短期金利のところで比べれば、それは将来の予想で、理論的にはそうなんだけれども、でもそんなものはだれも正確にはわかり得ないんだから、通常やっている計算というのは現実のCPIでやるわけでしょう。だから、それで比べると高いじゃないかと私が指摘したら、あなた、そうですと認めたじゃない。

 それについて、宮尾審議委員は認めるんですか認めないんですかと聞いているんですよ。国会の質疑というのは、日銀審議委員会みたいないいかげんなことじゃ通用しないんですよ。どうなんですか。

○白川参考人 お答えさせていただきます。

 日本銀行が直接操作し得る政策変数というのは、これは、議員御指摘のとおり、短期の金利でございます。したがって、日本銀行は、この短期の金利をどういう水準にするか、あるいは量をどれぐらい供給するのかということを議論して判断しております。

 それで、現状、先ほど計算した実質金利が高いということはもちろんそのとおりでございますけれども、しかし、この実質金利を下げていくということも、これは結局、名目の短期金利を低くする、あるいはこの水準をどのぐらい維持するかということによって、最終的には影響を受けるわけでございます。

 したがいまして、日本銀行は、みずからの政策手段である短期の金利水準をコントロールすることによって、最終的には、実質の短期金利も少し長い時間をかけて影響が出ていくということでございます。

 今、実質金利ということで議論を展開しておりますけれども、金融環境の評価ということで一点だけ申し上げたいことがございます。

 企業が資金を調達して設備投資を行う場合、どういう計算をしているか。これはもう釈迦に説法でございますけれども、この場合、収益率が幾らあるのか、それから一方、調達金利が幾らなのかという、そのいわば利ざやの計算になってまいります。

 現在、企業の収益を見てみますと、一たんリーマンの破綻で、リーマン・ショックで下がりましたけれども、現在改善しております。そういう意味で、これは実質金利だけではなくて、収益との関係も含めて、あわせ評価する必要があるというふうに考えております。

○宮尾参考人 改めて御質問にお答えしたいと思います。

 短期の金利に関しましては、議員御指摘のとおりかと存じます。

○山本(幸)委員 結構です。

 そういう意味では、今、日本の金融の状況は厳しいんですよ、緩和的じゃないんだ。そのことをよく認識した上で、これからしっかりと審議委員としてやってくださいよ。またそのうち来てもらいますからね。宮尾審議委員にはこれだけにします。

 さて、そこで、総裁と本題に入ります。

 総裁、今まで、さっきの質疑も聞いていて、いろいろ問題のある発言を幾つかしましたよ。今、日銀は短期の金利、名目の短期金利で金融政策をやっているんだ、だからそればかり見ていればいいんだみたいな話をしましたね。私は、それが問題だと思っている。

 なぜなら、これまでの議論で少し明らかなように、短期の名目金利だけ見ていたって実質金利はわからないんだから、おっしゃったように。だから、本当に企業が資金調達をやるときに苦しいかどうかという実質資金コストの基本である実質金利が正確にはだれにもわからなくなっちゃうんだよ。そこがまず問題。

 それから、名目短期金利を下げることによって実質金利を下げられるんだったら、早く下げればいいじゃないですか、ゼロに。まずそれをやってからだよ。それが一つ。

 それから、実質金利の計算が難しいんだから、こういう状況では名目金利の数字で金融政策をやったってだめなんだ。量でやらなきゃいかぬ。量だと、そういう心配なしでどうしているかがすぐわかるわけですよ。だから、量に着目した金融政策をやらなければ、今のような問題は解決できなかった。金利が高いときは、それを下げれば金融緩和だとすぐわかりますよ。こういうデフレ状況で実質金利の計算が難しいときには量でやらなきゃ、やっているかやっていないか、緩和しているのか引き締めているのか、わからないんですよ。実際引き締めているんだ、今。

 そこで、次に参ります。

 日銀総裁、私が何でこんなことをしつこくやっているかというと、もう一回言いますが、デフレを解消しなきゃ日本の再生はないんですよ。国民生活は豊かにならないんだ。一時的に輸出産業がよくなったって、地域の、私の田舎なんてみんなシャッター通りで、みんな泣いていますよ。そうでしょう、皆さん。それをこの十五年も日銀がほったらかしてきたから、怒り心頭に発しているんだ、私は。だから、やっているんだよ。

