政策レポート

代議士の仕事(2008.6.23)

 

代議士の仕事  
  2008.6.23 衆議院議員  山本幸三

1 今年の通常国会も6月21日で延長も含め156日の日程が終わった。数々の不祥事や難問が噴出して厄介な国会だった。それでも政局に陥らず淡々と会期末を迎えるとは、驚きでもある。国会が終わったからといって国政が止まる訳ではない。まだまだやるべきことは山ほどあるのである。そこで、国会終盤のこの一週間の私の体験や仕事ぶりをご紹介して、今後の課題の参考にして頂きたいと思う。

2 先週、毎年恒例だが、県や市町村長の代表者と県選出国会議員との懇談会があった。これからの予算要求に向けての陳情を受ける会である。県知事、県議会議長、市長会、市議会議長会、町村会、町村議長会の代表者が出席、県選出の自民・公明の与党議員が出席した。今年は、道路関係の暫定税率の問題や後期高齢者医療制度(長寿医療制度と名前を変えたが一般化しておらず、この呼び方でいく)、道州制の問題などホットな話題が多く、例年になく中身のある議論が行われた。  
 とくに感心したのは、全国町村会の会長でもある山本文男添田町長が、「後期高齢者医療制度は、準備段階での説明不足が最大の問題だった。その責任は本来市町村にあるのだが、それをきちんと指導しなかった役所も悪い。また、老人で保険料を払う人と払わない人を敢えて作ったのがよくない。皆一斉に払うようにすべきだった。自分はこの制度がベストと思うので、きちんと定着させないといけない。ただ、見直しで負担を減らそうとしているが、その財源の穴埋めを誰がするかが問題だ。市町村に押し付けられては困る。やるなら国がきちんと面倒をみるべきだ。」と語られたことだ。自分達自らにも説明責任があるのだと認めるなど、普通の人ならとても言えまい。大したものだと、感服した。  
 麻生知事からは、地方分権、道州制の推進を図りたいので、税源委譲も含めて地方分権を徹底してもらいたいとの話があった。そこで、私は次のような質問をした。「三位一体改革のとき税源委譲もというので、そうしたら交付税が減ったといって大騒ぎした。私は、税源の地方間での分配のシステムが無ければ東京の一人勝ちになるが大丈夫かと念を押したのに、強行して今度は泣きべそをかく、少しおかしいのではないか。そうならないための方策を考えているのか?」と。麻生知事は、「確かに前回は所得税の委譲だったので、東京一人勝ちということになった。今後は、バラつきが少ない消費税を委譲してもらいたい。その上で、交付税のような配分機能は依然として必要だろう。」との答えがあった。ある程度は考えているなとは思ったが、消費税は、福祉目的税にしようとの声もあり、余程しっかり理論武装しないと上手くいかないのではとの危惧はぬぐえない。

3 山本町長の話は後日談がある。2日後山本町長から電話がかかってきて、「後期高齢者医療制度の件で、厚労省から町長が財務省に陳情して欲しいと言われた。ついては財務省に顔が利く山本代議士に主計局長などに合わせてもらえるよう頼みたい。」とのこと。財務省という役所は、全国町村会長といえども直接面会を申し込んでも会ってくれないらしく、以前も仲介を頼まれたことがある。主計局長や次長、主計官などは皆、私と親しい後輩なので、私が頼むとすぐに会ってくれるのである。そこで19日の木曜日に面会をセットした。私と町長、事務局数人で訪ねると、主計局長、次長、主計官が総出で会ってくれた。山本町長は「この制度は、何とか根付かせないといけないので、市町村の過重負担にならないようにしてもらいたい。」と陳情した。主計局としても、この医療制度は長い眼で考えれば必要だと考えているようで、「よく分かりました、出来るだけ努力致します。影響力の強い山本町長からも、この制度の必要性について強いメセージを発信して欲しい。」と異例の前向きの答弁があった。余程、この制度が重要だと山本町長が考えてくれていることが嬉しかったのだろう。  
 山本町長も「代議士が先輩として同席してくれたから、あれだけ前向きのことを言ってくれたのだ。」と大変喜んでおられた。この陳情は難しいにもかかわらず何とか上手くいきそうな気がする。

