産経ニュース【福島香織のあれも聞きたい】(2009.5.30)

report20090530

反響多数!国際問題から経済に至るまで幅広く政策を展開

(産経ニュースにて、2009年5月30日)

【福島香織のあれも聞きたい】


【福島香織のあれも聞きたい】山本幸三氏インタビュー(1)軽武装経済大国の存在感を

 北朝鮮が核保有国への道を邁進(まいしん)するなか、安全保障は日米同盟頼りの日本。しかしワシントンの日本への関心が急激に薄れているという。一方で米中は急接近。日本はどうすればいい? 隔週掲載のネットインタビュー「福島香織のあれも聞きたい」第3回目は、自民党屈指の政策通で米国通の山本幸三氏に日本の存在感の取り戻し方を尋ねた。(政治部 福島香織)

 米国議会の日本パッシング

【オフ・ザ・レーダーズカーテン】  

 --5月の連休中、日米国会議員会議出席のために訪米されたそうですね。まず、そのときのお話から。  

 「日米国会議員会議というのは、20年前から始まったらしいんですが、松田岩夫さん、今は参院議員になっていますが、前は衆院議員だったんですけど、彼が始めた会議。僕は93年に当選して以来、毎年、落選した期間をのぞいて、この会議に出ているんです。ですから15年前から、この会議を知っている。当初は、日本の経済力もあって、日米貿易摩擦などが激しい頃でした。特に自動車とか、電気製品とか鉄鋼とかの摩擦がおこって、米国の議員たちと大激論を交わしたんですね。日本の市場は閉鎖的だと言われ、僕らからみれば、そんなことはない、問題は米国の過剰消費で、貯蓄バランスが崩れているから赤字が増えているだけだ、その気になれば貯蓄を殖やせばいいんじゃないか、と反論したり。そういうやり取りを随分したもんですよ。

 そうこうするうちに、日本の経済の方が元気がなくなっちゃって、アメリカの方が元気になって、摩擦はなくなりましたけれども、金融問題とかもあって、いろいろ議論してきました。ところが、この3、4年はすっかり日本の経済力も落ちて、ダメになっちゃったもんだから、アメリカからの批判がないのはいいんだけれど、同時に関心が薄れてきているな、と感じていたんですね。

 今年になって行ってみると、アメリカも去年の大統領選と下院議員選挙があって、相当メンバーがかわって新人が沢山でてきたんですね。それで、新しい人がぱらぱら来るんだけど、よく聞いてみると、この会議に出席する人を集めるのが大変だという状況になっているんだそうですね。

 この会議は通訳なしで2日間、米国の議員と議論をするんですけれど、3年前ぐらいから、韓国議員もまぜて3カ国でやることもあった。今年は日本とだけでしたけれど。つまり、日本の関心が薄くなったので、韓国も入れようということになった。

 テーマはありとあらゆることをやる。日本の国内政治、経済、貿易、日米の安全保障、北朝鮮やイラクなど国際問題、環境問題などを時間を分けてやるんです。環境問題については、ブッシュ政権から民主党政権になって、がらっと変わりましたけどね。かつては、京都議定書なんてとんでもない、という話で、日本側は随分批判したりしました。オバマさんが大統領になって、環境問題では150度くらい態度が変化しましたね。そんなこんなで少しずつ変化はあるんだけど、今年は日本からは自民党4人、民主党1人しか行かなかった。昔は15~16人くらい行っていたんですが、お金も厳しくなってきたし。

 そこで今回行ってみて、一番ショックを受けたのは、米国側の共同議長、民主党、共和党ひとりずつ議長がいるんですけど、民主党側議長はマクダマス(下院議員)っていう人なんだけど。彼はずいぶん長い間、この会議にでていて、親日派の最たる人。共和党はペトライ(下院議員)、この人は議長をやめたいといっていて、でもなかなか後釜がいないらしい。で、マクダマスさんが、はっきりと『ジャパン・イズ・オフ・ザ・レーダーズカーテン』(日本は米国のレーダー監視網の外にある)つまり、米国の関心の外にあると言明されましたね。少なくとも、アメリカ議会の中では日本はもう関係ない、という感じ。それはワシントン(米国政府)の空気を示している。親日派の彼がそう言わざるをえない状況に、ワシントンはなっているという状況ですね。彼も、大変残念なことだけれど、やむをえない状況だ、と。