 そこで、では総裁にお伺いしますが、二月十六日の予算委員会、それからここの財務金融委員会で、菅大臣は、CPIについて、ことしじゅうにプラスにしてもらいたい、そして、はっきりとは期間は言っていないんだけれども、来年ですよ、二年。さっき期間がどうのこうのってあったけれども、どこの国だって中期というのは二年なんだ、インフレターゲットをやっているところは。来年にはプラス一、いや一強にするというのが政府としての目標だと私の質問で確認されたんですよ。

 日銀総裁、白川総裁、あなたは、この菅大臣が政府の目標としてそう言ったことについてどう認識して、それをちゃんとやろうとしているんですか。

○白川参考人 菅副総理、大臣の御発言自体につきましては、私が答弁するというのは、これは僣越ですので差し控えます。

 それから、国会の委員会もさまざまな場がございますので、私が伝聞でもって発言するということは、これは適切でないというふうに思います。

 私が出席しておりました幾つかの場で大臣がおっしゃったことは、できるだけ早くそうしたデフレ状態が脱却できる、そういうことを希望しているということをおっしゃったことはよく覚えております。ただ、期間についての御発言については、これは大臣にお尋ねする方がいいと思います。

 ただ、私は、いずれにせよ、現在のデフレ状態から脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが大事だ、極めて重要だという認識はしっかり持っております。そのために日本銀行として何ができるかということを常に考えております。その点についてはぜひ御認識をいただきたいというふうに思っております。

○山本(幸)委員 いや、だって、菅大臣がこれは政府の目標だとはっきり言明されたのは、あなたもいるところで私の質問に答えてそう言われたんですよ。それは政府の目標なんですよ。それを達成するのはあなた方の責務だ。そういうことを認識してちゃんとやっているんですかと聞いているんです。

○菅国務大臣 私の発言がベースになっていますので、若干思い出しながらお答えしなきゃいけませんが、確かに私も、目標というか期待を含めて、年内にプラスになればいいということを申し上げた記憶はあります。

 ただ、見通しとしてそこまで政府としてもいっているかということもあわせて言ったと思いますが、見通しという形でいうと、まだ年内あるいは一年以内にプラスになるというところまではいっていないということもあわせて申し上げたと思っております。ですから、表現の仕方によりますけれども、政府の目標としてことしじゅうにプラス、来年にはプラス一というのは、期待値として申し上げたというふうな感じが、私の申し上げた趣旨であります。

○山本(幸)委員 何か随分弱気になりましたね。それは見通しはそうかもしれないけれども、その見通しがあったら、それをどうするかというのが政治の役割でしょう。それがなきゃ、政治家、財務大臣菅直人になりませんよ。

 私は菅さんを大変評価しているのは、それをはっきり言ったから評価しているんですよ。それを何か後退されるんですか。それとも、ちゃんとそういう認識で、見通しはこうだけれども自分はこういう目標でやってもらわなきゃ困るというふうに思っておられるんですか。その辺をはっきりさせてください。

○菅国務大臣 期待ということを申し上げたのは、決して、単に何もしないで期待している、あるいは日銀だけに期待してという意味で申し上げたのではなくて、そういうことを期待していると同時に、それに向かって政府としてやれることはやろうと。

 私も、このデフレ議論は、山本議員ともいろいろ議論をさせていただいて、いろいろ勉強もさせていただいていますが、金融緩和の側面と、資金が循環するということが非常に今、日本の経済状況は、残念ながら循環しない。ですから、そういう意味では、お金を循環させることがデフレ脱却の、もう一つのと言えるのか共通なのかわかりませんが、ポイントだと思っておりまして、もちろん循環させる意味で今おっしゃった実質金利を下げる、まあ実質金利を下げる手法はなかなか難しいわけですが、大規模な利子補給なんということがあれば、マイナス金利ということもあるのかもしれません。

 さらに言えば、財政的に言えば、つまりは、税制でいただくものはいただいて、それを雇用を中心としたデフレ脱却につながるところへ選択と集中で財政出動していく、そういうことも必要ではないかということをこの委員会でも申し上げております。

 ですから、後退したということではありませんけれども、政府の目標とまで言われますとちょっと私単独でのあれを越えますので、期待をすると同時に、その期待が実現するように私の立場でやれることは徹底的にやっていきたい、こう思っております。

○山本(幸)委員 菅大臣の立場で徹底的にやるのは、これは目標だと言い続ければいいんですよ。それは内閣じゃなくて財務大臣の目標でいいんだから。これは私の目標だよ、日銀はそれに応じてやれと言っていればいいんですよ。

 そこで、また私が頭にきているのが、日銀は最近、金融を引き締めている。特に二月から三月、四月と、私が予算委員会で質問して、財務金融委員会で質問して、菅大臣もそういう目標だと言って、それから引き締めているんですよ。

