政策レポート

米国出張報告その② (2006.4.29~5.5)

 

米国出張報告その② (2006.4.295.5

NO3 米国の対中国政策等)

1 今回の訪米で大きな課題としたのは「米国の対中国政策」で、会う人全てにこの問題についての見解を聞いてみた。その結果得られた答えは、「米国には統一した対中国政策は無い。」ということだった。

  一方にチェイニー副大統領を中心とする「対中強硬派」がいるのに対し、国務省は伝統的に「親中派」でその代表がゼーリック国務副長官だとされている。「対中政策」は、この両者の間で揺れ動いており、統一的な方針は確立していない。結局、「米国の対中政策」は腰が定まっていないというのが私の印象である。

  ただ、はっきりしたのは、「4月の胡錦濤国家主席の訪米は失敗だった」と皆が思っていることだった。米国にとって何も得られるものが無かったというのだ。特に元レートが切り上げられなかったことに失望感が強かった。

  小泉総理の「靖国参拝問題」については、知日派と呼ばれる人達は一様に「それで問題が解決する訳ではない。」との意見だったが、議員の一部には、「日米が揉めるのは、止めてもらいたい。」という声もあった。事実、帰国後、ハンター下院国際経済小委員長(共和、カルフォルニア州)が「小泉総理の靖国参拝は自粛すべきだ」との書簡を出したということを知った。

  今米国は、イラクや移民問題等に忙殺されており、他のところで揉めるのは勘弁してくれというのが、米国人の素直な気持ちなのだろう。

  北朝鮮の拉致問題でも、横田咲紀江さんが議会で証言しブッシュ大統領にも会って日本で大きく報道されたが、米国の新聞ではほとんど報道されなかったと聞いた。米国人の関心はイラクと国内問題にしかないというのが、中間選挙前の米国の現状のようだ。

  以下、知日派の代表であるアーミテージ元国務副長官とマイケル・グリーンCSIS日本部長(前国家安全保障会議アジア上級部長)の見解を、それぞれ紹介しておこう。

 

 2(アーミテージ元国務副長官)

(1)(対中関係について)

○ 靖国参拝自体が問題ではなく、靖国参拝は真の問題の一症状に過ぎない。同じ時代に同じ地域に同等の勢力が現れたことが問題となっている。北東アジア各国(中国、韓国、日本)は、強いナショナリズムに傾きつつある。

○ 中国は2008年のオリンピックを控えており、短期的には、経済成長を維持するため米国を始め各国とよい関係を維持出来るよう努めるだろうが、長期的にはどうなるか分からない。例えば、石油利権を求めて、スーダン、ジンバブエ、ベネズエラ等との関係を強化しつつあり、将来的には米国と利害が衝突するかもしれない。

○ 中国の胡錦濤主席の訪米は成功したとはいえないと、個人的には思っている。まず中国は面子を気にする国であり、ブレアハウスでの宿泊、21発の礼砲、大統領執務室での会談など中国の要求はほとんどかなえられたのに、米国は何も得られなかった。

   またホワイトハウスで法輪功関係の抗議者が式典を混乱させたこと等について、中国は単なるアクシデントではなく陰謀ではないかと思っている。中国にとって最も重要な関係は米中関係であるが、米国にとって最も重要なのは日米関係である。こうした違いが、中国のフラストレーションを蓄積させている。

○中国に対処するには、中国の軍事費の透明性を向上させるとともに、日米両国間の協調を民間と政府双方から強化していくことが重要であると思う。例えば中国は、中国の潜水艦が日本近辺に現れた時の米海軍と海上自衛隊の緊密な協力関係を目の当たりにして非常に驚いている。また、日米政府は、インドとの関係を強化し、中国に対抗しようとしている。

 

(2)(対北朝鮮関係等について)

○ 北朝鮮との関係で、バンコ・デルタ・アジアの資産凍結を始めとした金融措置や覚せい剤取り締まり等での日本の協力は非常に役に立っている。

○ 日米の北東アジア外交における大きな問題は韓国との関係ではないかと思う。個人的には、朝鮮半島問題は困難さを増していると思う。まず、南北朝鮮の統一がゆっくり進みつつある一方で、米韓のFTA交渉は難航している。また昨日韓国の国防大臣も述べていたが、韓国では北朝鮮以上に米国を問題視する見方が急速に高まっているとのことである。これは、韓国の国民が北朝鮮を脅威だとは考えなくなっていること、一方で米韓の二国間関係は、在韓米軍基地の再編等を始めとして深刻な問題を抱えていること等による。

○ 北朝鮮に核兵器を放棄させることは難しい。ウクライナのような解決方法があればよいのだが。ウクライナは、核兵器は結局使用する機会は無く、価値よりも問題ばかりだという理由で、自らの判断で核兵器を放棄した。エジプト、ブラジル、南アフリカ、台湾も核兵器の開発を同様に自主的に放棄した。ただし、これまで武力による脅しによって核兵器を放棄させた事例はあまり無いと思う。

(3)(イラン、イラク関係について)

○ 私が国務副長官の頃は、フランスのイランとの強い関係を考慮し、米国は積極的な対応をしてこなかったが、イランの大統領がアフマディネジャドに変わって以降変化した。同大統領は、「イスラエルを世界地図から取り除く」など、危険な発言を繰り返しており、フランスも米国側につくこととなった。現在、米国は国連憲章第7章に基づく決議を行うことを目指しているが、仮に決議が行われたとしても弱いものとなるであろうし、さらに制裁にまで進むのには時間がかかる。なお、米国政府は石油禁輸の制裁は考えていないのではないか。

