平成25年4月2日  予算委員会

山本幸三 質問議事録
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山本(幸)委員 自由民主党の山本幸三でございます。

日ごろは後ろの方からやじばかり飛ばしておりましたけれども、きょうは最前列で質問席に立たせていただきました。委員長並びに理事の皆さん方の御理解に心から御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

その上で、きょうは、アベノミクスについて、その本質、そしてまた誤解等を解くという作業をできればと思っております。

まず、安倍総理、私は、あなたが総理大臣になられて本当によかったと思っております。それは、長年にわたるデフレというものからようやく脱却できる兆しが見えてきたからであります。

GDPデフレーターで見ると一九九四年から、消費者物価指数で見ると九八年から、日本はデフレに陥っているわけでございますが、そのために多くの人が仕事を奪われました。あるいは、中小企業の倒産を免れませんでした。また、大企業は工場を海外に移し、地方経済が疲弊いたしました。円高が起こり、観光客も減り、まさに地方もどんどん悪くなっていったわけであります。

住宅ローンを借りている人は実質負担がどんどん上がっていった、さらにまた、年金生活者は年金まで下がる、国民にそういう負担を強いてきたこのデフレ、安倍総理、これをあなたの決断で一気に脱却しようとしているわけであります。本当にありがたいことだ、まさに国家国民の救世主であると私は思っております。

その意味で、安倍総理の経済政策、アベノミクス、この特徴というのは一体何なのか、これまでの政権の政策とどういうふうに違うのか。どう考えておられるか、お教えいただきたいと思います。

安倍内閣総理大臣 金融政策について、山本幸三委員は十五年来、大胆な金融緩和を行うべきだとずっと主張されてこられました。党内においても、山本委員の御主張はどちらかといえば野党的な立場であったわけですが、私は総理をやめた後、どうやら山本先生の主張は正しいのではないか、そう思い始めまして、何回か山本先生からお話を伺ううちに、それは確信へと変わってきたところでございます。

そこで、この十五年来こびりついたデフレマインドを変えるのはそう簡単なことではないわけでありまして、大きく違う点は、国民の皆様に、これはいよいよデフレから脱却できるのではないかと思っていただく、そういう政策を行うということであります。

まずは、二%というインフレ目標をしっかりと定める。つまり、二%という目標に向かって、ある程度の期限内にそれを達成しますよ、そのために日本銀行は、あらゆる手段をとって、それに向かってプロとして達成していきますよということを、政府との間で、また国民との間で、明確に示していくということが根本的に違う点でありました。そして、成長を持続的に可能にしていくために、大胆な金融政策と成長戦略、この三つをあわせて今までと次元の違う政策を示していくことによって、国民の皆様がこれは変わっていくなと思い始めていただくに至っている、これが大きな違いであろう、このように思っております。

山本(幸)委員 全くおっしゃるとおりで、要するに、デフレを脱却するためには、国民の間に蔓延しているデフレ期待、デフレ予想というのを一掃しなきゃいけない。そのためには、まさに金融政策の転換が必要なんですね。それを、二%の物価安定目標政策という形ではっきりと示された。そのリーダーシップを安倍総理がとられたということでありまして、私は、まさに日本の歴史的な転換だと思います。

問題は、この二%の物価安定目標というものをしっかりと実現していただかなければならないわけでありますが、それは日本銀行に責任を持ってやってもらわなきゃなりませんが、その責任を問うときに問題になるのが達成期限であります。

達成期限がはっきりしていないと責任のとりようがない。今までの日本銀行というのは、目標も曖昧、期限も曖昧ということで逃げ回ってきておりました。これでは、国民の間のデフレ予想を払拭することができなかったわけですね。そのために、責任を問うために必要なものとして達成期限というのが非常に重要なんですけれども、この共同声明を読んでも、「できるだけ早期に」としか書いてない。