 マネタリーベース、これが減っているんだ。マネタリーベースというのが日銀がコントロールできる数字ですよ。今民主党の皆さん方がデフレ議連とかいろいろ勉強会をやっておられて、大変心強いのでぜひ頑張ってもらいたいと思っているんですが、この議員の勉強会というのは、そこで日銀が説明したそうでありますが、その資料を見て、ああなるほどなと思った。一番大事な資料は隠してあるんだよ。あんな日銀からもらった資料を見ていて、日銀のやっていることなんてわかりませんよ。だまされちゃだめだ。

 それは、マネタリーベースの数字なんですよ。マネタリーベースの対前年比、これはリーマン・ショックからずっと、少し伸ばしていたんだけれども、実は、去年の五月からもう下げているんだね。日銀は去年の五月から引き締めに入っているんだ。

 ところが、菅大臣がデフレ宣言を十一月二十日にして、これはちょっと何とかやらないかぬなと思って、十二月にちょっと出した。ずっと四%、三%に下げていたんだけれども、十二月に五・二%に引き上げたんですね、平残で、対前年比。一月も四・九%、これぐらいまで引き上げた。それでも私は低いと思っているんだけれどもね。ところが、二月になって二・二に下げた。三月になって二・一に下げた。四月になって、これは十日までぐらいの数字だけれども、一・八だ。

 つまり、日本銀行は、菅大臣がこれを目標としろと言い、私が何をやっているんだと追及したのをあざ笑うかのごとく、二、三、四と金融を引き締めているんですよ。なぜですか。

○白川参考人 まず最初に結論から申し上げますけれども、日本銀行がこの間に金融を引き締めたということは、そういう事実は全くございません。

 議員の御意見は、マネタリーベースというものの伸び率でもって日本銀行の金融緩和政策の緩和の度合いをはかっている、そういう前提だというふうに認識しております。

 これは釈迦に説法でございますけれども、マネタリーベースというのは、これは、皆さんが手元に持たれています銀行券、それから金融機関が日本銀行に預けている当座預金の量、これの合計値でございます。多くの部分は、これは銀行券でございます。

 我々自身の行動を思い起こしてもそうですけれども、例えば、休みの前には銀行券をたくさん持つ、あるいは金融システム不安が広がるときには銀行券を多く引き出して持つということがございます。同じことは金融機関についても言えます。先々について金融システム不安を感じるときには、日本銀行に対する当座預金を少し多く持つ、あるいは銀行券を多く持つということが、これは従来からございました。

 今御指摘の期間についてのマネタリーベースの伸びでございますけれども、リーマン破綻以降、何が起きたかといいますと、金融機関が手元に厚く預金を持つということが起きました。リーマン・ショックの影響が薄れてくるに従いまして、前年対比で計算しますと、伸び率は下がってまいります。ただ、これは、金融政策の緩和度合いを我々が後退させたからではなくて、むしろ我々の積極的な政策の結果があって金融不安が後退し、それが、マネタリーベースの伸び率がその局面では少し低下するという形で、むしろいい形であらわれたものだというふうに思っております。

 繰り返しになりますけれども、マネタリーベースということでもって金融緩和の度合いをはかれないということは、実はこれは、日本銀行だけじゃなくて、今世界の中央銀行が強調して言っていることでございます。

 典型は、アメリカの中央銀行であるFRBでございます。今FRBは、マネタリーベースあるいは中央銀行のバランスシート、これは伸び率は高いわけでありますけれども、しかし、このことが経済を刺激する、あるいはインフレ率を高めるものではないということを、これはバーナンキ議長を初めFRBの幹部は繰り返し繰り返し主張しております。マネタリーベースなりあるいは中央銀行のバランスシートでもって金融緩和の度合いを評価してほしくないということを議会で繰り返し言っております。かといって、FRBは今、金融緩和を修正しているわけではもちろんございません。

 同様に、日本銀行の金融緩和の姿勢は明確でありまして、マネタリーベースでもって判断するということではないということ、これは私は強く申し上げたい点でございます。

○山本(幸)委員 そこが最大の問題なんだ。アメリカは、バーナンキがそんなこと言っていませんよ。バーナンキは、予想される経済成長に合った物価水準より低くなるおそれがあるから金を出さなきゃいけないと言ってやっているんですよ。彼らは量的緩和解除という言葉は使いませんよ。信用緩和という言い方をしているけれども、やっていることは金を出しているということですよ。金を出すというのは、日銀が金を出すというのはマネタリーベースをふやすしかないんだから。あとは、彼らはM2を直接ふやしているわけだから、ではそれをやればいいじゃないか。