 今ワシントンで何が起こっているかというと、猛烈に中国志向で、中国一色になってきましたね。政権の関心もそうだし、議会の連中の関心も中国だし、それを反映して、ワシントンのロビイストやシンクタンクも中国一色。シンクタンクも中国に関するシンポジウム、会議をやると、人が大勢くるけど、日本をテーマにしても誰も集まらない。中国は実に戦略的に、そういうことを活用して、そういう会議があると、学者が出てきて議論するんだけれど、そこに留学生や客員研究員らが一斉に聴衆として参加して、ゲストが反中的発言をすると質問とかいって、反論する。親中的発言があると大いにそれを評価する、と。というようなことを繰り返していく。アメリカの研究者も、親中的発言をすると、さらに声がかかるし、出番が多くなるということで、さらに親中的発言をするようになる」


【福島香織のあれも聞きたい】山本幸三氏インタビュー(2)外務省も新聞社もオバマ政権の情報がとれていない

 【駐日大使の情報とれず】

 --それは中国側主催の会議だけでなく?

「アメリカ側のシンクタンク、ブルッキングス(研究所)などが主催でやっている。あるいは中国側が主催するときも、そういう人を呼ぶので、出番が増えていく。で、批判的なことをいう人には質問のかたちで圧力かけるものだから、なんとなくそれ以上厳しく言えなくなっちゃう。で、だんだんワシントンの雰囲気が親中的にならざるをえないように働きかけているね。それも反映して、北朝鮮問題にしても、ロシアとの関係にしても、(ソマリアの)海賊対策にしても、金融問題にしても中国相手じゃなければ進まねぇ、って。アメリカは今、経済回復が最大の問題で、これに政権の命運がかかっているわけです。アメリカの力だけではいかんともしがたい分野があり、各国に助けてもらいたいと思っているんだけれど、それに一番先に呼応したのは中国ですね」

 --日本ではなかったんですか。ドル基軸維持を最初に表明したではないですか。

 「日本じゃないよ。中国は昨年暮れ、4兆元、57兆円分の財政支出を2年計画で決めて、人民銀行はマネー・サプライを17%のばすというものすごい金融緩和をやって、中国がいち早く、具体策を打ち出したわけじゃないか。それでなんとか、アメリカも助けられたという雰囲気をもっていますよ。日本はちょぼちょぼやったけど。確かに今年になって補正予算もやっているけれど、まだ関連法案は通過していないもの」

 --それは議会のしくみが違うから致し方ないとして。

「中国は一党独裁だからできるのだけど。でも日銀は何もしていない。もうバーナンキ(米連邦準備理事会=FRB議長)なんて日銀を完全にばかにしていますからね。あんなもの関係ないと。中国とやりゃあいいんだと。そういう感覚があって、ワシントンでは中国こそが頼りだというふうになっているんですよ」

 --そういうムードを肌で感じてこられたと。

 「それをはっきり。去年まではアメリカもはっきり言いませんでしたよ。中国の影響はかなり強くなっているよなあ、という言い方くらいで。今年はもう、レーダー網には日本ははいっていない、と言われちゃった。このことを危機をもって感じている日本の政治家がほとんどいないというのに、あきれ果てているんですけどね、僕は」