4 次の大きな課題は「骨太の方針」である。小泉政権以来始まった「骨太の方針」によって、2011年度のプライマリーバランス(国債の利子支払い分を除いたベースで収支がバランスすること)の達成を至上命題とし、そのため毎年の歳出削減を義務付けようとするものである。これに対し、とくに毎年9000億円位必要となる社会保障費の自然増分から2200億円削ることが規定路線とされている点が問題視されている。また、原油高対策、地域経済の落ち込み等から歳出増を求める声が例年になく高まっている。  
 この「骨太の方針」についての議論が、先週から始まった。私は、先陣を切って次のような論陣を張っている。「骨太の方針で2011年度にプライマリーバランスが達成されるためには、一定の前提がある。それは、実質成長率が2%前後、税収のために最も大切な名目成長率は2.5~3.3%という高成長率が達成出来るという前提である。ところが今やそれが不可能なことは明らかだ。昨年度の実質成長率は1.6%、名目に至っては0.6%に過ぎない。今年度に入ってからは、既に景気は後退局面にあるのではないか。加えて原油を初めとする資源高は家計を直撃している。今こそ経済対策が必要なのではないか。ところが、太田大臣は“まだ景気後退とは言えない”などとピントのずれたことを言っているだけだ。そういう中で、歳出削減だけを金科玉条の如く貫徹しようというのは馬鹿げている。プライマリーバランス達成時期をずらすのが現実的だし、そうならざるを得ない。今や「骨太の方針」を止めるのが一番の経済対策ではないか。」と。  
 他の議員は、教育予算を増やせとか、福祉はこれ以上減らせないとか、各論の議論が多いのだが、私の議論は、「骨太の方針」のよって立つ土台の議論だから、これは大変だと役人も感じたのだろう、早速内閣府の担当者がやってきて、「リスクシナリオでは、2011年度に達成出来ないこともありうるとしている。何とか歳出削減の旗だけは掲げさせてくれないか。」と頼みにきた。私は、「現実はリスクシナリオ以上に悪くなっている。もはやリスクシナリオではなく現実シナリオがそうなのだから、直ちにシナリオを変えるべきだ。太田大臣と数字を上げてやりあってもよい。2011年度のプライマリーバランス達成など不可能だということを客観的に示してやるから。」と内閣府の要請を拒否した。  
 来週いよいよ大詰めを迎えるが、福田総理はどこまで分かって歳出削減の旗を揚げ続けるのか?それとも経済政策の責任者の無知により日本経済が停滞とデフレの悪循環から抜け切れずに国民はいよいよ苦しみ続けるのか、重要な分かれ目となるだろう。

5 自民党内でも原油高対策PT(プロジェクトチーム)が発足、議論が始まった。今のところ、政府系金融機関貸し出しの枠を広げるとか、トラック運賃のサーチャージ制を見守るとか、過去の政策を強調するだけの施策しか出ていない。  
 実は私は、古賀誠先生から「何とかガソリンの値段を下げる方策が考えられないか?」との命を受け、先週からある秘策を検討しているのだ。それは、国家備蓄している石油を放出出来ないかということだ。今国が直接備蓄している分と民間でやってもらっている分を合わせて約150日分位(当初資源エネルギー庁は国家99日分、民間77日分あると言っていたが、私が放出を考えていると言ったら、IEAに基準でやるともっと少なくなりますと言ってきたのである。)の石油が備蓄されており、これの一部を放出してトラック業界や離島航路の海運業者、公共運送業者などに安くガソリンを提供できないかというものである。  
 しかし、これには種々の問題があり、経済産業省の資源エネルギー庁も難色を示しているのだ。  
 第一の問題は、これらの備蓄はIEA(先進消費国による国際エネルギー機関)の協定で義務付けられているもので、取り崩すときの条件も協定で限定されているのだ。すなわち、「何かの異常事態の発生で、物理的に量が不足した場合にのみ」取り崩しが許されるのである。例えば、3年前のアメリカのサイクロン”カトリーナ“の被害で石油精製設備が破壊され物理的に量が確保できなくなった場合に、この取り崩し規定が発動され、各国から支援が与えられた。しかし、今回ように量が不足している訳ではなくただ価格が高いというだけでは、この発動は認められないのである。  
 第二の問題は、備蓄を放出する際の価格は当然低くなければ意味がないのだが、「国有財産は、時価でしか放出出来ない。」というのが原則なのである。  
 第三に、原油は一度精製業者に渡してガソリンや軽油といった製品に加工してもらわなければならないが、その他の重油などはどう取り扱うかという問題が残る。  
 こうした問題をクリアーするのは容易なことではないが、何か将来の価格は下がりうるぞという牽制をしなければ投機筋も動揺しないと思うので、手立てだけは整えておきたいと思うのだ。このため、先週衆議院法制局の担当者を呼んで、私の意図を説明し検討してもらうようお願いした。2週間位で何らかの返答が来るはずで、それを踏まえて議員立法に踏み切るかどうか判断したいと思っている。  
 役人は一般的に議員立法を嫌う体質がある。すなわち、役人にとって一番苦手な政治家は議員立法が出来る政治家である。大きな声で役人を怒ってばかりいる政治家もいるが、役人にとっては痛くも痒くもない。法律が変わらない限り、自分達の権限が失われることはないからである。  
 資源エネルギー庁の担当者も指摘しているように、たとえ全部の国家備蓄分を放出したとしても、世界の原油取引量からすれば僅かなものなので価格に影響を与えることはほとんど不可能かもしれない。しかし、これを皮切りに何かを世界中で始めれば、必ず状況は変化すると思うのだ。その意味で、22日からサウジで始まった産油国・消費国会議は極めて重要な意味がある。これらを含めIEAの場でも、国家備蓄の活用など大いに議論すべきだと考える。これらが基本で、私の考えている議員立法はその後押しをする手立てと理解すべきだろう。  
 こんな風に、国会が終了したとはいえ、代議士の仕事には終りがないのである。地元では選挙運動も熱を帯びてきた。長く熱い夏になりそうである。

(以上)