これではちょっと物足りなく思うんですけれども、この間の白川総裁との交渉で、麻生財務大臣、甘利大臣ともども、期限をはっきりしろと迫ったんじゃないかと思いますけれども、白川総裁はどうしてこれを受け入れなかったのでありましょうか。

麻生国務大臣 先般の一月の二十二日でしたか、共同声明の取りまとめに当たりまして、言われましたように、いわゆるデフレマインドというものが固定化しておりますものを取り除くということが大事で、そのためには金融緩和が絶対、ここは皆、共通の御理解をいただいていたんだと思います。

二%の物価目標というものに関しましては、これはいろいろ素案を何回かやりとりしている間の話ですが、中長期的にと書いてありましたので、この長期というのは問題になりませんということでお話をさせていただいて、次に出てきた文句はできるだけ早くだったので、これは、済みませんけれども、役所で書いてある前向きに検討しますと同じような意味じゃないですかと。これはとてもだめです、英文を見せていただけませんかと言って、英文を見せていただいたら、アズ・スーン・アズ・ポシブルじゃなくて、アット・ジ・アーリエスト・ポシブル・タイムと書いてありまして、これならというお話をさせていただいたのがその背景です。

何年と言われても、これはなかなか、今二年というような感じになっておりますけれども、少なくともインフレ目標というものは、世界じゅうを見ましても、何十%に上がっていたインフレを三%に下げます、五%に下げますというインフレ目標というのはやられた国はありますけれども、いわゆるデフレーションですから、マイナスのものをプラスにして二%というようなものは過去に例が一つもありませんので、そういった意味ではなかなか難しい話だとは思いますけれども、インフレ目標として二%という目標を設定していただいておりますので、その意味では、アット・ジ・アーリエスト・ポシブル・タイム、これで我々としては納得をしたというのがその背景であります。

山本(幸)委員 ここに白川総裁が書いた教科書があります。恐らく、大学で教えるときに使われた教科書だと思いますけれども、「現代の金融政策」、ここにはちゃんと書いてあるんですよ。

ここの五十五ページに、「金融政策はある程度の時間をかけると、物価上昇率の水準に影響を与えることができる。」それは、「一般的にはタイムラグは一年から二年くらいの長さであると考えられている。」と。そして、審議委員の宮尾龍蔵さんの実証研究を引いて、宮尾さんの実証研究では、影響というのは二年で全部出尽くすんだと書いてある。

つまり、白川総裁は、自分の教科書では一年から二年と言っているんですよ。にもかかわらず、責任をとりたくないために、はっきりと年限を示さないんですよ。極めて不誠実だと私は思いますね。

これは世界の常識なんです。だから、今度の新総裁、黒田総裁、岩田副総裁、二年と言っているんですよ。その二年が普通のものなのに、できるだけ早くですからね。二年以内というのは当然ですよ、それは。

そこで、きょうは黒田新総裁に来ていただいておりますので、本当は、あした、あさってが金融政策決定会合ですから、ブラックアウトの時期で、本来、発言ができないというのが普通でありますし、本当だったらそれが終わった後にやるべきだったと思いますけれども、どうしてもきょうということで、来られる以上はお聞きしなければいけないので、やらせていただきます。

黒田総裁、あなたは大きな使命と責任を担われたんですね。安倍総理から、二%という物価安定目標を何としても達成しなきゃいかぬと。これは大変なことですよ。

そのためには、もうあなたは、責任をとらないとか保身を考えちゃいけない。これから、いろいろな批判も出るでしょう、誹謗中傷もされるでしょう。しかし、そんなことに一切耳を傾けてはいけないんですよ。命がけでやらなきゃいかぬ。それが総理から託された使命ですよ。そのためには、退路を断たなきゃ、こんなものは誰も信用しない。

金融政策というのは、一番大事なのは、市場に、そして国民に、本当にやってくれるんだという信頼があって初めて、デフレ予想が緩やかなインフレ予想に変わり得るんですよ。だから、黒田総裁、あなたは、二年でやらなかったら責任をとる、岩田副総裁と同じように、責任をとる、はっきりそう言って臨んでもらわないと困りますけれども、いかがでしょうか。

