政策レポート

米国の動物愛護事情 (2010.5.2) ― アーリントン動物福祉連盟を訪ねて ―

猫のシェルターでマイクロチップを読み取っているところ

マイクロチップの読み取り機(スキャナー)の結果を見せてもらっているところ
(説明者:スーザン・シャーマンさん)

米国の動物愛護事情 ― アーリントン動物福祉連盟を訪ねて ―
2010年5月2日
衆議院議員  山本幸三

 連休中、日米国会議員会議などに出席するため米国の首都ワシントンを訪れたが、この機会を利用してワシントン郊外・ヴァージニア州アーリントンにある「アーリントン動物福祉連盟(The Animal Welfare League of Arlington)」を訪ね、米国の動物愛護事情等について話を伺った。当該アーリントン地域では理想的な動物愛護状況にあるように見受けられたが、全米ベースともなると、我が国と同様の問題も抱えているとの率直な説明も受け、極めて興味深かった。我が国でこれから検討が始まる「動物愛護管理法の改正作業」にとっても大いに参考になると思われるので、その要点をまとめてみたところである。何らかのお役に立てれば、望外の幸せである。

(説明者)
所長代行のスーザン・シャーマン(Susan Sherman)さん。落ち着きのある動物愛に満ちた知的魅力溢れる女性である。

説明のポイントは、以下の通り。

(連盟の概要)

1.当連盟は、民間のNPOとして動物の里親探し(adoption)・教育・低料金の避妊手術といった人道的機能を果たすとともに、郡政府(County Government)との間で契約により公的な動物保護業務(シェルター)や動物管理法を執行するコントロール・オフィサー(動物管理者)業務をも担っている。この私的・公的両面の機能を有していることは、相互補完的であり動物愛護の実効を高めるのに役立っている。

2.年間経費は約二百万ドル(約二億円)で、その半分を寄付で、残り半分は郡政府からの補助金で賄っている。当地は首都ワシントンに近く所得水準が高いので寄付も集まるが、全米どこでも同じような訳にはいかない。遺産贈与という形で多額の寄付があると非常に助かる。

3.事務所の正式スタッフは30名(6名のコントロール・オフィサーを含む。)だが、約250名のボランティアが居てくれて強力な戦力となっている。24時間体制で、動物に関する緊急事態に備えている。

4.ここには50のシェルター(動物保護用の個室で、日本の感覚からすれば相当広い。)があり、犬、猫それぞれ20ずつ、残りがその他の動物用といった感じで使用している。

5.2009年度では、飼い主が持ち込んだり迷い子になったりして当シェルターに入所した犬は777匹、猫は1、370匹であった。この内、犬の315匹と猫の765匹は里親が見つかり、犬の272匹と猫の765匹は実際の飼い主に戻すことができた。残りで自然死したのが、犬7匹、猫21匹、健康上の理由や狂暴過ぎたりして注射による殺処分となったのが、犬141匹、猫356匹であった。

 

(里親制度)

6.迷い犬や迷い猫は、飼い主に探し出す機会を与えるために、最低5日はシェルターに留め置かれる。それから、里親のプロセスに入ることになる。

7.里親となる要件は、かなり厳しい。申請書類も詳細にわたる。例えば、家のリース契約を見せる必要があるし、ペット飼育が認められるという家主の同意書も要求される。家族や同居者全員が、引き取ろうとする動物に面会に来なければならない。二匹目の犬だったら、先住の犬を連れて来てその相性も確かめなければならない等々。

8.ヴァージニア州では、犬猫について、当所のようなシェルターから里親に出される場合には避妊手術を施すことが法律で義務付けられている。地域に動物が増え過ぎて管理できなくなる事態を避けるためである。

9.法律事項ではないが、当連盟の方針として、犬・猫には所有者などが分かるようにマイクロチップを埋め込むことにしている。米国の法律では犬には所有を示す義務が法律上あるが、猫にはそれが無いので、マイクロチップはこの点を補うことになる。(実際にマイクロチップを読み取る場面を見せてもらったが、手鏡大のスキャナーを犬・猫の首の辺りにかざすだけでスキャナーに英文字と数字が表示され、実に簡単なものであった。この英文字で販売会社等が、数字で犬・猫の所有者・個体名等が分かるそうである。)

10.里親になるための料金は、犬が120ドル、猫が100ドル、ウサギが50ドル、ハムスターが10ドルなどである。この料金で、避妊手術、各種ワクチン、狂犬病予防接種、マイクロチップの費用などが全て賄われる。なお、マイクロチップを埋め込むサービスは一般的にも行っており、この場合の経費は一件25ドルである。

11.里親になっても相性が合わずに戻って来るケースもたまにはある。昨年度の実績を見ると、100件に5~6件といったところである。

12.当所で上手く里親が見つからなければ、他の連盟やレスキュウ・チーム(救済チーム。小規模のボランティア・グループ)とも協力し合う。

13.当所では、里親が上手くいくように、そのペットが生きている限り、アフターケアーとしての支援や相談業務を行っている。

 

(米国の問題点)

14.米国でも動物は所有物であり、動物が虐待状態にある場合でも所有者がなかなか所有権を放棄せず動物保護に支障が生ずる場合もある。ただ事態が急迫しているとコントロール・オフィサー(動物管理者)が判断した場合には、所有者を費用所有者持ちで裁判所に呼び出すことができる権限をコントロール・オフィサーは持っている。

15.「動物虐待がある。」などいう市民の通報でコントロール・オフィサーを含む職員が出かけるが、相手によっては手に負えない場合もある。その際には、警察官にも同行してもらうよう依頼することもある。

16.動物に首輪を付けるなどして縛るのは違法ではないが、しばしば行き過ぎるケースがあり、虐待として問題となる。しかしこの時も、所有権の問題が起こることが多い。

17.最近は野良猫が増えており、これらは捕え避妊して放すということをやっているところもある。これを、Trap&Neuterという。

18.また最近、狂犬病が増えている。犬だけでなく、リスやイタチなども感染するので危険だ。

19.ペットは自らディーラー(販売業者)やブリーダー(繁殖業者)を訪ねて希望の条件に合うものを探して貰って求めるというのが普通だが、地域によっては店頭で生体販売をやっているところもある。

20.最近の問題は、インターネット販売である。Puppy Mill(子犬工場)と呼ばれる悪徳繁殖業者がインターネットで子犬を安く販売しているケースが増えてきたのである。取り締まりもなかなか難しい。結局のところ最後は、国民の良識のレベルということしかないのだ。

21.日本で法律改正をやろうとしているということだが、是非動物が幸せになるような改正を実現して欲しい。大いに期待している。 (以上)


 
 

(以上)