 それで、金融緩和政策がマネタリーベースの増減に関係ない、そんなばかな議論がありますか。金利を下げたらマネタリーベースをふやすから、金融を緩和するということなんでしょう。

 次の問題もあるんだよ。マネタリーベースをふやそうとして、当座預金をふやしたらマネタリーベースをふやしたことになりますねというときに、当座預金に金利をつけていたら、外に出ませんよ。本当に金融緩和をする気があったら、まず名目金利をゼロ金利にして、一番下に下げて、少なくとも実質金利を上げるような努力をして、それから当座預金ばかりふえたら困るんだから、それが市中に回るようにするためには、そこに〇・一という金利をつけることをやめればいいじゃないですか。

 では、日銀は何をやっているんですか。名目金利を下げたって、名目金利はまだ〇・一なんだから、これを下げればいいじゃない。金融緩和をすればいいじゃない。だけれども、どういう金融理論の教科書を見たって、マネタリーベースがふえて金融緩和はしていませんなんという議論はありませんよ。何を言っているんですか。それから見れば減っているじゃないかと、菅大臣や私たちをばかにしているのかと言いたいですよ。どうなんですか。

○白川参考人 まず、マネタリーベースあるいは日本銀行の当座預金に金利をつけていることの意味合いについて御説明をいたします。

 現在、日本銀行に限らず、FRBも、それから欧州中央銀行も、それからイングランド銀行も、先進国の中央銀行はいずれも当座預金に今回金利をつけるようにいたしました。FRBは現在〇・二五%の金利をつけております。

 なぜ、文字どおりゼロ、つまり〇・〇〇〇という極限のゼロではなくて、日本銀行は〇・一にとめているのか。あるいは、アメリカですと今は〇・二、それから欧州は〇・三、それからイギリスは〇・五でございます。いずれも文字どおりのゼロではなくて、ゼロ金利という言葉でくくれる範囲の金利でございますけれども、文字どおりゼロにはしておりません。

 これをなぜしていないのかということが議員の御質問の趣旨でございますけれども、これは、一方で金利を低くしますと、それは最終的な資金の調達者あるいは企業からしますと、資金調達がしやすいということで、これはプラスでございます。しかし一方で、金融は必ず貸し借り、売買がありますから、今度はお金を貸す方からしますと、ある金利水準以下に下がってきますと、利ざやが圧縮され、その結果、貸し出し意欲がかえって低下するということが起きてまいります。イギリスはこのことを随分強調しております。

 あるいは、極限的に金利をゼロにしますと、銀行間で資金を調達する場の資金取引それ自体が実は成り立たなくなってまいります。本来、短期の金融市場というのは、金融機関がみずからの資金繰りを見ながら、必要なときに必要な資金を調達できるそういう場がある、その場があるということが安心感につながっているわけでございますけれども、この市場が実はなくなってしまうということになります。その結果、経済の安定的な発展にとってはむしろマイナスになるということでございます。

 日本銀行に限らず、どの中央銀行もゼロにしていないということは、実はそうした弊害に対する認識も、日本銀行の量的緩和、それから今回の経験を踏まえて、みんなが認識をするようになったということでございます。そういう意味で、我々としては、今の〇・一というのが、金利面からする金融緩和の効果を最大限実現する上で適切な金利だというふうに判断したものでございます。

 そういう意味で、これは日本銀行だけではございません。しかし、その世界でも、日本銀行は短期金利は世界で最も低い、これは間違いなく言える事実でございます。

○山本(幸)委員 だって、ほかの国はデフレで困っているわけじゃないんだから。しかも、信用緩和といって直接マーケットに金を出していますよ。それを日本銀行はやらないでいて、マーケットに直接金を出すようなことをやらないでいて、そして当座預金に金利をつけたら、皆さん、もうほかは使わないで当座預金にどんどんいらっしゃいよと言っているようなものじゃないですか。しかもデフレで。

 状況が違うんだよ、状況が。そんな市場ができたら、短資会社がもうけるかどうかの話でしょう。天下り先を考えているのか知らぬけれども。短資会社が困るだけですよ。だって、量的緩和のときは、それで全然問題なくて、むしろあのときは景気が上がったんだから。何でそれをやらないんだというんですよ。それをやらないで、そしてマネタリーベースを減らすというのは何事だ。どんどんふやさなきゃ金融緩和になりませんよ。緩和的な環境になりませんよ。デフレは脱却できませんよ。