黒田参考人 ただいま委員御指摘のとおり、多くの中央銀行は、物価安定目標達成のタイムスパンとして二年程度を考えております。私も、この二年程度というものを念頭に置いて、量的にも質的にも大胆な金融緩和を進めることによって、二%の物価安定目標を一日も早く実現するという決意でございます。

もちろん、十五年続いたデフレから脱却するということは、委員も御指摘になりましたように、容易なことではございません。しかし、日本銀行の持っておる政策手段の全てを動員して、できることは何でもやるということで、強いコミットメントをし、それを市場に適切に伝えて期待を転換させるということも重要ですし、そういった期待を裏打ちする大胆な金融緩和政策をとっていく。

二%の物価安定目標は、御指摘のように、既に一月の政策委員会で決定された事項でございますので、これは必ず実現しなければならないというふうに思っております。

山本(幸)委員 必ず二年で実現しなければならないと、決意を伺ったと理解いたしました。大変ありがたい。あなたに日本国民の運命はかかっているんですから、ぜひよろしくお願いしたいというふうに思います。

そこで、金融政策、アベノミクスに対するいろいろな疑問とかがありますけれども、金融政策だけでデフレは脱却できないという議論を、日本銀行初め、あるいはその御用学者がいろいろやってきました。これに対する一番いい反論は、では、金融政策だけでデフレが脱却できないとしたら、一体どういうことが起こるのかというのを考えるのが一番いいんですよね。

安倍総理、何が起こると思いますか。

安倍内閣総理大臣 この二年間、山本委員からいろいろと御指導いただいているんですが、こういう俗説的な反応に対しては、もし中央銀行が一切デフレ脱却に向けて効果を与えることができないということであれば、例えば、長期国債を日本銀行が市中からどんどんどんどん買っていったとしても、それはインフレにもならないということであれば、これは結果として財政ファイナンスをどんどんお願いできるということになってしまうわけでありまして、しかし、そんなことにはならないわけであります。

ですから、まさに、そうならないということについて、デフレ、インフレは貨幣現象であるということを論理的にある意味証明していることになるんだろう、こう思うわけでありますし、今の我々の政策について批判をしている人は、自分の本の中で、中央銀行は残念ながらデフレ脱却に対してほとんどできることはないということを書きながら、一方、長期国債を買えばインフレになると書いているんですね。相矛盾することを同じ本の中に書いているということもありますから、その論理は私は間違っているんだろう、このように思います。

山本(幸)委員 全くおっしゃるとおりで、金融政策だけでデフレ脱却できないということを突き詰めていったら、日本は無税国家になることができるということを言っているんですよ。つまり、国債を買ってどんどんお金を出しても物価は上がらないと言っているんですから。そうであれば、市中にある国債を全部買い占めればいいんですよ、日本銀行が。それで国債の累積問題は一瞬にして解決します。そして、将来、増税をして国債を償還する必要がなくなる。日本は無税国家になるんですよ。だけれども、そんなことがありますか。あり得ない。必ずどこかの段階でインフレになるんですよ。

だから、金融政策だけではデフレが脱却できないという質問者がこの後から出てきたら、その答えをしたらもう一発で終わりますから。

そこで、貨幣現象ということなんですけれども、余り数式とか出したくないんだけれども、言葉だけで言っているとちょっとわかりにくいところも逆にあるので、一回出た数式を使って言いたいと思いますが、これは資料でお配りしていると思います。

私が言いたいのは、全部じゃなくて、三番目のところが一番大事なところであります。

一番目の、MVイコールPT、貨幣数量方程式、これは基本的な方程式ですが、これには短期的には成り立たないというケインジアンの批判もありますが、長期的にはケインジアンも名目賃金が調整されて成り立つと。だから、どの経済学の立場に立っても、長期的にはこの式は成り立つということで理解されています。その間の条件が長期的な間に落ちついてくるということですね。

