山本マニフェストが財政再建のカギに!(2005.11.25号)(政治経済情報誌「インサイドライン」)

政治経済情報誌「インサイドライン」(平成17年11月25日号)掲載記事

日銀批判の急先鋒が描く新成長戦略 政府・日銀が新たなアコード模索か

「所謂『山本マニフェスト』が今後とも株高・円安の好循環を後押しすることになろう」――。ある有力国際金融筋はこう打ち明ける。この「山本マニフェスト」とは、中川秀直政調会長が日銀批判の急先鋒で知られる旧大蔵省出身の山本幸三国対副委員長に命じた政府・日銀”新アコード”とでも言うべき与党の「新成長戦略」とされ、風雲急を告げた小泉首相の日銀批判もまたこの「山本マニフェスト」がバックボーンとなっているという。実際、11月13日に中川政調会長が量的緩和解除を目指す日銀を強く牽制、その翌14日には小泉首相自らが「時期尚早」と日銀の前のめり姿勢を戒めたが、この理論的支柱が9月の衆院選で福岡11区から比例代表で返り咲いた山本だというのだ。しかも、既に日銀批判の急先鋒として知られる山本は、中川から「一定の名目成長率を目指して政府・日銀が協力するような政策枠組み」を党として打ち出すべく特命を受けてマニフェスト作成に着手しているという。これは来年5月に予定している自民党財政再建研究会(中川会長)最終報告の”叩き台”となるもので、既に中川は「名目成長率5%と公的資産の圧縮を柱にする意向」を示している。こうした中川政調会長の特命を受けて山本は早々に金子一義・金融調査会会長らと協力して議論を進めつつあるが、重要な点は中川政調会長が「山本マニフェスト」に託した「一定の名目成長率を目指して・・・」の部分である。それは、山本自身が自らのホームページで、「景気回復が緒に就きつつある今日、日銀が政府の方針とよく歩調を合わせていくことが肝要である。変動相場制の下では、財政で締めて金融で緩めるというのが一番オーソドックスなポリシーミックスであり、日銀にその方向での政策展開をやってもらう必要がある」と独立性を保ちながら政府と日銀が共通の目標を持つべきと主張している点からも明々白々だ。もっとも、山本自身は個人的には「インフレ目標」を共通の目標とするのが最適だと考えているが、「インフレ」という言葉に抵抗感がある人が多いので、「名目成長率」を共通の目標にした方が良いという認識で議論を進める意向のようだ。もちろん、山本が今後影響力を増すと見られる背景にベン・バーナンキ新FRB(米連邦準備制度理事会)議長との親しい関係がある。事実、03年4月の訪米時に山本は、当時FRB理事であったバーナンキとインフレ目標政策について会談したことがある。バーナンキ新議長はプリンストン大学経済学部長時代に世界の中銀の中で最も愚かな失敗例として「失われた10年」を招いた日銀を激しく批判した経緯があり、「これを機に日銀には誰一人友人がいなくなった」(有力国際金融筋)。日本に友人が少ないバーナンキにとって、山本は数少ない友人の1人である。しかも、伴にインフレターゲット論者という点で政策思考が酷似しており、来年2月以降バーナンキ時代の日米金融政策において否応なく山本の存在感が高まろう。いずれにしても、「名目成長率」を政府と日銀の新たなアコードとして小泉改革の総仕上げとポスト小泉の財政再建を見通す上で「山本マニフェスト」の帰趨は極めて重要であろう。