政策レポート

日本再生 政策アピール NO.8 (2012.3.8) -日銀に騙されてはいけない!-

 

平成24年3月8日
衆議院議員 山本幸三


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昨年3月11日の東日本大震災直後、私は「20兆円規模の国債日銀引受けによって財源を確保し、早急に復旧・復興に当たるべきだ。」との緊急提言を行った。しかし、プライドを傷付けられることを嫌う日銀と増税しか頭にない財務省によってコントロールされた菅・野田両政権によって無視され、結局増税による復旧・復興ということになってしまった。
これにより本格復旧・復興の着手が大幅に遅れ、再生への前途に暗雲が立ち込めている地域も出ているのではないかと残念至極だ。一方、日銀は大震災直後の 資金繰り対策以上の緩和策は採らず、その結果デフレはいよいよ長期化、超円高が日本経済を襲うこととなった。我々は、大震災という大ピンチを通貨発行益を 活用した国民負担なしの財源策で早急な復旧・復興を図り、同時にデフレと超円高の解消を実現するという一石三鳥の大チャンスをみすみす見逃してしまったの である。
この一年で、日本人は一段と貧しくなってしまった。飲食店街では閑古鳥が鳴き、生活保護世帯は207万人を超えた。超円高とエネルギー関連価格上昇によ る交易条件の悪化とが相まって、自動車や電気産業といった輸出産業の国際競争力は急降下、リストラや海外移転を余儀なくされつつある。交易条件が悪化して いるときには、円高メリットは望めないのである。つい最近も半導体大手のエルピーダメモリが破綻したばかりであり、各地で工場閉鎖が続出している。円高や 原発事故に伴う放射能汚染の懸念で観光客も激減し地方経済はどんどん疲弊しつつある。
そうした厳しい現状にあるにもかかわらず、復興増税が終わるや否や、野田総理は消費税増税を言い出した。財務官僚のシナリオに従うばかりである。
我が自民党も元々消費税率10%への引き上げを公約としていたので、本音では反対しにくいところだが、問題はそのタイミングであろう。今のようなデフレと超円高で呻吟する日本経済の状況の下で消費税率引上げを強行すれば消費は一段と低迷、デフレが加速・深刻化、名目GDPが減少して税収はむしろ減ってしまうのではないか。

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ならば、どうすればよいか。一日も早くデフレから脱却し名目GDPが3~4%以上になるような環境を整えることである。円高の根本原因はデフレなのでデフレ脱却が最優先事項である。
デフレは、人々がデフレ予想(マイナスのインフレ予想)を持つことから生ずる。将来の物価が下落すると予想す るなら、人々はもう少し待とうということになり、誰も今消費をしようとはしなくなるからである。企業も生産物の価格が下がると予想するなら、生産しようと はしないし投資も止めるだろうからである。逆に物価が将来上がると予想されるようになれば、消費も投資も増えるということになる。
では、何がこの予想インフレ率を決めるかというと、それは金融政策、具体的にはマネタリーベース(現金+金融機関の日銀当座預金)の増減である。このことを示すのが下図である。

 

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よく「デフレは需要不足で起こっているので金融政策だけでは解決できない」という議論がなされるが、それは、上記のメカニズムを理解していないかあるいは日銀に騙されてしまっている結果である。
しかるに、一見最もらしいこの議論は一般に広く浸透しており、自民党内でも長老を中心に根強いものがある。日銀の洗脳が行き届いている証左といえる。
需要が足りないといったとき、次に、では何故需要が足りないのかと考えを進めていけば必ずモノ(財とサービス)の需要と貨幣の供給が表裏の関係にあるこ とに行き着くはずだが、何故か需要不足だからというところで思考停止してしまうのだ。大体、ものを買うか投資をするかを決めるときに、財布の中味と相談し ないことなど有り得ないはずなのにだ。マクロ経済の財布の中味というのは、すなわち貨幣の供給量であり貨幣量が増え予想インフレ率が上がって初めて需要が 出てくるものなのである。経済というものは常にモノと貨幣を一体として考えていかなければ正確な理解はできない。これをワルラス法則という。ワルラス法則によれば、モノの世界で需要不足(=超過供給)が生じているということは、貨幣の世界では供給不足が生じているということだ。つまり、モノの需要不足というのは、お金の量が足りないから起こっているので、これを増やしていけば需要不足は解消していくものなのだ。それを橋渡しするメカニズムが予想インフレ率の変化なのである。

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日銀は、米国FRBが1月25日に事実上のインフレ目標(米国ではgoal)政策を採用した後、国会で日銀批判の声が高まったのに危機感をつのらせたの か、2月14日新しい金融政策運営の指針を発表した。すなわち、「消費者物価指数(CPI総合)で1%を「めど」として、それが見通せるようになるまで金 融緩和を続ける。具体的には、買入基金で長期国債の購入を10兆円追加する。」というものである。
これに対し、安住財務大臣は「これは、事実上のインフレ・ターゲット政策だ。」と評価するコメントを出した。しかし、この大臣発言はインフレ・ターゲット政策とは何かを全く理解していないものである。
インフレ・ターゲット(インフレ目標)政策の本質は、「物価の安定を具体的な数値で明示するとともに達成時期を含めて政策の透明性を高め、政策の達成責任、説明責任を明らかにすることによって市場参加者の信頼を高めること」にある。
その観点で日銀の新方針をみてみると、「目標」を「めど」として逃げていること、また「金融政策だけではデフレは解消できない」などと繰り返し、全く責 任を持って達成しようという決意すらない。これに比べてFRBのバーナンキ議長は「我々は責任を持って義務を達成する」と明言しており、えらい違いだ。ま た、達成時期もFRBは2014年終盤までとはっきり明示しているのに対し、「1%を目指し、それが見通せるようになるまで」と極めて曖昧である。さら に、「めど」の1%も根拠がなく低過ぎる。とくに、各国が2%程度であるときに日本だけが1%を目指すのなら、円高を固定化しようと言っているに等しいこ とになる。また、量的に10兆円では到底足りず、ネットで増やすのでなければ意味がない。要するに、格好だけはFRB並みに取り繕うが、実態は何も変えな いで逃げ切ろうとしているのである。これでは、デフレ脱却も超円高是正も望み薄である。(後掲の対比表を参照)

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やはり、デフレ脱却と超円高是正を本格的に実現するには、日銀法を改正し政府が達成すべき目標値(CPIで最低2%、できれば2~4%)を指示し、日銀に時期も含めて達成責任を負わせるようにするしかない。「目標」を政府が指示することは中央銀行の独立性を犯すことにはならないというのが主要先進国の共通の理解である。「目標」が達成できなかった場合に説明責任だけで済ませるのか総裁の解任までできるようにするのかは、今後の検討課題である。
米国始め主要先進国は、中央銀行の思い切った金融緩和政策で、自国通貨安と景気回復を図り成功しつつある。日本だけが取り残されているのは、日銀に騙されているからである。
野田総理が、本当に消費税率引上げを目指すなら、国民誰もが納得できるような経済環境を作り上げなければ無理である。それを確実なものにする唯一の方策 が、この日銀法改正による物価安定目標(インフレ目標)政策の明示的な導入である。私は、個人的にはこの日銀法改正がセットとなるなら消費税率引上げ法案 に賛成してもよいと考えている。野田総理が、これまで通り日銀に騙され続けるのか、それとも、乾坤一擲一大見識を示すことができるのか、鼎の軽重を問われ る歴史的重大局面にあるといえるのではないか。

 

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(以上)

 

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