ところが、この式だけで考えているとよくわからない。よくわかるためには、変化率をとって、三の式にしないとよくわからない。

その前に、一の普通の式だけで、名目GDPの比率で各国と比べて日本は金融が緩和していますよという議論を日本銀行が行って、それをいろいろな人がやっています。恐らく前原さんが同じようなことを後から言うんじゃないかと思いますけれども、しかし、それは余り意味がない。

なぜ意味がないかというと、日本人は現金が好きなんですね。海外では現金なんか余り持ちません、危ないから。だから、日本ではもともと比率が高い。

それから、分母の名目GDPというのは、日本は二十年前と同じだけれども、その間にアメリカは二・五倍、イギリスは二倍と変わっているわけで、その変わっているベースをもとに比べて日本の方が高いから金融緩和しているという議論をしたってしようがない。大事なのは、物価がちゃんと二%になっているかということが実現できるかどうかということであって、ほかの国のやり方を言ったってしようがない。

そこで、三のところで、ここはちょっと問題なので議論をしたいんですが、要するに、デルタP、物価上昇率というのは、貨幣供給の増加率プラス貨幣流通速度の上昇率マイナス実質経済成長率です。こういう式になる。

問題は、この一番最後のところの実質経済成長率というのは、マイナスの影響がある。よく、この予算委員会でも財務金融委員会でもいろいろな人が議論しました。デフレ脱却するためには実質経済成長率は高くなきゃいけないんだ、あるいは白川さんも、成長力強化が一番大事だと。逆ですよ、この式から見ると。

つまり、そこでちょっと気になるのが、成長戦略との関係です。成長戦略、成長力強化というのは、生産性を高めて潜在成長力を上げるという政策です。それは供給力をふやすんですね。だけれども、需要が整わなければ、逆に需給ギャップが開いて、デフレ要因です。それがこの式で示してある。

その意味では、第三の矢の成長戦略というのは、これはほかの点からも非常に大事なんだけれども、日本の長期的なあり方から考えて、成長をさせるというのは大事なんだけれども、金融政策という全面的なバックアップがなければ、逆にデフレ要因になるんです。このことが非常に大事なので、この点について、甘利大臣の御見解をお聞きしたいと思います。

甘利国務大臣 今の話をテレビで見ておられる人が、何人がこの話がわかるのかよくわかりませんが、私も専門家ではありませんけれども、それは前提条件があった場合だと思いますね。日銀がベースマネーをふやさない、マネーサプライをふやさない、つまり、金融で縛っている中においてそういうことが起きるとそうであるというふうな前提が必要だと思います。

ただ、経済成長していく場合には、資金ニーズが必ず起きてきます。日銀としては、金融政策として当然、資金が潤沢に供給されるような対応をしなければいけないと思いますし、現実問題としてはそういう対応をしてくると思いますので、その限りにおいては、そういう事態は起こらない。

だから、そういう意味では、確かに金融政策はとても大事だということは、委員のおっしゃるとおりだと思います。

山本(幸)委員 おっしゃるとおりで、金融政策がしっかり行われないと、成長戦略もきかないんです。

それから、第二の矢の財政政策のところも実はそうなんですね。

余り難しいことばかり言っていて叱られるので、もう自分で言っちゃいますが、マンデル・フレミング理論というのがありまして、変動相場制のもとでは、財政拡大をやると、国債を発行して金利が上昇しかかるので、為替レートが円高になって効果が出ないんです。これは自民党政権でずっと続けてきたことですよ。幾ら財政拡大をやっても、円高で相殺されて効果が出なくて、国債の発行高だけが積み上がっちゃった。

金融政策がなきゃだめなんですよ。金融政策で金利を下げて……(発言する者あり)それは民主党も一緒ですが、私は、自民党もこれは反省しなきゃいけないと思っています。金融政策の役割がしっかりと並行して行われないと、財政政策はきかないんですね。

