医療制度改革の行方について(2003.9月号)(健保ニュース)

平成15年9月5日

■医療制度改革の行方について(健保ニュース2003年9月号掲載より)

健保連と健保連中国・四国・九州地区協議会は八月二十五日、福岡市内で健保組合役職員を対象とする講演会を開催。自民党医療基本問題調査会副会長、同調査会・新しい高齢者医療制度の創設等制度体系見直しWG主査の山本幸三氏(衆議院議員)が「医療制度改革の行方について」をテーマに講演した。

山本氏は、現在のデフレ経済が克服されない限り、「本格的な社会保障制度改革を行うことは出来ない」と指摘。マクロ経済政策をしっかりと行った上で、改革に取り組まなければならないとの認識を示した。あわせて、改革を実現するためには、ビジョンや財源を明確に示すことが必要であり、そのためには「消費税に負担を求めない限り、社会保障制度改革は不可能だ」と述べ、基礎年金の国庫負担二分の一への引き上げや医療制度改革などの財源として、消費税を充てる議論を行うことが必要だとした。

また、平成十四年の医療保険制度改革から三月二十八日に閣議決定した「医療制度改革の基本方針」に至る経緯や改革の課題などを説明。このなかで、医療制度改革の主要課題である高齢者医療制度の創設について、七十五歳以上の高齢者を対象とする後期高齢者医療制度の財源構成は、▽自己負担一割▽高齢者の保険料一割▽公費負担五割▽残りを連帯保険料という形で若い世代からの支援―とする考えを示すとともに、公費負担五割は原則としながらも、高齢者医療制度の創設に伴い、国保は財政的に厳しい運営に陥ると指摘し、「何らかの公的な支援が必要だ」とした。

さらに、六十五歳以上の高齢者を前期、後期に分け整理したことで、年金や介護保険とも足並みが揃い、「年金と医療と介護を一体として考える基礎が出来た」と述べ、社会保障制度改革を年金、医療、介護を三位一体で考えていくことが重要であると強調した。(山本氏の講演要旨は次のとおり)


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平成十四年の医療保険制度改革では、かなり思い切った改革を行い、ポイントは四つある。

大きな前進は、七十歳以上の高齢者について定率一割負担を徹底させたことである。これまでも、高齢者の医療費を何とかしようという議論が行われてきたが、過去一〇年間をみると、GDPは平均一・三%しか伸びていないなかで医療費は四・〇%伸び、特に高齢者の医療費は六・六%伸びている。高齢者医療費の問題にしっかりとメスを入れなければ、将来、日本の医療保険制度は崩壊してしまうだろう。

このため、まずやるべきことは、高齢者の方がたに無駄な医療費、医療支出を抑えてもらわなければいけないと考え、今回の制度改正では、定率一割負担の徹底を一番大きなポイントとして実施した。年収六三七万円以上の高所得の高齢者には二割負担をお願いするが、それ以外は一割負担となる。これを定着させることで、高齢者の医療費の伸びが人口増程度ぐらいまでに何とか抑えられないかと思っている。

二番目は、診療報酬のマイナス改定である。診療報酬本体に初めてメスを入れ、マイナス一・三%、薬剤・材料費等でマイナス一・四%、合計マイナス二・七%の改定を実施した。これは、医療関係者にとって大変厳しい状況であり、現在、その影響度をみているところだが、整形外科や歯科など、科目によっては相当落ち込みが激しいようだ。こうした所は状況をみて、次回の改定で科目のバランスをとる必要があるだろう。

三番目は、保険料の引き上げで、総報酬制を導入することで保険料を実質アップすることが可能になった。健保組合もそうだと思うが、特に政管健保は、総報酬制の導入で保険料をアップし、何とかバランスをとりたいということだった。全体の所得が落ちているため、保険料収入がなかなか伸びず、大変厳しい状況にあることはよく承知している。この問題は、全体のマクロ経済政策をしっかりしなければ、総報酬制の導入で保険料をアップしても意味がなくなると考えている。