 --麻生太郎首相は、中国にドル基軸維持を説得したとおっしゃっていたり、IMF(国際通貨基金)への融資をいち早く表明したりしているんですけれど。

 「でも、中国から協力しましょう、という言質は全然得られていないじゃない。というより、中国は好きなこといっているじゃない。オレは日本から言われる必要ねぇ、アメリカとやってんだと思っている。事実、今回の訪米で、私は連銀の理事と会ったけれど、その連銀の理事は去年だけで3回くらい中国に行っているといっていた。それぐらい、連銀の理事クラスがしょっちゅう中国に行ったり来たりして、中国との間の金融政策、金融システムの交渉をやっている、ということを知らなさすぎるわな、日本は。水面下ではものすごい米中関係の構築が進んでいる。中国のエリートはアメリカに留学して帰国していますしね。それに対して日本のアメリカに対するルートがない。オバマ政権に対するルートがない。

 だって、このところ起こっている事象をみても、僕の言っていることは、明らかじゃない。北朝鮮の核実験もそうだし、駐日大使のこともそうだし。北朝鮮の核実験についても、アメリカと中国には北朝鮮は事前通知しているんでしょ。まさにオフ・ザ・レーダーズカーテンですよ」

 --山本先生は、ジョセフ・ナイ氏が駐日大使に内定しているという情報はないと前からおっしゃっていた。で、ジョン・ルースという誰も予想していない人が来ることになった。そのことについて日本外務省は全然情報がとれていなかったようで。

 「僕もルースという人は知らなかったけど。外務省が事前になにも知らされていなかったというのは恐るべきことですよ。少なくともナイではなさそうだということぐらいつかんでおかないとな。日本の新聞はナイに決まったと書いちゃって、それ以降なにも訂正していないけどな」

 --新聞社の立場からいうと、違うらしいというのが分かっていても、次が決まっていないと、否定も打てない…。

 「大誤報だよ。つまりオバマ政権の情報がぜんぜんとれていないということ。外務省もそうだし、新聞社もね。結局今までつきあってきた国務省とか国防省のとこの情報しか入っていないわけでしょう。国務省は確かにジョセフ・ナイ氏を推薦したのだろうけどな。それを鵜呑みにしているわけで。ところがまさに、政権中枢は関係ないわけだ」

 --ルース氏は大統領に近い方だから、日本にとっていい人事だという声もあったけれど。

「なーにを。金出してくれたから、ご褒美にちょっと日本で遊んでらっしゃい、という程度でしょう。どうせ、大勢に影響のないところだから、ご苦労さん、ありがとうさん、と。何ができるんだよ、日本のことを何も知らないで。いるだけの大使だったら誰だってできるだろう」

 --駐日大使というのは、アメリカじゃ、楽なポジション、ちょっと地位の高い閑職扱いということですか。

 「そうですよ」


【福島香織のあれも聞きたい】山本幸三氏インタビュー(3)デフレを解消するのは日銀しかできない

 【90年代の失敗繰り返している】

 --日本バッシング(日本たたき)から日本パッシング(日本無視)になったということは前々からいわれてますが、しかし、やはり頼みの綱はアメリカという感覚はまだまだ強い。日本としては、どうしていけば。米国の関心を取り戻す努力をするのか。それとも、アメリカ一辺倒から脱するべきなのか。

 「どうしたら、アメリカの関心を取り戻せるか、ということ。やっぱり日米関係をきちっとしないと。戦前の過ちを犯すことになるからね、それが一番大事で。トップからはじめて、しょっちゅう出かけていって、親密な関係をつくるということと同時にね、基本的には、日本の経済力が必要だということを示さない限り、誰も振り向いてはくれないわけだから、経済を再生するのが一番ですよね。それを、ああでもない、こうでもないっていってできないんだからさ。で、その根本原因は日銀にあると思っているけれど。景気回復もできないでずるずるやっている」

 --今までの日本経済は米国や中国が牽引力だったが、今後は内需拡大による景気回復ということですか。

 「国内をしっかり仕切らないと。前までは、内需の方はがたがただったところを、たまたま輸出が埋めていた。今回はそれが露呈しただけであって。そりゃデフレがずっと続いていいわけないからね。それを15年もデフレを解消できなかったんだから。デフレを解消するのは日銀しかできないんだから」