 私が紹介したようないろいろな実証研究によれば、大体、マネタリーベースというのは二〇%以上ふやさなきゃ、デフレなんて一年二年で解消しませんよ。それを何だ、二%にむしろ落としている。菅大臣、ばかにされているんですよ、あなた。どう思いますか。

○菅国務大臣 率直に申し上げて、この金融の、今、総裁と山本議員で議論されているようなところは、一〇〇%、私も、こうすればこうなるということを申し上げるところまでは、率直なところ、そうした認識を十分に持っておりません。

 ただ、先ほど日銀総裁が言われたように、私も、その〇・一%に昨年下げられたときに、なぜゼロではなくて〇・一なんですかということはお聞きをいたしました。そうすると、ゼロというのは、ある意味では取引が、何といいましょうか、計算できないという表現がいいのか、つまり、価格がない状態になる、貸し借りがゼロですから。そういう意味では、実質的にはゼロでいいんだけれども、ゼロにすると、逆にそういう意味でお金の貸し借りが、ある意味で価格がない状態になるので、やはり実質的なゼロという意味で〇・一にしたんだという説明は、日銀総裁から伺いました。

 今の説明もそばでお聞きをしておりましたが、そのことが、金利が高いというか、ゼロよりは高いという意味でのマイナスという意味なのか、あるいは、何らかの価格をつけておかなければいけないという最低限のことでやられているのか、そのやりとりを今そばで聞いておりましたが、私が日銀総裁から以前聞いたのはそういう意味合いであって、実質的な意味は、ゼロにするという意味で一番小さい数字で〇・一にしたんだというふうな説明をいただいているところです。

○山本(幸)委員 そういう説明にだまされちゃだめだというんですよ。だって、ゼロ金利、量的緩和のときは、手数料もコストがあるから〇・〇〇三とかになるんだけれども、やって何の問題もなかったわけですよ。短資会社がちょっと損をしたかもしれないけれども、仕事がなくなったかもしれないけれども。それは、日銀は短資会社を一生懸命かわいがりたいんでしょうがね。でも、むしろあのときの方が株は上がって、景気がよくなったんですよ。

 しかし、問題は、確かに当座預金だけを考えたから、本当に市中に出すようなことをちょっと怠ったから、貨幣ストックはちょっと伸びなかったかな。だから、アメリカやヨーロッパは、直接貨幣ストックを伸ばすような、長期国債を買うことをふやしたり、証券を買ったり、担保証券を買ったり、直接出すようなことをやるわけですよ。ところが日本は、量的緩和のときは当座預金だけをやったわけだな。

 そうじゃないことをやるのであればやって、どんどん緩和をして、そして物価上昇率が一以上になるというような状況をつくってくれているのなら、減らすことに何も文句言いませんよ。そうじゃないんでしょう。そうしたら、考えられるやれることを全部やればいいじゃないか。かつてもやったじゃないか。今CPIが一%以上になったら、そんな文句なんか言いませんよ。でもマイナスなんだ。どうするんですか、これを。

 さっきから聞いていたら、何か永遠にかかるような、よっぽど原油危機でも起こらない限りそんなことにならないような話をしているけれども、それに対して果敢にばんばんマネタリーベースを二〇%伸ばしてやりますというぐらいの覚悟はないのかと言っているんですよ。そうしなきゃデフレなんかとまりませんよ。

 あなた方はこの四月三十日に何か来年度はゼロぐらいになるみたいなことも書くようなことを言っているけれども、民間はそんなこと思っていない。それを着実に続けていっているのなら少しは認められるけれども、事もあろうに、私が質問し、大臣がこうしろと言った後にマネタリーベースを減らすというのは許せない。ばかにしているよ。

 本当にデフレを早期に克服しようとする気はあるんですか。白川さん、何をやるんですか、あなたは。

○白川参考人 議員の御質問の中で、FRBの金融政策とそれから日本銀行の金融政策を比較させる形の議論が幾つかございました。

 信用緩和という言葉を使われましたけれども、思い起こしてみますと、リーマンのショックのあの前後、特にリーマン・ショック後がそうですけれども、アメリカの金融市場、なかんずく証券化商品の市場、あるいは社債の市場、CPの市場、これはもうほとんど機能停止になりました。

 アメリカの場合は、企業の資金調達の中で、こういう資本市場からの調達が、これは定義いかんにもよりますけれども、全体の八割近くを占めております。一方、日本の場合は、銀行借り入れの比率が八割ぐらいで、圧倒的に銀行借り入れが多いわけでございます。