四番目は、被用者保険本人の三割負担の実施である。三割負担については、自民党の丹羽雄哉医療基本問題調査会長をはじめ、金田勝年厚生労働部会長、私の三人は、最後まで反対したが、小泉総理に押し切られてしまった。財務省のシナリオどおり三割負担が強行された。われわれは、高齢者の定率負担、診療報酬のマイナス改定、総報酬制の導入による保険料の引き上げなどで、医療保険財政は何とか四、五年はうまくいくと見通し、その間にしっかりとした制度改革を行い、保険者も被保険者も国も、それぞれが痛みを共有し、その上で三割負担ということにすべきだと主張した。

三割負担の実施は、官邸および財務省に押し切られたことで、われわれは内心忸怩たるものを感じているが、転んでもただで起きるわけにはいかないということで、改正健保法等の附則に改革の課題や取り組みのスケジュールなどを盛り込んだ。新しい高齢者医療制度の創設、診療報酬体系の見直し、政管健保の見直しなどである。

医療費が年々増加し、国民医療費は三一兆円を超え、国民所得に対する割合は八・五%という状況にある。なかでも、老人医療費はどんどん増え、老人医療費の割合は一九八五年度は二五・四%だったが、二〇〇一年度には三七・二%まで上がってきた。この老人医療費をどうするかということが大きな課題となっている。また、二〇〇七年度に医療保険医療費は三四・七兆円、これが二〇二五年度には六五・六兆円になる見込みで、七十五歳以上の高齢者の医療費は五二・三%と半分以上を占めることが予想される。この高齢者に対する医療制度というものをしっかりしない限り、日本の医療保険制度は崩壊するだろう。

高齢者医療制度の問題は、これまで各団体から様々な案が示され、議論が進められてきたが、最終的にはリスク構造調整方式でいくか、独立した新たな高齢者医療保険を創るかということに集約され、さらに議論を重ねてきた。厚生労働省は、当初から年齢リスク構造調整方式でいきたいという考え方だったが、リスク構造調整は現在の拠出金制度を拡げ、全ての年齢で行うということであり、これは健保組合の存在が否定されることにも繋がる。社会保険制度を自主、自立で運営していこうという哲学を崩壊させるわけにはいかないということが最大のポイントであり、リスク構造調整の考え方は受け入れられないと主張した。最終的には、七十五歳以上の後期高齢者については新しい高齢者医療制度を創設するという方針を打ち出し、決定した。

後期高齢者医療制度の細かい詰めは、これからの議論となるが、現在念頭に置いている財源構成は、自己負担は一割、高齢者の保険料は一割、公費負担は五割、残りを連帯保険料という形で若い世代から支援をしてもらうことを考えている。公費五割は一つの原則であり、年金の問題もそうだが、保険制度である限りは公費負担も限界があるべきで、五割が最大限だろう。ただ、例えば国保等に対する支援など、実質的にもう少し公費負担を増やす可能性はあると考えている。

高齢者の保険料は、介護保険との関連で、一割程度と考えているが、今後、連帯保険料をどういう形にするのかという議論もあるので、皆さんからの意見も聞きながら何とかいい形で定着できないかと考えている。

また、老人保健拠出金、退職者医療制度は廃止することを決め、過剰な拠出金によって健保組合がパンクしないようにする。そのためにも、新しい高齢者医療制度を創設し、保険者の責任を明確にして、自己完結させるような制度にしなければならない。問題は、保険者の担い手をどこにするかということだが、これはまだ結論が出ていない。完全に都道府県だけとはいかないかもしれないが、広域化や都道府県が何らかの形で入るなど、県単位での保険者設定にすべきではないかと考えている。