 --それは持論ですよね。インフレターゲット政策(中央銀行が一定の物価上昇率目標を設定する政策)を導入してゼロ金利や量的緩和でデフレを克服するという。経済門外漢としての素朴な疑問なのですが、大規模な金融緩和で市場にじゃぶじゃぶお金が流れでも、日本がこれから少子化がすすんで消費者が減っていくのならば内需拡大といっても限界があるし、結局は海外製品との安売り競争もあって、物価は下がるしかないのではないでしょうか。確かに大規模な公共事業などすれば、一時的には内需が拡大したように見えるでしょうが、長期的に見てデフレを本当に克服することができるのか、非常に困難に思えるのですが。

 「困難じゃないよ。まともな経済理論を勉強して、まともな経済政策を行えば克服できますよ。じゃあ、人口の少ないスウェーデンやイギリスは? 今はイギリスは悪くなっているけれど、そういうところは経済が悪くなっていますか。デフレを続けているのは日本しかないよ。

 デフレがあるかぎり、内需なんか拡大しようがないんだ。来年もっと値段が下がると思えば誰も消費しないでしょ。作る方だって、作ったものが安くなるんだったら作りませんよ。投資が増えない。すべての悪循環を生むのがデフレ。それを断ち切らないかぎりは何もできない。それを断ち切るには、どうするか。デフレというのはモノの量とお金の量で決まるんだから、お金の量の比率を増やすしかない。それをやらない限りデフレはおさまらない」

 --お金の量を増やすということは、単純にいえばお札をすること、ミニバブルをおこすこと。

 「だって、FRBは日銀の失敗をよく勉強しているから、デフレだけには絶対しちゃいけないというので、この半年間でお金の量を倍にしたんだよね。100%のばした。日本銀行は何%? 6、7%か、マネタリーベース。だから円高になるんですよ。僕が心配しているのは、90年代の失敗をまた繰り返しやっている。財政拡大はお金が一緒に増えない限りは長くは効かない。なぜなら、財政拡大すると金融市場に逼迫感がでてくるから、金利が上がりかけて、為替レートが上がるんですね。円高になって帳消しになるんですよ。それ、マンデル・フレミング理論っていうんだけど。

 そのとき、お金の量を増やして、長期金利を上がらないようにする、為替レートが円高にならないようにする、という手を一緒に打たないかぎりは、財政だけでは、結局また失敗する。それで赤字がたまる。それが90年代の誤りですよ。日銀が動かなかった。それで最後に、どうしようもなくなって、99年(2月)にゼロ金利になってやっとお金を出し始めて、そうすると経済が回復し始めた。

 で、一回、速見(優、当時の日銀総裁)さんが早まってゼロ金利解除なんてばかなことやるから、また翌年に戻って、またゼロ金利やると、また2006年までは経済が良くなって。日銀が金出したときだけは景気が良くなるんだ。で、またゼロ金利解除すると、とたんに中小企業はまた悪くなって2007年春、大企業全体も悪くなっているのに、輸出だけが活躍していたから、みんな分からなかった。オレは、もう景気悪くなっている、と言っていたんだけど。それが2008年になって、一気にくずれるわけだ。歴史をみれば、わかる。日銀が金を出したときだけしか、日本の景気というのは良くなっていないんだよ。オレは、日本人はもう、賢くないな、と思って」


【福島香織のあれも聞きたい】山本幸三氏インタビュー(4)日銀はインフレターゲットに動け

 【日銀批判ができない】

 --なら、どうして日銀はもっと動かないのでしょう。

 「ほとんどわかっていないんだ、みんな。日銀は一生懸命やっている、と。低金利やっていると。名目金利は低いけど実質金利は高いんだもの。デフレだから。でも、実質金利の議論なんて、みんなわからない。名目は低いじゃないか、とみんな言う。でも、実体は物価が下がっているときは実質金利高いんだから。アメリカというのは景気が悪くなったら、実質金利はマイナスにするんですよ。それぐらい金融緩和する。日本はいまだかつて実質マイナス金利にしたことがない。だから景気回復が遅い。アメリカの政策当局や学者の間では常識。それが日本の非常識。日銀がおかしな理論を展開して、それにみんな、毒されている。特に銀行系、証券系のエコノミストは日銀から仕事をもらったりしているし、飲ませたり食わせたりされているから、日銀批判はできない。学者も日銀の副総裁なんかになれる道があるからべったり。いかにもだらしない」