 アメリカの場合には、その根幹をなす資本市場でも発行ができないという状況になりましたために、民間が発行する証券をFRBが買うしかない、そういう状況まで追い込まれたわけであります。ところが日本は、これは前回のバブル以降、あるいは前回の金融危機以降の経験を踏まえて、日本の金融機関がアメリカとの比較で見ますとリスク管理に慎重であったということも手伝いまして、アメリカほどの金融危機にはならずに済みました。

 もちろん、そうはいっても、日本も影響を受けました。コマーシャルペーパーも一時発行ができないという状況になりましたので、日本銀行はCPの買い入れも行いました。しかし、繰り返しになりますけれども、アメリカに比べて資本市場の傷みが圧倒的にやはり小さかったということが、そうした日米の政策手段の差となってあらわれております。

 今、我々が買い入れを行ったCPの発行環境を見てみますと、先般の短観でも、CPを発行している企業自身が、リーマン破綻前の数字よりも現在の方が発行環境が良好だというふうに多くの企業は回答していまして、これは非常に明確な変化を示しております。

 我々として、あくまでも経済、金融が異例なときには中央銀行ももちろん異例な対応が求められるというふうに思っていまして、現に日本銀行はそうした対応をこれまでも行ってまいりました。

 そういう意味で、先々の金融市場の状況を見て、もし本当にそういうことが必要な状況になれば、つまり金融市場が毀損される、そのときには、そうしたFRBが行った、そして日本銀行が今回行ったようなことももちろん考えられます。ただ、現在はそうした金融市場の機能が麻痺するという状況からは脱したということは一方の事実でございます。ただ、粘り強く金融政策を行っていくということは、これは変わらぬ姿勢でございます。

 冒頭、所信表明を申し上げましたけれども、あそこで申し上げたような考え方に沿って、これからもデフレからの脱却、それから物価安定のもとでの持続的経済成長の実現ということについて、一生懸命努力していきたいというふうに思っております。

 日本銀行があらかじめ何か特定の政策手段について念頭に置いたり、あるいはそれを排除するということは決してございません。あくまでも予断を持つことなく、経済、金融の状況を点検して、最適な政策を実行してまいりたいと思っています。

○山本(幸)委員 もう全然答えになっていないんだけれども。

 要するに、危機が起こったときには、基本的にやらなきゃいかぬことが三つあるわけですよ。一つは、金融システムがおかしくなれば、それを救わなきゃいかぬから、潤沢に準備を供給しなきゃいかぬわな。これはアメリカもやった、日本もやった。だけれども、日本の場合は金融システムがそんなにアメリカほど悪くなかったから、アメリカに比べるとちょこっとしかやりませんでしたよと言いわけしているわけだね。

 それから、本当に金融機関がだめになっちゃったら、これは資本注入をしなきゃいけないわけだ。アメリカがやりましたね、日本もやる準備はかつてあった。

 最後にもう一個やらなきゃいかぬのは、実体経済を見ながら、そこを立て直すために金融緩和というのはやっていかなきゃいけないんですよ。そこがデフレにならないようにしていかなきゃいけないんですよ。

 それを、アメリカは信用緩和という形で金融システムを安定しながら、おっしゃったように、アメリカは実体経済もそういう市場で成り立っているんだから、そこをやれば自然に実体経済まで行くわけですよ。そこで実体経済がよくなって、しかも、FRBのバーナンキが常に言っているのは、物価が下がり過ぎたら危ないと。だから下がり過ぎないようにどんどん資金を供給するんだといってやっているわけですよ。ところが日銀は、金融システムが日本ではそれほど大したことなかったから、余りやらないで済みました。ところが、実体経済は日本が一番傷ついたんですよ。何もやっていないんだ。

 今までの答弁を聞いていると、何にもやろうという意欲が感じられないね、マネタリーベースをこれだけ減らしながら。今度減らしてみろという感じですからね。来月またやりますからね。

 それは、大臣もばかにされているということを認識しなきゃだめですよ。あなたがこれだけやってくれと期待も含めて言ったんだから。それを無視されているんだよ。

 そこで、時間がちょっとなくなってきましたので、一つ二つ別のことを聞きますが、今回の政策委員会、先ほど日銀総裁のあれにもありましたが、高校無償化でもCPIが落ちるからその分は勘弁してくれよみたいな話をしましたね。