○ 欧州諸国の軍隊のイラクからの撤退については、ブッシュ政権にとって非常に難しい問題はあるが、米国と関係諸国の間で静かに話が進められていくものと思う。

 

(4)(在日米軍再編問題について)

○問題は、費用負担である。日本の防衛予算は、小さ過ぎる。何故GDPの1%以下なのか、もう考え直すべきだ。SACOの時のように、防衛予算と別枠で確保されるのかどうか、という点に強い関心を持っている。

 

3 (グリーンCSIS日本部長)

 (1)(対中国関係について)

○ 対中国との関係からすると、中国の人権問題等に批判的な共和党の宗教右派、それほど反中国ではないが、中国の防衛問題を懸念している(宗教右派よりもやや中道の)右派の人々、労働組合を基盤とした反中国の民主党右派、ビジネスのみを重視し、他の中国の行動には全く無関心な財界、その他、親中国派の農業団体等、の5つに分類出来るのではないかと思う。対中国戦略について、米国における全国的なコンセンサスは無い。

○対中外交政策の具体的な戦略については、ヘッジングとして、日米安保や日米豪の同盟関係を強化すること、ルール重視の立場として中国を法治国家にさせるために米国だけでなく他の国からもその重要性を伝えるべきとの考え方、米国だけでなくアジア地域の安定のために日本やインドからも中国に民主化するよう働きかけるべきとの考え方、そして勿論中国の軍備の透明性を高めるべきだとの考え方などがある。

○全国的に対中戦略にコンセンサスが無いからといって、米国の政権内で意見が分裂している訳ではない。米国政権の対中国政策は、NSCのデニス・ワイルダー・アジア上級部長代行が中心となり取りまとめられている。自分は、チェイニーの影響力はそれほど無いのではと思う。マスコミは、国防総省は反中国で、ゼーリックは中国に「責任あるステークホールダー」になるよう求めている点で親中国であるとのイメージを作り出しているが、両者にそれほどの違いは無いと思う。ゼーリックも国防総省と同様に中国の軍事情報の透明性の必要さを主張しているし、他方国防総省も予算獲得のために中国の脅威を誇張するきらいはあるが、ゼーリックの対中外交政策には反対していない。

○議会内の対中強硬派としては、中国の軍事近代化や中国への技術移転を懸念しているダンカン・ハンター下院議員(共和・カリフォルニア州)、人権問題を重視しているナンシー・ペロシ下院議員(民主・カルフォルニア州)、下院台湾議連共同議長のダナ・ローラバッカー(共和・カルフォルニア州)等がいる。リチャード・ルーガー上院外交委員長やチャック・ヘーゲル上院議員などは、多数派の穏健派である。

 

()(日中関係について)

○ 福田元官房長官が次期首相になり靖国参拝を取り止めれば中国との外交問題が解決すると考えている人もいるが、日本国内で反発を買う可能性もありそんなに単純ではないと思う。一方安倍さんが次期首相になれば、米国、インド、豪州との関係が強化され靖国参拝が継続されることになろうが、その場合、韓国との関係がぎくしゃくする。第三の道が必要であると思う。

○ 中国は、日本を孤立させるために歴史問題等を利用している。靖国参拝は対中外交問題の一つであり、日本は対北東アジア戦略全体の中で解決策を考える必要がある。勿論、対中外交政策は米国が介入すべき問題ではなく、日本自身が判断すべきものである。

○ 2001年に小泉政権が成立した後の小泉首相の演説では、日米安保及び国連重視については触れられていたが、対アジア重視の言及がなかった。これは、歴代の政権の定番と違っているので意外に思っていたのだが、その後の展開をみると、小泉さんは、既に将来を暗示していたのだということが分かる。

 

(3)(北朝鮮問題について)

○ バンコ・デルタ・アジア(BDA)については、米国財務省や中国の財務専門家が現在取引実態の分析を行っているところであるが、記録が電子データーでなく全て紙となっているため、大変な労力を要しているとのことである。また、調査を進める中で、これまで言われてきた偽札収入以外にも相当大きな金額の不透明な金があることが判明してきているようである。

○ BDAからの資金は金正日の直属の組織が運用し、金正日の個人資金として核兵器プログラムや軍人への賄賂に用いていた模様である。個人資金が減少したことで相当程度のインパクトがあるのではないかと思う。BDA以外の銀行も、(米国政府の出した勧告により)米国の制裁を恐れて北朝鮮との取引を中断したことから、北朝鮮への送金の多くがストップしている。

○ 核兵器は、北朝鮮体制にとってどうしても手放せないカードとなっている。金正日にとって一番の脅威は軍部であり、核兵器があるから体制は崩壊しないといって軍部の不満を抑えている。サダム・フセインも、核兵器があるとイラクの閣僚に信じ込ませることによって体制を維持していたのと同じだ。本当は無かったにも拘わらず、閣僚達は、あると信じていたのである。イラクが核兵器を持っているとCIAが判断したのも、閣僚達の会話に「実際にあるのだ。」ということが何度も出て来ていたからだ。

○ 六者協議は、それなりの効果はあると思う。中国を取り込むことで、中国も面子を失わないよう、北朝鮮に圧力を掛けることになる。また、経済制裁も挑発的でない形で、それなりの効果を上げることが出来る。

 

NO3以上、完)