 --新聞テレビに出るアナリスト、コメンテーターはだいたい銀行系、証券系だから…。

 「日経新聞はじめ新聞社の経済記者も籠絡されているからダメですよ。まあ、産経と東京新聞が一番ましかな」

 --では日本パッシングをやめさせるには、思い切ったゼロ金利、量的金融緩和などで脱不況が先決だと。

 「それプラス、やっぱりアメリカに対する働きかけをもっと積極的に熱心にやらないと。僕らが聞いているのは、その点、ドイツはすごくて、しょっちゅう政治家はワシントンに来ているらしいね。いろんな話をして、働きかけをしている。それから、政府や財界が金を出して、アメリカのシンクタンクをドイツが創ったりね。フレッド・バーグステン氏が所長をやっている国際経済研究所っていうのは、ドイツが金だして創っているんだ」

 【インフレ目標を設定】

 --では日本の政治家の立場からどういうことができるのでしょうか。日銀に対しては、日銀の独立性などの問題もあるのでしょうけど。

 「そこがまた、みんな誤解していて。国会から独立するものなんて何もないんだ」

 --国権の最高機関ですから。

 「日本銀行が独立性があるというのは、政府から独立しているわけであって、政府、つまり財務省や経済政策から独立しているということ。国会は何だって言えるんだよ。だから国会にきて事業説明しないといけない。政府が日銀のことについていろいろ言うことはできないかもしれないが。ただし、これも、日本の場合はちょっと不幸なのは、独立といえば自由自在だと思っているんだ。

 しかし各国でも中央銀行の独立と言った場合、手段の独立を言うんであって、目的の独立を言っている国はないんだね。それは日銀法にもはっきり書いているわけではないけど、政府の経済政策と緊密な連携をしなきゃいけないと書かれている。だから、そこをもっとはっきり書いて、インフレターゲットという目標は政府といっしょにやるんですよ、と示してやればよかったんだけれど、それをしていないから、なんでもかんでも自由自在にできると思っている。

 どこの国だって、目的は政府と一緒に共有してもらわなくてはいけません、とある。経済政策の目的って3つしかないんだから。完全雇用と物価の安定と適正な経済成長。その中で、物価の安定というところで日銀が役割を果たすわけ。どこをもって物価の安定というかは、本当は目的を共有してなきゃおかしいんだよね。そこがはっきりしていないのが日本の不幸。そのかわり、どういう手段、どういうタイミングでやるかは、日本銀行が独立してきめればいい。だから、インフレターゲット、物価水準が2、3%上昇というのが一番いい姿なんで、そこを目標としてやってもらえばいいなじゃないか」

 --中国などは、国会に相当する全人代(全国人民代表大会)や党の会議で年間の物価上昇率は何%以下とか、成長率は何%とか数字を出しますからね。

 「イギリスだってみんなインフレターゲットやってますよ。日銀は数字を出すと責任を取らなきゃいけないっていうんで、数字ださないんですよね。アメリカの場合はちょっと簡単にいかなくて、連銀法では連銀の責任は物価の安定プラス雇用の確保と、されちゃっているんだよね。だから、その物価の安定だけ目標にすると、雇用の安定ははかれないのか、っていう話になって、簡単にインフレターゲットを設定できない。だけど中期目標ということで1・7%から2%という数字ははっきりだしているんだよね。日本だけだよ、わけのわからないことをいって、責任をとらない立場をとっているのは。だから、バーナンキ(FRB議長)なんかも、もう日本のことなんていい、と」

