「アベノミクスの仕掛け人」が語る製造業復活の処方箋

 

2013年5月号 別冊宝島

 

自民党経済再生本部事務局長 山本幸三氏に聞く
「アベノミクスの仕掛け人」が語る製造業復活の処方箋

被災地復興の財源は増税以外の手段でまかなう

――アベノミクスの仕掛け人として、その発端をお聞かせください。

 私は、未曾有の大災害であった東日本大震災の直後、早急な復興のために財源を確保する必要があると思いました。しかし、民主党政権は、復興を国民に負担を強いる増税でまかなおうとしていました。これをなんとしてもやめさせるべきだと思ったのです。そこで安倍さんに会長をお願いして「増税によらない復興財源を求める会」という議連を立ち上げ、勉強会を何度も開きました。その際、エール大学名誉教授で、安倍政権のブレーンとして内閣官房参与を務める浜田宏一先生などをお招きし、増税ではなく、国債発行と買いオペによる財源をつくるべきだとずっと提言し続けてきました。これが、デフレを脱却するための議連に変わり、インフレ目標を設定し、市中のマネタリーベースを増やすことでデフレ脱却と景気回復を図る政策へと動いた安倍総理の政策につながります。安倍総理の考え方は、これら議連の勉強会をもとにしたもので、その勉強会の発起人であった私かそのように評されることになったように思います。

金融緩和に反対だった日銀前総裁

―「アベノミクス」による経済効果とはなんでしょうか。

 デフレと円高からの脱却が可能になることです。日本を長く低迷させてきたデフレを食い止めるためには、日銀全体のバランスシートが大きくなることが必須条件です。国債を日銀が買いとり、市中のマネタリーベースが増えるかどうかが重要なことであり、安倍政権が行う金融緩和政策というのは、マネタリーベースの金額がどんどん増えていくことで、これにより、まず、予想インフレ率が上昇し、ひいては市中のお金が増えて、デフレが改善されていく。白川前総裁当時の日銀は、金融緩和にずっと抵抗し続け、見せかけだけの金融緩和を行ってきた。アベノミクスはこれを根本からただし、デフレから脱却することで、経済を再生させることでしょう。

――デフレは日銀の政策の影響だということですか。

 そうです。長い間、日銀は金融緩和を嫌がり、マネタリーベースを増やすことを極端に避けてきました。白川前日銀総裁は必ず、「金融政策だけではなく、構造改革がないとデフレ脱却はできない」と言ってきた。時代に合わせた構造改革はいつでも必要であり、デフレ脱却に必要というロジックは欺瞞にすぎない。長年私は言い続けてきましたが、デフレ脱却は金融緩和政策が不可欠。金融緩和を行い、マネタリーベースを増やすしかない。日銀の政策そのものが間違ってきたのです。しかし、現在では安倍政権が金融緩和政策をとるという方針を打ち出したこと、さらに日銀総裁が白川さんから金融緩和派の黒田元アジア開発銀行総裁に代わり、政策の潮目が変わりました。政権交代時に80円前後だった円かいまは94円台、8000円台だった日経平均がいまは1万2000円台で、総選挙後から市場が反応しています。これは、民主党政権では決して成し得なかったでしょう。

インフレ目標を2%とする公約を達成するためには

――マネタリーベースを増やすということですが、この意味と規模観をお教えください。

 マネタリーベースとは、銀行など市中にあるキャッシュと、日銀の当座預金の金額を合わせたものです。日銀は、国債を買ったときに銀行にお金を渡し、日銀当座預金の金額を増やすことによって、金融を緩和していく。この日銀当座預金の残高と市中のキャッシュを足していくらになるかが大事なんです。日銀は、金融緩和すると言いながら、このマネタリーベースを増やそうとしなかった。

 今、日銀当座預金が大体40兆円くらいで、これと市中にあるキャッシュ90兆円を足すと、合計が130兆円位になります。安倍政権は、インフレ目標を2%にすることを公約に掲げていますが、そのためには、これを160兆円にする必要がある。160兆円にすると、半年後位に「期待インフレ率」が2%くらいに上がる。そののちに、1年程度で実際のインフレ率も期待インフレ率に近づくんです。そのためには、なんとしても「期待インフレ率」を上げなければならない。そのためにマネタリーベースの増加が必要というわけなんです。

――銀行が貸し出さないから、キャッシュを増やしても仕方がないというのがメディアや日銀の論調でした。

 そこが違う。メディアも日銀の論調に従ってきただけです。まず、インフレ期待が高まるから企業は設備投資をするし、企業や個人がお金を使う。皆キャッシュは持っているんです。それを使わせるには、呼び水となるものが必要で、そのためにマネタリーベースを増やし期待インフレ率を上昇させるんです。そうするとマインドが大きく変わってくる。すでにインフレ期待から株価は上昇し、昨年秋から消費マインドが大きく変わってきています。とにかく期待インフレ率を上げないと話にならない。銀行貸し出しは手持ちの資金がなくなりかけたその後で伸びてくる。これからインフレになるというなら、その前に手持ち資金を使って設備投資をし、消費を促す。このロジックが正しいのに、メディアは日銀のコメントに引っ張られすぎた。その点において、金融緩和を一層進めると言う黒田総裁には、私は大変期待しています。

為替レートを安定させ地方の雇用を取り戻す

――円安効果は、日本の輸出産業にとって効果大でした。

 昨年末から、円安による輸出産業の業績改善がニュースとなりました。でも、円安というより、為替を本来の健全なレートに戻すこと。これが大切です。円は不当に高くあり続けてきた。その結果、輸出産業は打撃を受けた。高い技術とよりよい製品を世界に輸出してきた様々な日本のメーカーが甚大な被害をこうむり、次々と工場を海外へ移転させて、主に地方の雇用を失わせてきた。これを取り戻し、地方を活性化させて雇用を創出する。そのための最初にやるべきことは、金融緩和で為替レートを100円前後に安定させて、日本のメーカーに元気を回復してもらう。それがなにより重要だと認識しています。

――日本の輸出産業は、これから復活しますか?

 復活します。なんとしても復活させなくてはいけない。私はずっと「モノづくりの国として輸出産業を復活させ、地方の元気を取り戻す」と申し上げてきた。円安はその端緒にすぎない。私は、まず法人税減税が必要だと党内で議論を巻き起こしていきます。現在の法人税を20%近くまで下げ、さらに設備投資減税、研究開発のための減税、さらに給与を上げた際の法人税減税など、あらゆる手段で日本の製造業を復活させる。そのために、金融緩和を進めて適正な為替レートを維持する。とにかくデフレ脱却をしないと日本は再生しない。その最優先事項として現在進めている様々な政策をスピーディに行うことが求められます。

新規雇用への補助金や減税で日本を再生

――今後の政策として重要なのは?

 失業対策でしょう。非正規雇用が多く、若者を中心に仕事自体がない。直接雇用拡大に結びつくことだけでなく、製造業を復活させて、税制や規制緩和など、あらゆる点で雇用拡大へと政策を振り向ける。

 繰り返しますが、製造業の設備投資減税や研究開発、新規雇用のための補助金や減税をきちんと実行に移し、大企業が海外移転させてきた製造業を地方へと呼び戻す。疲弊している地方の製造業雇用拡大に重点的な政策を打つ。これがひいては大きな日本の成長につながり、日本再生への第一歩となると確信しています。私はそのための施策を安倍総理に提言し、政策をきちんと見守り続けようと思っています。

―-ありがとうございました。