これはぜひ、財務大臣、もうおわかりだと思いますけれども、御決意のほどを。

麻生国務大臣 ここでアービング・フィッシャーの名前を聞くとは、久しぶりで思い出しましたね。学生時代に聞いて以来聞いたことがなかったので、アービング・フィッシャーの名前は久しぶりで、マンデル・フレミングとか、随分習わせられました。もう五十年も前で忘れましたけれども。

今言われたように、今回で一番目ですけれども、一番目の矢の日銀の金融政策に関しましては、金融を非常に緩和させますという、これは優先順位は多分一番であることははっきりしているんですが、緩めたからどうなるといえば、先ほど言われましたように、緩めたら、お金は間違いなく市中銀行までは行きます。マネタリーベースはふえる。しかし、問題は、市中銀行からお金を借りてくれる企業なり個人なりがいないと、マネタリーサプライはふえない。もう御存じのとおりです。このマネタリーサプライがふえない間は、間違いなく、物価が上がるとか、景気がよくなるとか、経済成長率が上がるということはあり得ない。はっきりしていると思います。

したがって、これから先ふやしていくためには第二、第三の矢が大切なので、この三つを一緒にどんとやったのが今度のアベノミクスの一番大事な観点なんだ、私はそう理解をしております。

したがいまして、今言われましたように、予想インフレ率という言葉がいろいろ使われますけれども、少なくともデフレが固定していると思われている状況では、人は、きょうよりあしたが安くなる、あしたよりあさってが安くなると思えば、物は買いませんし、設備には投資しません。あした高くなると思えば、今買った方がいいということになっていく。そういった気持ちの問題なのであって、これが行き過ぎると、インフレ率がぼおんと上がって、私がかつて住んでおりましたブラジルみたいなことになると、えらい、一〇〇〇%とか一二〇〇%みたいなことになり得るんですけれども、そういった状況ではない。

少なくとも、今マイナスの状況をプラスまでには何としても持っていきませんと、財政というものを考えたときにおいて、GDPとの比率で、今、千兆対五百兆、簡単に一対二みたいになっておりますから、少なくともその比率をずっと変えていかないかぬというためには、GDPを伸ばすためにはこの二番目、三番目というものがきっちり作動しないと、今言われた問題、デフレからの脱却を含めて、デフレ不況からの脱却というものも達成し得ないと思いますので、この二つ、三つを一緒になってやっていくのが一番大事なものだと思っております。

山本(幸)委員 今財務大臣がおっしゃった最後のところの、予想インフレ率に影響を与えるというのは非常に大事なんですね。これが、金融政策のいわゆるレジーム転換、まさに、二%の物価目標を持って大胆な金融政策をやるというアベノミクスで、そこの予想インフレ率は変わるんですよ。

それから、実際にまた変わるのは、マネタリーベースをふやすと、予想インフレ率というのは上がってきます。これは、物価連動国債との間の比率であるブレーク・イーブン・インタレストというのとマネタリーベースとを見ますと、きれいに上がってくるんですね。

そこで初めて、人々が消費をしようという気になる、あるいは企業が投資をしようという気になるわけですね。将来の物価が上がると思えば、では、今買おうか、今つくった方がいいじゃないかということになるので、そこをつくり出すのが大事で、これがまさに金融政策のレジーム転換であり、マネタリーベースをふやして、大胆な金融政策をやってそれを変えていくんですね。これが非常に大事です。

だから、当面は、おっしゃるとおり、余り貸し出しはふえないんですけれども、そこが動いていって、さっき見たところの貨幣の流通速度というのが上がってくることによって、徐々に経済が動き出す。

この前、前原さんのお話を聞いていたら、予想インフレ率が上がっても、むしろ貯蓄に回して買わない人が出るんじゃないかという議論があると言っていましたけれども、私は、本当にそうだろうかと。だって、今貯蓄したら、一年後には二%目減りするんですよね。目減りして、一年待って高くなったものを買う人というのは、少なくとも合理的ではないですね。

