『飯田泰之の政治家に会いたい!』対談記事(2010.3.23号)(週刊SPA!)

週刊SPA!『飯田泰之の政治家に会いたい!』対談記事

週間SPA!2010/03/23号

飯田泰之の政治家に会いに行こう! 衆議院議員・山本幸三編

経済学は経済問題を考えるツール、実行するのは政治の役割。 ということで、飯田と政治家の膝詰め対談をシリーズ化していく。 第一回は金融に関するマニアな発言が、日銀ウォッチャーからも注目を集める自民党の山本幸三氏だ!

いいだやすゆき
●75年、東京都生まれ。駒澤大学准教授。

山本幸三
48年、福岡県生まれ。71年、東京大学経済学部卒業後、大蔵省入省。93年に衆議院初当選。第一次安倍内閣では、経済産業副大臣に。現在5期目

自民党を潰したのは日銀だった!

自民党随一の経済政策通の山本幸三先生。何を隠そう、山本氏は90年代より金融政策によるデフレ脱却の必要性を訴えてきた山本氏は、飯田が主張するリフレ政策の大先輩。というわけで、「政治家に会いたい」シリーズ第1弾はこの人しかあり得ない!

飯田 金融政策と言えば山本先生……ということで本日はお邪魔いたしました。野党の立場から経済政策を語る必要性と難しさについてなど伺えればと思うのですが。

山本 まずは、なんで自民党が負けたのかをちゃんと考えないといけない。文部科学省所管の統計数理研究所による「国民性調査」では国民の約6割以上が自分の生活が貧しくなると将来を悲観している。そんな国に誰がしたのか? 自民党だったわけですよ。

飯田 経済政策の失敗が自民党敗北の原因になったと。

山本 そう。そしてその原因は?というと、デフレにほかならない。竹中・小泉構造改革批判もあるけれど、構造改革は悪いところもあれば、いいところもある。しかし、デフレはすべてをダメにする。自民党は国民を貧しくしてしまった。そんなときに子ども手当支給なんて言われたら、喜ぶに決まっている。

飯田 保守政党の強みは経済政策なんですが……。

山本 それがダメだった。いまや財政政策 は効かないんだ。財政支出をしても円高 になってしまっては効果は相殺されてしまう。逆に金融政策は金融緩和と円安に効くから二重に効く。それを総裁・財務相ほか、みんなわかっていなかった。その失敗した人が今でも党内で経済政策の責任者として居座っているんだからダメですよ。

飯田 民主党の経済政策もこのままでは財政政策中心になりそうですが、国会での追及のポイントもそこにありそうですか。

山本 そこは戦略的に対決していかないといけない。民主党の政策の最大の問題は統一性がないこと。ばら撒きの約束ばかりしているから、いずれ財源問題にぶつかって困ることになる。自民党はいっそ、「マニフェスト促進法案」でも作ってやればよかったんだ。そうなると困るのは民主党なんだから。

飯田 子ども手当の実現には5兆円の財源が必要なわけですが、この手の継続的な支出を借金して賄うというのは、むちゃな話ですよね。

山本 早く、デフレ対策・金融政策を発動して円安にしないと。これまではデフレで円高になったから、工場が海外に行き下請けが行き詰まってしまった。

飯田 先生の選挙区は福岡11区ですよね。主要産業は……

山本 かつては石炭とセメント、今は自動車だね。あとは気候的に自然の産物が非常に豊富。農産物海産物が豊かな土地ですよ。

飯田 製造業と農作物というと一番円高の被害が大きいところですね。1ドル90円では製造業はやっていけません。雇用も海外に逃げる一方です。農作物も同じ。国産野菜と海外産野菜を比べたら質の差は歴然。生活に余裕があって価格差がもう少し小さければ中国産冷凍餃子なんて買わないはずです。

山本 そうだろうね。

飯田 為替レートというと金融業、ひいては都市部にしか関係ないように思われがちですが、一番影響が大きいのは製造業と農業だと思うんです。その意味で、地方経済こそ為替レートが重要なわけで。そして、為替レートを最終的に左右するのは貨幣政策、貨幣政策と言うことは日銀の問題です。

山本 そう。日銀の言っていること、してきたことがでたらめだということをしっかり議論をしないと。僕が国会で質問するときは必ず白川総裁を呼ぶからね。日銀には相当、嫌われてるだろうね。しかも、彼はゼミの一年後輩だからな(笑)。

飯田 小宮隆太郎ゼミですか?

山本 そう。小宮ゼミの1年後輩。彼はシカゴ留学から帰ってきたとき、マネタリーアプローチという為替レートはお金の量で変わるんだと主張していたのに、今はお金の量は関係ないと言っている。

飯田 僕も日銀の行動原理よくわからないんですよ。よく「なぜ、日銀はそんなに緩和を嫌がるの?」と聞かれるんですが……。

山本 それは、いわゆる、日銀理論だよね。

飯田 資金需要に応じて資金を供給するのが正しいという話ですね。資金需要がある好景気の時にマネーを出して、不況で資金需要がないとマネーを引っ込めるわけですから経済を不安定にするだけです。

山本 アメリカの連銀やイギリスの中央銀行はリーマンショック以降150%近くバランスシートを増やしてマネーを供給している。一方、日本はというとバランスシートの拡大は5%。なにもしていないと同じですよ。

飯田 でも、日銀は「日本の金融システムは安定しているから、その必要はない」と言う。

山本 バカを言うなという話ですよ。実体経済が一番傷ついているのは日本じゃないか。日銀は銀行だけを相手にしていればいいのか?と。先日も、菅さんが日銀に目標を設定したらどうかと言ったら、日銀は国債の金利が暴騰すると脅していたでしょ? しかし、国債の金利が上がるというのはインフレ予想が上がるか、国債から株や外貨に資産が移るということ。

飯田 インフレになるか、株が上がるか、円安になるかのどれかというわけですから……それは大変結構なお話で、ということなんですけどね(笑)。

山本 結局、彼らにとって庶民の生活は関係がないんだな。でも、それで政策運営をするなんていうのはとんでもない話ですよ。

飯田 先程、経済政策の失敗が自民党敗北の原因だとおっしゃいましたが、時系列で日本の潜在GDPを調べると、小泉内閣でかなり上がっているんです。でも、需要がついていかず、本当のGDPにならなかった。ある意味、自民党は日銀に刺されたとも言えるのではないかと思うんです。

山本 僕は今、『自民党は日銀に潰された』という本を書いているんだよ。金融政策は確かに難解です。でも、それを伝えていかないと。まあ、自民党内でも金融政策のことはわかってないからね。僕なんて、孤軍奮闘ですよ。渡辺喜美ちゃんと一緒にやろうかなあ(笑)。