政策レポート

日本再生 政策アピール NO.2 (2011.3.22) -与謝野・野田両大臣は、一体誰の味方なのか!-

平成23年3月22日
衆議院議員 山本幸三

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 3月17日付けで私は、今回の東北・関東大震災という国家の危機に対し「20兆円規模の日銀国債引き受けによる救助・復興支援を行うべし」との提言をまとめ、(緊急アピール)という形で全国会議員に呼びかけた。菅総理と野田財務大臣には、本会議場内で直接手渡した。新聞報道によれば、民主党内でも同じような意見は出ていたようである。

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 こうした「復興経費をまかなうため日銀に国債の直接引き受けを求める案」について、与謝野馨経済財政相と野田佳彦財務相は、18日午前の閣議後記者会見においてそれぞれ以下のような否定的な見解を表明したと報道された。

 

 与謝野:「そもそも日銀は既発債を市場から拾うことは出来るが、国債の直接引き受けは法的に出来ない。」「家計も企業も手元流動性は潤沢。言われているような数字の調達に何ら困難もなく、日銀が特別なことをやることはないと断言しても良い。」
 野田 :「慎重な検討が必要だ。」「国債の市中消化も円滑。政府で具体的に検討していることはない。」

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 上記の両大臣の発言を聞いて、「彼等は、本当に今直ぐにも支援を必要としている被災者の悲痛な叫びが分かっているのだろうか」と暗澹たる気持ちにならざるを得ない。迅速に、かつ、十分な財源をどのようにして確保しようとしているのであろうか。発言から推測する限り、「国債を市中で発行すれば良い」と考えているようだが、それが迅速に、十分に、そして日本経済に悪影響を与えないで出来るとでも思っているのだろうか。もしそうなら、お二人とも相当な経済音痴と言わざるを得ず、黙って見過ごすことは出来ない。

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 まず与謝野大臣の「日銀の国債直接引き受けは法的に出来ない」との発言についてだが、これは、法律解釈上も実態上も認識不足としか言いようがない。
 彼は、法律解釈上「この限りでない」という文言は、「単に消極的にその前に出てくる本文の規定を打ち消すだけのものであって、それ以上に積極的に何か新しいことを言っているのではない」のだから、「日銀が国債の直接引き受けが出来るとまでは規定されていない」とでも言いたいのだろう。確かに財政法第五条の規定だけなら、そういう屁理屈も成り立つかもしれないが、実は日本銀行法自体にこうした誤解を打ち崩す重要な規定が用意されているのである。すなわち日本銀行法第三十四条では「国との間で行うことができる業務」が列記されており、その三号で「財政法第五条ただし書きの規定による国会の議決を経た金額の範囲内において行う国債の応募又は引き受け」とちゃんと明記されているのである。「法的に可能」であるからこそ、こういう規定が存在しているのは明らかで、おそらく与謝野氏は、このことを御存知ないのであろう。
 実態的にも、「日銀の国債直接引き受け」は恒常的に行われている。記憶に新しいところでは、昨年9月に一日だけ為替介入をしたことがあるが、その時の介入資金はまず国庫短期証券の日銀直接引き受けでまかない、徐々にそれを市中に売り出すという形で返していったはずである。国庫短期証券といえども国債であり、その発行上限額は予算総則で決められている。このような実例もあるのに、「日銀の国債直接引き受けは法的に出来ない」などと言うのはいい加減にしてもらいたいというのが、正直なところである。

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 次に、両大臣に共通する「国債の市中消化は円滑に出来るので、日銀に特別なことをやらせる必要はない」との発言については、以下のような問題がある。

(1)

 まずタイミングだが、直ぐに復興支援の国債増発が出来るのだろうか。今国会では、来年度予算関連法案としての「特例公債発行法案」が対決法案として議論されている。「子供手当て」など4Kマニュフェストの完全凍結を与党が約束するならすんなり通るかもしれないが、与党内がそれでまとまるのか。そういう時に、新たに「復興支援特例公債発行法案」がスムーズに国会を通るとは考え難い。事態は、一刻を争うのにだ。

(2)

 次に規模についてだが、市中での国債発行となると、これは通常の意味での政府債務の増額なので、いずれ税金による元利払いが必要となり、その発行金額にも限界が生ずる。これに対し日銀引き受けの場合は、政府の元利払いと日銀納付金との間で調整されるので、将来の増税にはつながらないで済むのだ。その結果、後者では十分な規模が確保出来るという訳だ。

(3)

 最後に最も重要なことだが、市中での国債発行は、デフレで円高という現下の日本経済にとって大きな悪影響を及ぼす。貨幣ストックの増加が伴わない市中での国債大量増発は、長期金利の上昇と一層の円高をもたらすからである。一方で円高阻止のためにG7での協調介入を行いながら、他方で長期金利上昇と円高をもたらす政策を採ろうとするのは支離滅裂である。それでなくても、復興支援のための財政出動自体が円高要因となるのだから。

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 日銀は、最近連日のように短期金融市場で買いオペを行い潤沢な資金供給を行っていると喧伝している。しかしその中身は、銀行の手元流動性を高めているだけ(日銀当座預金の増加)であって、銀行以外の民間部門にお金が回っている訳ではなく、したがって貨幣ストックの増加にはほとんどつながっていない。民間部門にお金を回すにはデフレ期待を一掃するしかないのだが、これに必要な「物価安定(インフレ)目標政策」を日銀は決して導入しようとしない。ならば政府が直接民間にお金を回すしかなく、これが「日銀引き受けによる救助・復興支援」なのである。そうすれば貨幣ストックが増加し、長期金利は下がり、円安に向かうことになるのである。

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 与謝野・野田両大臣には、今一度「最善・最速の救助・復興支援は何なのか」を考え直して貰いたいと思う。その時の基本は、「今は一体誰を守り、救わなくてはならないのか」ということだ。それは、被災者なのか、それとも日銀の利害なのか、よく考えて頂きたい。
 今回の大震災のような国難に対しどのように対処するかで、国家・国民の真価が問われると思う。迅速に、十分に、そして経済にむしろ貢献するような形で、ピンチをチャンスに変えるような思い切った手を打てるかどうか、経済政策の司令塔の責任は極めて重大だ。両大臣にそれが無理なら、菅総理自身が自ら大英断を下さなければならない。今こそ、その時なのだ!

(以上)