非合理的な人がいないとは思いませんけれども、大勢がそうとは私は思わないので、必ず、大胆な金融政策、レジーム転換で予想インフレ率が上がって、実際、去年の初めぐらいはマイナスだったんですけれども、今、一・四ぐらいに予想インフレ率は上がってきています。これを、消費税の影響があるから二から三ぐらいに上げていかないといけないので、そこがさっきの黒田総裁の決断で、何でもやるということで、やってもらうわけであります。

問題は、そういうことをやっていくときに、やはり実体経済がよくならないといけない。おっしゃるとおりだと思います。失業率も減って、賃金も上がらなきゃいけない。

物価だけ上がって賃金が上がらなければ問題だという議論がありますが、それは起こらないと思います。というのは、消費者物価の中身というのはほとんど賃金の塊ですから。だから、賃金が上がらないで物価が上がるということはあり得ないと思いますけれども、その心配はないと思うんだけれども、雇用とかについては問題がありますが、インフレ目標二%が達成できると、失業率というのは大体どれぐらいになるんでしょうか、厚労大臣。

田村国務大臣 山本先生とこうやって予算委員会でこういう議論ができるというのを、本当に感慨深く思っております。

二十年ずっと、山本先生は、当初デフレの入り口だったと思うんですけれども、日銀総裁とこの議論を闘わせてこられた、議事録なんかで拝見をさせていただきましたけれども。

なぜ自民党があの選挙で負けたんだ、いや、その前に自民党がなぜ支持率が上がらないんだという議論をよくしましたよね、本会議場で。当時、やはりデフレというものを退治しなきゃいけないと。国民の所得が上がらない、失業率が上がっている、こんな状況をどうやって是正するんだ、まさにデフレを脱却するしかないと言って、その選挙が終わった後に議員連盟を二人でつくって、そしてその後、安倍当時元総理に会長になっていただいて、今のアベノミクスがあるのであろうと私も思っております。

そういう意味では、日本の国を救おうという熱い思いで啓蒙された山本議員に私は敬意を表するわけであります。

今の御質問ですけれども、フィリップス・カーブ、日本の一九八〇年代で見ると、大体、物価上昇率二%で、二・五付近だと思います。ただ、今現状でそのフィリップス・カーブがどういうような状況になっているかは私はわかりませんけれども、一九八〇年代から九〇年代初頭にかけてはそのような数字であったというふうに認識いたしております。

山本(幸)委員 私も同じような感じで思っておりますが、ぜひそうなるようにしていかなきゃいかぬなというふうに思います。

そのほかにアベノミクスに対する批判がいろいろありますが、要するに、さっきの数式がよくわかっていない人ばかりです。大きな批判というのは、財政ファイナンスで金利が高騰するんじゃないかという批判、あるいはハイパーインフレになるんじゃないかという批判があります。しかし、これは、物価安定目標政策とは何なのかというのがわかっていない議論なんですね。

物価安定目標政策というのは、二%という目標を持って、大体プラスマイナス一ぐらいの許容範囲で考えるんですけれども、それを超えたら、マイナスもいかぬし、プラスもいかぬよという政策なんですね。

だから、さっきの数式の左辺のPのところが二で固定されちゃったんですよ。二で固定されちゃったんだから、それ以上マネーのふやしようがない、それ以上国債は買わないことを約束するということと同じことなんですよ。だから、物価安定目標政策というのがしっかり定着すれば、財政ファイナンスの心配もないし、ハイパーインフレの心配もないんですよ。そのことが物価安定目標政策の大きな機能なんですね。これが高橋財政のときと違うんですよ。

高橋財政のときは、国債の日銀引き受けという金融政策のレジーム転換で、一気にデフレ予想をインフレ予想に変えました。そして、財政拡大につなげました。しかし、二・二六で高橋是清さんが暗殺されて以降、歯どめがきかなくなるんですね。どんどん貨幣の供給量を軍部の要求でふやし続けて、それを日銀が引き受けるという形でやらざるを得なかったんです。あのときに二%なり三%というのが物価安定目標政策でありますよと言っていたら、そんなことはあり得なかったんですよ。

