朝日新聞「10%増税 与党綱引き」

 

 

 安倍晋三首相が年内に判断する消費税率の10%への引き上げの是非をめぐり、政府・与党内の綱引きが本格化してきた。先に動いた「増税派」に対し、「慎重派」も巻き返す。当の首相は「中立」の立場を崩していないが、選挙や景気対策の思惑も絡んだ駆け引きが激しくなりそうだ。

 ■推進派
 「(消費増税が)予定通りいかないなら、法人減税も予定通りでいけるか。かなり議論が錯綜(さくそう)してくる」。自民党の野田毅税制調査会長は9日、党内の会合後に記者団に語り、首相が強く求める法人減税を引き合いに出して増税慎重論を牽制(けんせい)した。
 9月の内閣改造後、先手を打ったのは財政再建を重視する「増税派」だった。
 谷垣禎一幹事長は9月3日、就任会見で「基本は法律通りに進めることだ」と言明。12日夜には、10%に増税する道筋を決めた「3党合意」をともにまとめた公明党の山口那津男代表、民主党の野田佳彦前首相と「同窓会」を開いた。
 法で定めた増税を先送りすれば、財政再建が一段と遠のき、国債の暴落を招きかねない。山口氏は全国を回り、「3党合意をしっかり進めるのが基本姿勢だ」と繰り返し訴える。

 ■慎重派
 そうした動きに反旗を翻したのは、アベノミクスの「仕掛け人」ともされる山本幸三・元経済産業副大臣。「1年半ぐらい延ばした方がいい」。今月2日、派閥会合でぶち上げた。22日には慎重派を集めた会合を開く考えだ。
 8%に上げた4月の消費増税で景気回復はもたつき、円安による物価上昇も家計に追い打ちをかける。国会論戦でも「アベノミクスは失敗したのではないか」(民主党議員)との批判が目立ち始めた。
 慎重派は、景気が後退すればデフレ脱却に失敗し、支持率も下がって政権が失速すると懸念する。そうなれば来春の統一地方選や、来年秋に予定される自民党総裁選、その先の参院選にも影響を与えかねない。1年以上延期すれば、増税実施は参院選の後になる。
 首相最側近の菅義偉官房長官は6日の会見で、山本氏の発言に「与党内での様々な議論にも耳を傾けていく。これは当然のことなんだろう」と述べた。

 ■安倍首相は「中立」強調
 政府・与党内で駆け引きが強まるが、首相は中立の姿勢を崩していない。
 8日までの国会論戦では、「消費増税は社会保障制度を維持し、国債の信認を守るために必要」としつつ、「景気が悪化し、税収が増加しない事態は避けなければならない」と両にらみの答弁に終始。7~9月期の国内総生産(GDP)の成長率などを慎重に見極める考えを繰り返した。
 増税すればアベノミクスによる景気回復の道筋が険しくなるが、先送りすれば「アベノミクスが失敗だったから」との批判を免れない。党幹部の一人は増税をめぐる首相の胸中をこう解説する。「どっちを選んでもいばらの道だ」

 ■消費増税に絡む今後の主な政治日程
<2014年11月17日> 7~9月期国内総生産(GDP)の1次速報
<12月1日> 7~9月期法人企業統計調査
<8日> 7~9月期GDPの2次速報 →首相が再増税するかどうかを判断?
<15年4月> 統一地方選
<9月ごろ> 自民党総裁選
<10月1日> 消費税の10%への引き上げ予定日
<16年夏> 参院選

 【図】
安倍政権の主な幹部、消費増税をめぐる立ち位置