日銀は足元と過去しか見ず(2001.9.5) (金融ファクシミリ新聞社)

 

 

「日銀は足元と過去しか見ず」

~金融ファクシミリ新聞社のインタビュー記事より~

聞き手 編集局長 島田 一

 

 

Q.

山本議員が主催する「日銀法改正研究会」では、インフレ・ターゲット政策の導入を強く求めているが・・・。
   

山本幸三

 未曾有のデフレが日本経済低迷の元凶となっており、景気浮揚、金融機関の不良債権処理、プライマリー・バランスの改善などあらゆる政策を進める足枷(かせ)となっていることは改めて説明するまでもない。如何に速やかにデフレを解消できるかが小泉改革を成功させるカギとなるが、これまで日銀が取ってきた金融調節手法でデフレを解消できないことは、下落を続ける物価や一向に回復感が出ない景気情勢を見ても明らかだ。つまり、名目金利をベースにしてきた日銀の政策運営手法は既に破綻しており、送球に実質金利をベースとして、「量」を調節する政策運営に転換する必要がある。日銀は今年三月に当座預金残高の上限を調整する新しい金融政策を導入し、日銀が言うところの「量的緩和」を行なっているが、これはインフレ・ターゲット政策とは似て非なるものだ。

Q.

日銀は物価が0%になるまで「量的緩和」を続けるとし、インフレ・ターゲット政策と言葉は異なるが、同じような政策を取っていると主張しているが・・・。
   

山本

 その違いについて、私は今年三月の国会で日銀総裁を厳しく追及しているが、「新しい金融政策の最終目標は何か」と問うと、日銀総裁は「消費者物価が0%以上になっていることだ」と言う。私が「最終目標があるのであれば、インフレ・ターゲットそのものではないか」と何度も問いただすと、「それはそうではない」と、つじつまの合わない説明を繰り返すばかりで、インフレ・ターゲット政策とどこがどう違うのか納得のいく回答は結局得られなかった。ただ、いずれにしても日銀の政策には時間軸が設定されてないことが問題で、極端に言えば「消費者物価が0%以上になるのは百年後になってもかまわない」となってしまう。また、当座預金残高に五兆円とか六兆円とかの上限を設定する操作目標を設けることで、本質の物価誘導よりも、操作目標の枠内にマネーに収めることばかりに囚(とら)われる本末転倒の政策を行なっており、量の緩和のやり方にも大いに疑問がある。デフレ解消が日本経済の喫緊(きっきん)の課題となるなかでは、日銀が言うところの「量的緩和」は不十分な枠組みであると言わざるを得ず、やはり期限を設けた安定物価目標を設け、量的緩和を行なう意思表明を行なわなければ、本当の意味で市場から信頼される中央銀行にはなれない。

Q. 確かに当座預金残高の上限を五兆円から六兆円に拡大しても、当座預金内に資金が滞留する状況に変化はなく、実体は何らかわっていない。では、山本議員の主張するインフレ・ターゲット政策とは・・・。
   
山本

 私は、「安定物価目標付き量的緩和」と言っているが、例えば二年後の消費者物価の目標を定め、目標を達成するための手法はすべて日銀に委ねるという方法だ。インフレ・ターゲット政策の導入に成功したイギリスを年頭に置いているので、二年で2.5%前後に誘導すべきだと考えている。消費者物価については、実際の物価より1%程度高く出る傾向がある。つまり消費者物価の上昇率が0%ということは、実質はマイナス1%ということになる。従って、その分を読み込んで若干の余裕をもつと2%以上が理想的だと考えられる。逆に高すぎても困るので、4%以上は許容しないと決めておけばよい。

Q. 量的緩和の方法論は・・・。
   
山本

 国債の買い切りオペ、CP買い切りオペなど、目標を達成する上で出来うる手段は何でも導入すべきだ。債権以外となると法律改正が要るが、株式や不動産でもやるべきという人もいる。株式でも直接個別の株式を購入するのではなく、上場型株式指数連動型投信を買うとか、不動産についても今後上場が予定される不動産投資信託買うとか工夫の余地はいくらでもある。しかし、日銀の独立性の問題があるため、手段は日銀に委ねることを基本とし、今はそこまで踏み込んでいくつもりはない。

Q. 日銀は、インフレ・ターゲット政策を導入した結果として、インフレが加速し、抑制できなくなることを懸念しているが・・・。
   
山本

 インフレがコントロールできない無能な日銀マンには辞めてもらうしかない。イギリスで機能している政策が日本で出来ないという理屈は通らない。インフレになることを心配しているということは、日銀も効果を認めているということだが、昨年のゼロ金利解除の失策を例に挙げるまでもなく、結局、日銀は足元と過去しか見ていない。もともと政策とは先行きの展望をもとにフォワード・ルッキングで展開するものだ。フォワード・ルッキングに切り替えるためにも、最終目標を設けるインフレ・ターゲット政策を導入すべきだろう。

Q. 速見日銀総裁は直前まで「量的緩和や国債買い切りオペはやらない」と主張してきた態度を一転させたにも係わらず、なぜ出来るようになったかの説明もなく、アカウンタビリティの精神が極めて欠如している・・・。
   
山本

 その点は我々も非常に問題視している。政府が推進する行政改革においては、どの役所や特殊法人でも、政策説明や政策評価をきちっと行なうよう求めている。日銀も特殊法人の一つであり、当然、それに従わなければならず、その政策の整合性を説明すると同時に、政策を評価して失敗したとなれば、その責任を取らなければおかしい。今までは、解かりにくい説明で言葉巧みに責任の所在を煙に巻いてきたが、これからはそんなことは許されない。足元と過去しか見ずにゼロ金利解除のような政策判断の過ちを繰り返すようならば、日銀総裁といえども責任を取って辞めてもらうしかない。これも構造改革、特殊法人改革の一環だ。

 それともう一つ、「日銀法改正研究会」では速見総裁に、遅くとも次回政策決定会合(9月18日~19日)までに公開討論に応じるよう要請したが、拒否された。インフレ・ターゲットを「バカな政策」と批判したにもかかわらず、公開討論を逃げるとは、自信のない証拠だと判断している。ただ、「調整インフレ」の定義を明確にせよと再要請しているところだ。

Q. 最後に、日銀法改正研究会は日銀法をどう改正すべきだと考えているのか・・・。
   
山本

 既に一年前から改正案を用意しているが、ポイントは二つある。

 一つは政策委員会が議決すべき事項を定めた第十五条に「物価水準の目標と通貨の供給見通し」を追加する。これは、物価と通貨供給に関する日銀の政策決定の透明性を確保し、説明責任を高める狙いがある。

 もう一つは、日銀の金融政策と政府の経済政策との一層の整合性を確保するため、第四条の趣旨を強めることだ。昨年のゼロ金利解除時に見られたように、政府が政策決定会合での議決延期を求めたにも係わらず、無視されると政府の権威も下がる。そこで、ドイツ連邦銀行と同様に、一回に限り議決を延期しなければならないようにする。これらは、衆議院の法制局と議論した結果、今の日銀の独立性を維持するという法律構成を変えずにできるとの見解を得ており、政府と日銀の政策に一体感を持たせる一番ソフトな方法論だと考えている。