 これは宮尾さんに聞こう。高校無償化になったらCPIは減るというのは、理論的に出てくるんですか。

○宮尾参考人 お答え申し上げます。

 高校無償化に関する影響をどう考えるのかという点に関しての御質問かと思います。

 日本銀行の政策判断にとって何が重要かということに関して、やはり物価の基調的な動きというのが非常に重要だと。高校無償化の制度変更による影響というのは、消費税導入等と同じ影響かと思いますけれども、その一年間限り対前年比で影響が出る、そういう性質のものだというふうに理解しておりますので、そういった制度変更に伴う影響というものは取り除いて、基調的な物価の動きを見ることが適切なんだろうというふうに私自身理解しております。

○山本(幸)委員 私は、理論的には、高校無償化だからCPIが下がるとは思わないんですよ。それは、実際はちょっと一時的に出てくるかもしれないけれども。

 なぜか。だって、高校無償化して、家計がその分、金が浮くわけでしょう。浮いたら、ほかのものを買うに決まっているじゃないですか。ほかのものの価格はその分上がりますよ。そうしたら、一般物価水準は変わりませんよ。これが理論的な答えじゃないんですか。今まで経済学を教えていたから、そうじゃないんですか。(発言する者あり)いや、宮尾審議委員。

○玄葉委員長 これは白川総裁の説明に対してでしょう。違うの。

○山本(幸)委員 いや、私はそれを、経済学を教えていた先生だからそういう議論ができるんじゃないかと思って聞いているわけですよ。

○宮尾参考人 お答えを申し上げます。

 私が今お答え申し上げたのは、あくまでも指数に及ぼす影響ということでございます。

 委員御指摘のような、高校無償化によってどのような影響が出るのかということに関してはまた別の問題といいますか、それに関する影響に関しては別途さらに検討してまいりたいと思いますが、私のお答えしたのは、あくまでも指数に関しての答弁でございます。

○山本(幸)委員 審議委員は独立して見識を持ってやってもらわなきゃ困るので、日銀を気にする必要はないんだ。理論的にこうだと思ったら、はっきり主張してくださいよ。

 私は、理論的に考えたらそういうことしかない。つまり、相対価格は変わるけれども、絶対価格、一般物価水準は変わらない。これがデフレを本当に理解できるかできないかの大きな違いのところなんですよ。それが下がるということは、日銀は引き締め的なことをやって下がるのをカムフラージュするようなことを言っているようにしか私には思えないんだよ。だって、わざわざこれは政策委員会のあれに書いているんだから。

 一時的なショックは短期間には起こるかもしれない、そうしたら、それを解消するようにちゃんと金を出せばいいじゃないですか。金を出さない限りは、お金の量が変わらなければ、あるものが下がったら余った金はほかのものに行くんだから、一般物価水準は変わりませんよ。これが理論だよ。

 ちょっと時間がなくなったが、最後に、先ほどインフレターゲットの話がありましたね。私は、インフレターゲット、日銀はああでもないこうでもないと言って言いわけばかりしてみんなだまされちゃうから、だまされないようにきちっと法律で決めちゃわなきゃいけないと思っているんだけれども、ぜひ民主党さん頑張ってもらいたいと思っているんですよ。(発言する者あり)頑張れ。

 そこで、先ほどの質問で、何か白川さんはインフレターゲットが今日の金融危機を招いたような話をしましたが、あなたは本当にそう思っているんですか。

○白川参考人 私は、インフレーションターゲティングそれ自体が今回の金融危機を招いたというふうには申し上げておりません。

 私が申し上げたことは、インフレーションターゲティングという枠組みのもとで、あるいはこういう枠組みを採用しない場合もそうですけれども、短期的な物価の動向だけに目が奪われて、その結果、金融緩和を長期に続けた結果として今回のグローバルな金融危機が起きた、その一つの原因であったという議論を紹介したわけでございます。そういう意味で、インフレーションターゲティング自体が危機の原因であったというふうに申し上げているわけではございません。

○山本(幸)委員 そういうふうに聞こえるんですよ。

 しかも、あなたはしきりに、インフレーションターゲットは常に短期の物価の動きにとらわれてやるからおかしくなるなどということを言うけれども、今ごろ世界じゅうのインフレターゲットを使っている国でそんなことをやっている国なんかありませんよ。もっと柔軟だよ。そんなことはよく知っているでしょう。現実に少しぐらいオーバーしたって、中期的、二年ぐらいのところでおさまればいいという柔軟な政策をやっていますよ。なぜなら、これはフレームワークだから。

 それを日銀は、インフレターゲットをやられると自分たちの責任が出てくるから困るものだから、責任逃れするために、何かいかにもインフレターゲットはがちがちにそこに固執されて、それでおかしなことになっちゃうんだという話をしたがる。そんなことをやっている国はもうありませんよ。