だから、物価安定目標政策というのは非常に意味がある。日本が放漫財政に陥らないというための人類の英知なんですよ、これは。これを大事にしなきゃいけないんです。そのことをしっかりと認識していたら、財政ファイナンスであるとかあるいはハイパーインフレが起こるなんということはあり得ないんですね。

これをぜひ、私は、多くの国民の皆さん方に理解をしてもらいたいなというふうに思っているわけであります。それがまた、アベノミクスの、高橋是清を超えるすばらしいところなんですよ。だって、もう戦争を起こすなんて憲法上できないんでしょう。だから、Mが無制限にふえるなんてあり得ないんですよ。

そういう前提で、しかし、財政健全化のためには長期金利との関係が大事になります。これは、予算委員会でも財務金融委員会でも野党の先生方から指摘がされて、私は非常に重要な点だというふうに思っております。

ただ、その長期金利の話をされるときに、先ほど麻生財務大臣がおっしゃったフィッシャーの方程式というのがありまして、長期金利イコール実質金利プラス予想インフレ率という式が成り立つから、物価目標二%と言ったら、すぐに長期金利がその分上がっちゃって、実質金利は変わらないから経済に何の効果もないということを言うための議論ですね。財務省は、インフレ目標政策、物価安定目標政策を言ったときにすぐこの議論をして、安倍総理のところにも問題ですよと言ってきたんじゃないかと思いますけれども、間違っています。

もう既に、経済理論の間では、名目の長期金利は予想インフレ率ほどには上がらない、これはマンデルが証明しています。どうして上がらないかというと、経済が成長していくうちに所得がふえて貯蓄がふえるから、その貯蓄で国債を吸収していくという機能があるので、完全にはそこまで上がらないんです。したがって、長期金利が上がって実質経済に効果がないということは心配ないというふうに思っていますけれども、財務大臣、いかがお考えでしょうか。

麻生国務大臣 国債がふえれば金利が上がりますとずっと言い続けてきたんじゃないですか、財務省は。上がりましたか。七%だったんですよ、昔は。今、〇・五五、五六。間違っていないでしょうかね。

山本(幸)委員 いや、おっしゃるとおりですよ。金融政策がちゃんと機能すれば金利は上がらないんですよ。しかも、それは理論的にきちっと証明されているわけであります。

ただし、名目成長率との関係ではまだ問題も出るわけですね。やはり、これまでデフレでもありましたから、日本の名目成長率は低いです。長期金利よりも低い。そのために財政の健全化ということについて非常に危惧があるというのは、私は、これはもう当然の懸念だし、真っ当な議論だというふうに思います。したがって、それをどうするか、増税も含めて考えていかなきゃいかぬ。

世界各国の例を見ますと、名目成長率が四、五%になると、大体、長期金利より高くなる状況になるんですね。だから、そこまで日本がいけるかどうかが問題でありますから、これは、これから財政の健全化というところはしっかり考えていかなきゃいけませんが、しかし、その前に、何としてもデフレから脱却して、少しでも名目成長率をプラスにするよということがなければ、幾ら増税したって足らないということになるわけですから、これをまず第一歩やるのがアベノミクスで、私は非常に大事なことだというふうに考えております。

アベノミクスが成功するためには、思い切った金融緩和政策が必要であります。これについては、あすから金融政策決定会合が開かれるわけでありますけれども、総裁、副総裁、しっかり頑張ってもらいたいと思います。

これは合議体ですから、ほかの審議委員の意見も必要になりますが、安倍総理が政治的課題として二%の物価安定目標というのを示したんですから、これをしっかりと実現するためには、審議委員も頭を切りかえてそれに協力してもらわなければいかぬ。そういうことをしっかりと私どもはチェックしていきたいというふうに思っておりますので、そのことを申し上げて、質問を終わらせていただきます。

ありがとうございました。

山本委員長 これにて山本君の質疑は終了いたしました。