政策レポート

海外出張報告(2015年5月12日)

海外出張報告

2015.5.12
衆議院議員 山本幸三

 

1、(北九州市民オペラ)
 連休を利用して、イタリアと米国ワシントンを訪問してきました。イタリアは、地元北九州市が誇る市民オペラグループによる「蝶々夫人(プッチーニ作曲)」のイタリア公演を激励するためでした。公演はイタリア半島の踵(かかと)の部分に当るレッチェとブリンディジという古い小都市で行われたのですが、日本的な趣向を凝らした演出も上出来で大反響を呼びました。主役の蝶々夫人を演じた白川美雪さんは地元紙でも絶賛され、一躍スターとなりました。
 日本人の姿などほとんど見たことがなかったイタリアの港町で「日本人がやるオペラは素晴らしい。」とイタリア人に感嘆させたのは凄いことです。北九州市民オペラが果たした日伊文化交流の成果は賞賛されるべきでしょう。私も、現地の市長や州知事などと面談し、一層の文化交流・観光交流を進めていくことを確認し合ってきました。

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2、(安倍総理の議会演説) 
 公演終了後、ブリンディジからローマ、パリを経てワシントンへと向かいました。
ワシントンは、毎年恒例の日米国会議員会議(二日目は韓国も合流)に出席することが主目的ですが、今年は安倍総理による米議会上下両院合同会議での日本の首相として初めての演説が行われるということもあり、大変楽しみな訪問でありました。
 当日、私達は演説の一時間程前から議会入りし、安倍総理の登場を、固唾を呑んで待ち受けました。私の席は、日米国会議員会議での永年の友人である長老のジム・センセンブレナー下院議員(共)から頂いたもので、貴賓席のすぐ隣、ケネディ大使や昭恵夫人達と数席隔てただけという最高の場所でした。さて、いよいよ安倍総理が大拍手の中で登壇され、おもむろに演説が始まりました。
まず、「話したいことは沢山あるけれども、フィリバスター(長演説で議事進行を妨げること)で困らせるつもりはありません。」という冗談で議場を笑わせた後、自身とアメリカとの関係、第二次大戦で戦った仲だが、戦後和解し、共に平和と民主主義のために貢献し合っていること、日本は今後とも、女性活用を含む改革を断行するとともに、積極的平和主義の外交を進めていくこと、更に日米同盟をより堅固なものとして希望の同盟に高めていこうではないか、と高らかに謳い上げました。何度も練習したという立派な英語で、尻上がりに調子が出てきて、最後は大きな身振りで聴衆の反応をリードするといった日本人離れした素晴らしいパフォーマンスでした。議場内では、演説の節々で何度もスタンディング・オベーションが起こり、拍手は止まるところを知らず、演説が終わった後には、ウォー!というなんともいえないうなり声まで響きました。
 演説終了後、簡単なレセプションが開かれたのですが、旧知の米議員達に感想を聞いてみたところ、皆さん口々に「見事な出来映えだった」と激賞していました。午後の日米国会議員会議の席では、ジム・マクダーマットという民主党長老議員が、「自分が今までに聞いた各国首脳の演説の中でも、最高に出来が良かった。まず、英語でやってくれたことが一番だし、構成も素晴らしかった。特に硫黄島のスノーデン中将と栗林大将の孫である新藤元総務大臣が握手するところは、日米和解を象徴するものとして米国民の琴線に触れた。
 その中で『深い悔悟(deep repentance)』という言葉を使ったのも、極めて効果的だった。キリスト教の『悔い改める』に通じるものだからだ。歴史認識については、あれで十分だと思う。日米同盟を強化し、未来へ向け一緒に指導力を発揮しようと訴えたことも高く評価できる。多くの米国民に、やはり日本は信頼できると強く感じさせることに成功したのではないか。」と高く評価していました。今更ながらに、トップが自ら明確に直接米国民に訴えかけることがいかに大切であるかということを改めて思い知らされたものです。安倍総理の今回の訪米は、米国民、とくに多くの米連邦議会議員の心をしっかり掴みとることができ、大成功だったと言えるのではないでしょうか。

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3.(TPPとAIIB)
(1) 日米国会議員会議で大きな話題となったのが、TPPとAIIBです。
まず、TPPについてですが、最終局面に近付いてきたTPP交渉を結着させるために必須なのが米国議会におけるTPA(大統領に交渉の一括権限を与える、いわゆるファースト・トラック法)の成立です。しかしながら、2016年の選挙(大統領選及び中間選挙)が意識され始めた中で、オバマ大統領の与党である民主党議員の大半がTPAに反対、逆に両院で過半数を占める野党共和党の多数が賛成するという奇妙な捻れが生じており、予断を許さない状況となっています。
 現時点では、上院はかろうじて通過するとしても、下院では民主党の賛成者は12~20名程度しか見込めず、通過自体が非常に厳しい状況にあります。今後、オバマ大統領が余程の努力をしない限り、事態が好転しそうにありません。また、仮にTPAが通ったとしても、最終結果のTPPの採決では「オバマ大統領の手柄にしてはならない。」ということで、否決されるのではないかという見方も強くあります。共和党議員からすれば、2016年に共和党大統領が誕生すれば、その時に通してやればいいという考え方のようです。日本では、オバマ大統領の実績作りや対中関係という観点からしても最終的には米議会はTPA及びTPPを承認するだろうという見方が強いのではないかと思いますが、「自分の選挙のことが何よりも大事」と考える米議員の本音との間には乖離があり、見込みは決して明るくないということを認識すべきでしょう。
(2) AIIBについては、マクダーマット議員から「米議会として参加するなどという議論はあり得ない。そもそも『AIIBの参加についてどう思うか?』と聞いてみたら、大半の議員は『一体それは、何のことだ?』と聞き直してくるだろう。AIIBが米国の議会で話題になったことはないし、ほとんど誰も知らないのだ。話を聞いたとしても『世銀があるのだからそれで十分だろう。』と答えるのが関の山だろう。」と一刀両断にされて、ちょっと拍子抜けしました。
 この問題を扱う米国財務省も慎重だし、まして国際機関への資金拠出に厳しい米議会がAIIB参加に踏み切ることは120%ないということだけは確かでしょう。
 こうしたことの背景にあるのは、米国の力が落ち中東とくにイラン核問題の処理で手一杯でとてもアジアの問題に目が向かないということにあるようです。日本としては、こうしたことをよく理解した上で慎重に判断していくことが必要でしょう。

4、(イエレンFRB議長との会談)
 昨年に続きイエレンFRB議長と面談することができました。イエレン議長は、私が説明する日本経済の現状分析を楽しみにしているらしく、興味深く聞いて頂きました。
 とくに嶋中雄二氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券エコノミスト)の景気循環論によれば、2016年から日米共にゴールデンサイクルが実現しうるという説を紹介したところ、「このような議論は米国で目にしたことはなく、大変興味深い。」と感じ入っていました。
 その後、米国経済について意見交換したのですが、「その詳細は公にしない」との約束の下での議論なので、ここで詳しく述べることは出来ませんが、米国の利上げは6月ではなくまだまだ先になるだろうというのが私の抱いた印象です。いずれにしても、イエレン議長は米国の経済指標を細部にわたって緻密に分析するとともに、自分たちの決定が世界経済にどのような影響を与えるかについても十分に思いを巡らせながら政策決定を行おうという姿勢を示しておられました。その真摯な態度に心から敬意を表しつつ再会を期してお別れしたところです。  

写真 イエレン議長2015

(以上)