 しかも、インフレターゲットをやっている国は、イギリスだって、アメリカも暗黙のうちにやっていると私は思っているんだけれども、彼らが言っているのは、二%ぐらいの物価水準がそれよりも下振れたら困る、そういう認識で金融政策運営をやっていますよ。それを何だ、日銀は、ゼロ%を超えればいい。これは大臣にも言って、大臣もしっかり認識してもらったけれども、CPIは上方バイアスがあるんだから、それをゼロ%プラスになればいいなんてばかじゃないかと。ほかの国は二%をめどにやっているんだよ。そうしなきゃデフレの解消も景気の回復もあり得ませんよ。

 そういう意味で、インフレターゲットは、こんな金融危機になったなんという議論があるけれども、今、結局のところ、金融政策というのでやれることとやれないことがある。金融システムの問題については、これはやはり金融監督の規制がおかしかったんですよ。あるいは報酬のルールがおかしかった、それを今やろうとしているわけでしょう。

 金融という金利なり量の手段でやれることは、そんなことをコントロールすることなんかできませんよ。金融でやれるのは、全体のマクロ経済の動き、そして物価をどうコントロールするかというところに考えなきゃ、それをこの金融政策の一つの手段で、あれでもやろう、これでもやろう、全部やらなきゃいかぬなんという議論をしていたら、それは目標と手段の数の話で議論が成り立ちませんよ。そこを、すぐ混同するような議論をしてごまかそうとするのは、総裁としておかしいと私は思いますよ。

 最後に、大臣にもう一度。

 現実の数字を見れば、マネタリーベースを見れば、日銀は二月から引き締めぎみに運用しているんです。こんなことをやっていたら、あなたが期待していることなんてあり得ませんよ。どうしてもらいたいと思いますか。

○菅国務大臣 インフレターゲットという考え方について、一般的には私もいろいろな時期に魅力的な政策だなと感じてきましたし、今でもその気持ちがあることは率直にそう思っております。

 ただ、日銀との関係でいえば、既に御存じのように、日銀もプラスゼロからプラス二と。確かに、山本先生から上方バイアスといったようなこともお聞かせをいただきまして、必ずしもプラス一では十分でないという指摘もありますし、私自身ももうちょっと上の方がというふうに思っておりますが、日銀の言葉を使えば、プラスゼロからプラス二の間のプラス一程度をめどにしてという表現で言っておられます。そういう意味で、方向としては、政府が考えている方向と基本的に一致をしていると認識しております。

 その上で、あえて言えば、その目標を達成するまでどのような手段をとるのか、さらに言えば、どのような手段を継続するのか、そういうことが重要、あるいはメッセージとしても重要ではないかということも御指摘いただきましたし、私もそれについては同感であります。

 ですから、そういう意味では、それがプラス一かもう少し上のプラス二程度を実質的な意味での目標として、それを達成するまでは、金融的な手段は、中身は私たちから言うのは、日銀の独立というところから余り言い過ぎてはいけませんが、日銀としても努力をしていただくし、また政府としてもその達成に向けて努力を続ける、こういう姿勢はともにとることが望ましいし、この間、コミュニケーションはかなりできていると認識しておりますので、方向性としてはそういうことができていると思います。

 今御指摘のマネタリーベースの量的な緩和について、ここは、白川総裁と山本議員の議論をお聞きしていて、私もにわかに、どちらがどちらということを申し上げるほどの判断はできませんけれども、少なくとも、あるレベルにインフレが、つまりは二%とかあるいはもうちょっと上のあたりに向かって政策を続けていくことが必要だという意味では共通の認識だ、このように思っております。

○山本(幸)委員 ありがとうございます。

 最後に、委員長にお願いしたいんですけれども、やはり審議委員もどういう考えを持っているかというのをそれぞれ聞きたいんです。だって、重要な政策をやっているのでね。だから、ぜひ審議委員をそれぞれ呼んでいただいて、もう法案もなくなったわけですから、しっかり、特に四月三十日はまた報告が出ますので、ぜひこれをやってもらいたいということを、委員長の決断をお願いしたいと思いますが、どうですか。

○玄葉委員長 しっかり理事会で協議しますから。(山本(幸)委員「いや、これは理事会で協議じゃなくて、委員長が決断してください」と呼ぶ)先日もその話が理事会で出ました。与党野党、区別なく、それぞれ賛否両論ありましたので、それぞれの理事の御意見をお伺いしながら、最終的に私の方で判断したいというふうに思います。

○山本(幸)委員 終わります。