前期高齢者については、年齢リスク構造調整となるが、これも過剰な負担にならないようにどういう形にするかはこれから詰めていく。個人的には、こうした制度の下で、国保が一番厳しい状況に陥るとみており、国保については何らかの別途の公的な支援が必要だと思っている。どういう形で公的な支援をするのか、その財源をどうするのかということは、まだはっきりとしたことは言えないが、個人的に制度設計を任せられれば、そういう方向を考えざるを得ないと思っている。

高齢者を、六十五歳から七十四歳を前期高齢者、七十五歳以上を後期高齢者に分けたことは、大きな意味がある。六十五歳で整理することで、医療、年金、介護の三つを一体として考える基礎が出来た。これは、将来の日本の社会保障制度を考える時に、非常に重要なことだ。現在、サラリーマンの社会保険料は年収の約二二%だが、二〇二五年には三二%になると見込まれている。これが限界だとみており、われわれは、年金で二〇%、医療で一〇%、介護で二%、計三二%というのが適当ではないかと議論している。二〇二五年を見据えながら負担のバランスを考えて、そして年金、医療、介護を三位一体で考えていくことが重要である。

このほかの制度改正については、保険者の統合・再編は将来的には県単位が理想だと考えている。これはそう簡単にはいかないが、特に、小規模な保険者は将来的に何らかの統合・再編を考える必要が出てくるだろう。

また、政管健保は、これまで保険料を引き上げながら、五四の社会保険病院の施設費を負担してきた。新しい施設整備については一切保険料を当てることは許さないことを決め、抜本的な見直しを行うという方向性を明確に打ち出した。診療報酬体系の見直しは、包括払い制度を拡大していくことや、特定療養費制度を徐々に拡大していくという方向を確立していかなければならない。

いずれにしても、医療保険制度は長い伝統と様々な議論の積み重ねで出来ているので、一気に改革を行うことはなかなかできないが、これまでのように先送りにするようなことはやめ、相当の抵抗、摩擦があっても方向性をはっきり打ち出し、改善すべきものは改善していきたいと思っている。

しかし、こうした改革を行うには、経済が良くならない限り、何をやっても難しいだろう。社会保障制度改革を本気で行うかどうかは、国民生活に直ちに影響する問題であり、これが一番難しい改革でもある。本格的な改革を行うならば、将来の社会保障のあり方について、明確なビジョンを示し、そして財源も示さなければならない。小泉総理は消費税を自分の任期中は上げないと言っているが、これでは社会保障制度改革が出来るわけがない。どんなに考えても、消費税に何らかの負担をお願いしない限り、社会保障制度改革は出来ない。

現在、年金制度で、基礎年金の国庫負担を三分の一から二分の一に引き上げる議論をしているが、全然進んでいない。国庫負担を二分の一にしない限り、将来的な年金制度のあり方を描くことができない。これまで、年金改革の様々な議論をしてきたが、全ての前提は国庫負担が二分の一になってからの話である。それがなければ、給付の水準を現役の所得の四割に下げない限りうまくいかない。現役世代の五割以上の所得を保証するという年金制度を創るためには、国庫負担を二分の一にするというスタートラインが確実でなければならない。

また、高齢者医療制度の創設や保険者の統合・再編などの改革でも、最終的にどこが問題になるかといえば、国保だろうと考えている。これは何らかの形で公費負担を確保せざるを得ない。財源は消費税などに求めなければ出来ない問題だ。本格的な社会保障制度改革をやろうとすれば、どこまで消費税を上げるかという議論が必要であり、その議論をしない限り改革は出来ないだろう。

さらに、社会保障制度改革を実現するためには、現在のデフレ経済を克服しない限り、すべてはうまくいかない。日銀が思い切った金融政策をとれば、必ず景気は良くなり、デフレは無くなるはずだが、どうもそこまで思い切ったことが出来ないようだ。

私どもとしては、マクロ経済政策をしっかりとやった上で、本格的な医療制度改革をめざして行きたいと考えている。今後も、皆さんの意見も十分に聞かせていただき、これらの課題に取り組んでいきたい。