 --しかし、麻生首相によれば、アメリカも中国も、日本の過去の危機を乗り越えてきた経験を話すと真剣に耳を傾けていたそうですよ。胡錦濤国家主席などメモをとりながら聞いたとか。麻生政権では失われた10年について、結果的にはうまく乗り越えてきたというふうに評価していたと思うのですが。

 「あまりに動くのが遅すぎた、あんな失敗したくない、というのが彼ら(米中)の本音だね。反面教師になっているだけであって、日本を手本にしましょうなんて思っている連中は誰もいませんよ」


【福島香織のあれも聞きたい】山本幸三氏インタビュー(5)小さい国が核を持っても意味がない

 【小国の核抑止は成り立たない】

 --では、そういう状況のなかで、今日本ができることは。展望は。

 「まず経済回復して、その経済で他の国を助けるということができないかぎり、日本という国の立場はいよいよ世界の中からなくなるんじゃないかな、という心配ですね。その心配をできるだけ早く、少しでもとりのぞく前提がないとだめだけど。あとは、やっぱり、軍備とか調子にのって大きな声を出すんではなくて、平和国家としてのアプローチをきちっとしていくのがいいんじゃないかな。これで、軍備とかやりましょうとなると戦前の日本みたいになるんじゃないか、というのが心配なんだよね」

 --しかし、同盟国のアメリカの関心が薄れ、北朝鮮が核保有国となると、日本としては何か自分を守りたくなりますよね。

 「だから、こういうときに、調子にのって核武装しましょうっていう議論がおこってくるのが危険なんだよ。そこは、核問題について、もう少し、しっかりした議論をしないといけない。核兵器ってなんなのか。核抑止論っていうのがあるよな。核っていうのは、日本とか北朝鮮のような小さい国が持ったところで、本当に役に立つだろうかってことだよね。相互確証破壊(一方が核兵器を使えばお互い必ず破滅する)っていう理論があるんだけれど、そこが核兵器の基本的理論だけど、核というのを持って配備しましょうといったら、それだけで周辺国の危機感を生んで、先制攻撃されちゃったら終わっちゃう。核を持とうとしたら、向こうから東京に一発やられて、こっちはそれで終わっちゃう。そりゃ、中国とかロシアとかアメリカとか大きい国だったら、どっかやられても、反撃できるから、相互抑止になるわけだ。こんな小さな国では抑止なんて起こりようがない」

 --しかし、北朝鮮は、核を持つという決断をして今までの駆け引きをみていると、けっこうアメリカ相手にうまく立ち回っているように見えるのですけれど。

 「そう? 本当に核ミサイルを配備しだしたら、衛星から見たら分かるわけだから、そうなったら、アメリカは、(ミサイルを)ぶち込みますよ」

 --と、思いますか?

「確実にやりますよ。それができるからアメリカも余裕をもっているわけで。本気で核を使う体勢に相手がなったら、そりゃ、やりますよ」

 --北朝鮮は地理的に、中国、ロシアとの関係からいっても非常に微妙な場所なので、そう簡単ではないと思うのですが。

 「そりゃ、おっしゃるとおりだよ。そこが大事だから、米中でいま関係がいよいよ深まっている」

 --しかし朝鮮半島をめぐっては米中は利害対立が大きい。中国は朝鮮半島が親米国家になることを最も恐れている。

 「かつてさ、北朝鮮が核実験をやったとき(2006年10月9日)、あのとき、アメリカは金正日をやっつけちゃおうとしたんだよな。そうしたとき、中国軍がばーっと北朝鮮国境沿いに配備して、それ以上やったら北朝鮮は中国が占領しちゃうからな、という態度を示して、そこで米中が話をして、じゃあ今回はちょっとやめておこうか、という話になったんだよね。だから、アメリカはやろうと思ったらやるんだよ。そのときは中国と話をつけてやるでしょうね」

 --では、北朝鮮の核については、さほど危機感をお持ちでない。

 「持っていないよ。あんなところが核を持っていても意味がないというのを示してやらないと、相互確証破壊理論は成り立たない」

 --今後のアメリカに果たして、北朝鮮に軍事行動をとれる体力があるのか、というのも気になるところですが。

 「それはあるでしょう」

 --強いアメリカが存在するという前提で、日本には核はいらないと。

 「もっていたら、アメリカと間でも摩擦が起こるし、中国とも起こるし、韓国とも起こるし…。逆に、日本をつぶしちゃえという議論になってくるよな」

 --ではアメリカが日本に、アメリカの右腕になるくらいの防衛力をもってほしいと思えば状況も変わってきますね。

 「通常軍備を拡大しろ、という話はでてくるだろうね。でも核については絶対許さないね。そこのところは交渉条件でさ、そんなこというならなんで、アメリカはF22(戦闘機)を日本に売らないのさ。F22を売らないというのは、日本のことを、なんでもないと思っている証拠さ。でも、『あんたたち撤退するんでしょ、(軍事費を)日本に肩代わりしてほしいんでしょ、なんで売らないのさ』という議論をアメリカときちっとしないとな」

 【日本技術無しでは生きていけない、と思わせないと】

 --米中が急接近する中で、日本というのはもう少し中国と接近することで米国とのバランスをとるという意見もあるようですが。

「それはそうすべきだね。中国も経済的な手は打ったとはいえ、苦しいわけだから。日本の技術についてはノドから手がでるほどほしいわけだし。逆に日本の技術がないと生きていけません、って相手に思わせるくらいにならないとな」

 --それは米国との関係にもおいても。

 「そうです。アメリカとの関係はすでにかなりそうなっているから、無視しても、最後のところで、完全に日本、さよならとはならないわけだけどね。アメリカの自動車産業は日本のトヨタ、ホンダにある意味、取って代られつつあるわけだからね。そういう分野は沢山ある。中国ともそういう関係にならないと。そういう努力を日本はしていかないとな。原子力発電所だって、アメリカも事実上、日本に買収されて、もうないわけだから。日本のやつ使わざるをえないとかね」

 --技術力で各国に食い込む。現実そうなりかけている部分もある。携帯電話でもフタをあければほとんど日本の技術だったり。

 「日本がいなけりゃ、何も創れないというふうにしなきゃ」

 --最後の質問に。将来、日本という国をどんなふうにしたいのか。理想の国家像のようなものがあれば、おきかせください。

 「僕ら宏池会というのは保守本流。基本的に吉田ドクトリンの流れをくんでいるんだよな。それは軽武装、経済大国を目指すというやり方で、それは日本の将来の生きる道だと思って、われわれはそれを正しいと思って進めているわけよね。だから、平和国家、経済大国というかたちで世界に貢献していく。軍事的にはアメリカと組んでやっていくと。そういう中で、僕は、世界中を見ていてね、日本の強さというのは、結構あって、日本人の文化とか芸術における繊細さとか、芸術性とかそういうのは、どこにも負けないと思うので、そういうのも活かしていかなければいけないなと思いますね。中国や韓国なんて、どんなにがんばったって、広告の看板ひとつみても、品がないじゃない。色の使い方、デザインの仕方。日本の広告とかデザインとか、繊細ですばらしいですよね。これは伝統。どこにも負けない。そういうのを発揮して世界から尊敬されると。そして平和主義、核で被爆した経験をもって、核問題については誰よりも発言力があるという強さを発揮してやったらいいのではないかな」

--ありがとうございました。平和主義と経済大国を目指し続けることが日本の存在感を取り戻し、同時に安全保障にもつながるということですね。(おわり)


 ■山本幸三(やまもと・こうぞう)自民党所属の衆院議員(宏池会)。当選4回。昭和23年、福岡県生まれ。東大経済学部卒後、旧大蔵省入省。米コーネル大経営大学院留学(MBA取得)、米ハーバード国際問題研究所客員研究員、宮沢喜一大蔵大臣秘書官などへて平成5年に衆院初当選。自民党屈指の政策通として知られる。